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第四十八話 着物の女神と、想像主の家

「キリアさんの船すごいですね。豪華客船並みにでかいのに俺たちの魔石車と同じぐらいのスピード出てますよ。生活環境も凄い設備が整ってますし、風呂まであるのは驚きました」


「風呂はジャマングに行った時はまってしもうての。他の生活環境も女性冒険者としては嗜み程度じゃよ。速度は父上がフェニックスの魔石を提供してくれたおかげじゃな。妾もここまでの速度で船を走らせるのは初めてじゃ」


 超大型高速魔石船を軽々と操舵するキリアと驚くレン。クロとシロは久しぶりの風呂を満喫中。ニュートは航海の安全を守るというかキリアを守るため船の前方を飛行して真剣な顔で海を索敵および監視している。


 そんなニエフで最高最速の船旅であっという間にジャマングで一番大きな港町、中央都までやってきた五人。


「こりゃ本当に日本そのまんまだな……キリアさん、どこか米と醤油、味噌、日本酒、じゃなくて米から作るジャマング酒売ってるところ知ってますか?」


「町の中心まで行けば父上ならすぐに見つけられるじゃろうよ。ニュート、父上と共に買い物に行くのじゃ。クロ、シロ、二人が食材を購入する間に妾たちも良いものを買いに行くぞ。ジャマングが父上殿の故郷に似ているなら必ず喜ぶはずじゃ」


「はぁ……?レンが喜ぶもの?」


「ふふふ、キリアナイスチョイス。クロ、またレンが頑張ってくれるはず。行こう」


「あ、ああ、そういうことね……ぽっ」


 颯爽と街中へ消える女性三人に取り残されるレンとニュート。


「相変わらず女性の考えはよくわからんな……」


「キリアさん行っちゃいました……一緒にお買い物したかったです……」


 ジャマングでようやく日本の食材を購入できるのにどこか困惑したレン。キリアと買い物デート出来るかと期待していたのに裏切られるニュート。カレンの戦士男性二人はとぼとぼと町中へ向かう。


「あー、やっぱり日本食最高!!」


「確かにすごいですね。ご飯の上に刺身がこんなにたくさん……この独特の美味しいソースが醤油ですか?」


「ああ!!俺が求めてやまなかった醤油だ!!ニュートも気に入ったか?」


「はい!!刺身がますます美味しいです!!ご飯もジアン南部とは大分違いますね。すごくしっとりほかほかで柔らかいです!!」


「ニュート、刺身に醤油つけてから少しだけこれ乗っけて食ってみろ。たぶん気に入るぞ」


「この緑のやつですか?モグモグ……!!これは……今まで食べたこと無い辛さですね。鼻にツーンと来ますけどすごく爽やかです。刺身もご飯もより美味しいですね!!」


「よし!!ニュート、ジャマング食材を買い漁るぞ!!オリハルコン金貨使ってでも!!」


「どこまでもお供しますパパ!!」


 その後二人は米、醤油、味噌、日本酒に限らずありとあらゆるジャマング食材を買い漁ってはキリアの船まで何度も往復した。


 男性は食事に弱い。だがレンは特に好き嫌いが無い。その分特に好きな食べ物もないのだが、20年ぶり以上の日本食は暴走するのに充分なインパクトがあるようだ。


 ニュートも初めての日本米と刺身、醤油、わさびのコンビネーションにとりつかれてしまったようだ。よく似た親子である。

 

 レンはニエフで日本食に出会えたことに感動し、ニュートも初めての日本食に心奪われてキリアと買い物デートできなかったことなど忘れてしまったようだ。


 すっかり食欲も心も満たされて女性の長い買い物も全く気にならず船の前でぼーっとしている二人。


 そんなぼけっとしているレンとニュートの前に黒、白、金の女神が現われた。


「遅くなってすまんの。じゃが二人の反応を見る限りではしっかり吟味した甲斐があったようじゃな。クロ、シロ、どうじゃ?父上の反応は?悪くなかろう?」


 クロは珍しく白い着物を着ている。全体に桜のデザインを施された鮮やかな着物だ。レンが地球でよく見ていた日中の暖かい桜の美しさ。帯はクロの目の色と同じ蒼。白い着物とクロの黒髪のコントラストが美しい。


 シロも珍しく黒い着物を着ている。クロと同じ全体に桜のデザインを施された着物だが黒に桜が描かれているので夜桜のような美しさ。帯はシロの目の色と同じ紅。黒い着物とシロの白髪のコントラストが美しい。


 キリアは黒、白、金のやや太い直線が交差した複雑なパターンの着物。キリアの体形はクロとシロの体形を融合させた絶妙なバランスタイプ。体形が日本人の理想に近いので外見は外国人でもシックさとゴージャスさが匠の技術で統一された着物が本当の日本人のように似合っている。帯はクロ、シロと同じ目の色に合わせた金色。


 三人ともおそろいの髪型で長髪を結っており、そこに美しいかんざしがそれぞれ蒼、紅、金の装飾を施されている。


「「きれい(だ)(です)……」」


 レンだけでなくニュートもだくだくと鼻血を流している。露出度は低いが、女性着物特有のわずかに見えるうなじや手首足元などの男性が求める絶対領域に似た上品さ、女性らしさを兼ね備えた魅力が二人の心を総攻撃している。二人とも治癒魔法は限界を超えているのに全くクイックエイドを使う余裕がない。


「あ、あ、あわわわわわ、だ、大丈夫二人とも!?!?」


「さすがキリア。伊達に長く生きてない。グッジョブ。『クイックエイド』ふふふ、二人とも満足?」


「ほう、父上だけでなくニュートも妾三人に見蕩れとるの。やはり血はつながっていなくとも親子じゃのう」


 その後女性三人にずるずると引きずられて船まで戻るレンとニュート。


 すぐにマームに出発したのだが、キリアが正しい着物の着付けを学んでいるため、船旅中女性三人が着物を着るたびにレンとニュートが船上を血の海にしていた。


「あー……ここがマームね……まるで原始林だな……ううっ、頭痛い……ふらふらする……」


「すごい大自然ですね……カレンさんこんなところに住んでるんですね……あー、なんか目の前が真っ白に……」


「だ、大丈夫二人とも?」


「ふむ、『リバイブ』どう、少しは落ち着いた?」


 シロの治癒魔法1位のリバイブをかけてもらってもふらふらしている二人。


「ちとやりすぎたかのう?元々妾たち三人とも美人じゃし、少し刺激が強すぎたかの?クロ、シロ、ちょっとだけ父上の血をもらうぞ?よいか?」


 その瞬間クロとシロがレンの指先に小さい傷をつけ、二人とも片手に血を乗せてキリアに差し出した。


「愛されとるのう。ぺろぺろ……『リバイブ』これでどうじゃ父上、ニュート、限界を超えた治癒魔法なら充分に血液を補充して貧血から回復できたじゃろ?」


「サンキューキリア……うっ、すまん三人とも、クールウィンドウォール全力でかけるからもう少し何か羽織ってくれ……また着物の二の舞になりそうだ……『クイックエイド』ニュート、見ちゃダメだ。目の毒だ」


「キリアさんきれいです……」


 マームは比較的小さい大陸だが、赤道付近に位置しているためかなり暑い。そのためクロはキャミソールにホットパンツ、シロはチューブトップにホットパンツ、キリアはもはや上半身ビキニのようなものを身につけ、下半身はやはりホットパンツ。


 レンはクロとシロの裸に慣れているので何とか耐えているが、耐性のないニュートは刺激的過ぎる。レンに注意されてもキリアに目が釘付けだ。レンが全力で両手を使いニュートを目隠しする。


「そ、そうね……いくら暑くてもこんな格好してたらレベッカ母さんに怒られるわね」


「ふむ、確かに慎みが足りなかった。着替えてくる」


「妾も暑いのが苦手とはいえまたやりすぎてしまったの。すぐに着替えてくるのじゃ」


「パパー、キリアさんが見えないですー」


 じたばたと人外の力で暴れるニュート。


「馬鹿!!ニュートがこれ以上今のキリアを見たら結婚する前に死んじまうぞ!!」


「なんでキリアさん見て死ぬんですか?でも結婚できないのは嫌なのでパパの言うこと聞きます」


 レンの指示には大人しく従うニュート。しかし自分の鼻血による出血大量死の可能性に気づいていない。本当に結婚できるのだろうか?


 女性三人ともそれぞれ色の違うロングサマーワンピースに着替え、レンが全力のエアコン魔法をかけてなんとか想像主の家に向かう五人。ニュートもギリギリ鼻血は耐えているが相変わらずキリアがどんな服を着ていても目が釘付けである。


 レンが膨大な無駄魔力を使ってまで創造主の家にたどり着いた五人。


「意外と地味だな。カレンー、来たぞー、どこいるんだー?」


「ファルバの対談所が一階建てになって広くなった感じね」


「レンと同じで派手なものは嫌い。複雑だけどレンとカレンはやはり同一人物」

 

「ほう、初めて見るが主の息吹を感じるの。さすがは主からの贈り物じゃ」


「はいはい、いらっしゃい五人とも。ここが僕の家だよ」


 玄関らしきところからいつものカレンが出てくる。一応完全にされた人間。いつもの幻影より少し立派に見える。


「ようやく完全聖書渡せるな。早くとりだして厳重に保管してくれよ。もう奪われないでくれ」


「その前にみんな家の中に入って。家の中にいないと神様からもらった能力使えないんだ」


「なるほど、お前がニエフを作ってもその理想郷を実体験できない理由はそういうことか」


「そゆこと。対談所も今停止してるから早く早く」


 ぞろぞろとカレンについていく五人。


 一応リビングらしきところに通されたのだが、ソファーとテーブル、椅子が何個かあるだけで全く生活感がない。


「随分と質素な暮らしなんだな」


「僕は食事とか着替えとかお風呂とか必要ないからね。食べることは出来るから一応キッチンもあるけど。あ、一応トイレは作っといたから安心して」


「食事は出来るのか。ジャマングで買った米と醤油とか使って日本料理でも作ってやろうか?」


「んー、やめとくよ。僕はジャマングに行けないし、一度食べちゃうとまた食べたくなって余計に辛くなるから。さて、『エクストラクト』『インカーネイト』うん、しっかり21冊あるね。これでいつでもレンレンたちを世界中の対談所にワープさせられるよ」


「ファンタジー世界のお約束みたいな能力だな」


「レンレンたち限定だけどね。僕と同一人物のレンレンと深い絆で結ばれた人たちしかワープできないし、全員手を繋いでないと出来ない。それに大陸のどこの対談所に行くかも大雑把にしか指定できないから使い勝手は悪いよ。キリアの魔石船もここにおいておかないといけない。各地の対談所からここにワープで戻れるから大丈夫だと思うけど」


「で、そしたら次はどこの大陸に行くんだ?」


「レンレンは本当にせっかちだねぇ。久しぶりにウィリアムさんたちに会いたくないの?」


「それは……会いたいが……いいのか?ゆっくりしてても?」


「僕の予定ではレンレンたちが30歳ぐらいになってようやく旅に出るはずだったんだよ?今26歳ちょっとでしょ?クロちゃんやシロちゃんニュートくんキリアが家族になって予定が早まり過ぎてるから全然問題ないよ」


「そんな予定だったのか……クロ、シロ、ニュート、キリアさん、感謝する」


「レンは本当に変わらないわね。私はレンがいなかったらここにいないのよ?」


「ん、レンは変わらない。レンのおかげで私は今ここにいる」


「パパがいなかったら僕は死んでました。感謝するのは僕のほうです」


「父上が阿呆のカレンから転生とやらを受けなかったらニュートにもクロにもシロにも出会えんかった。父上よ、そんなに頭を下げるでない。父上は阿呆のカレンとはもはや別人じゃ」


「そうか……神様、俺にこんなもったいないすばらしい家族を与えてくれて感謝します」


「そういうわけだからゆっくりしても大丈夫。まずは完全聖書の封印を5人に手伝ってもらえないかな?5人とも魔法技術は僕よりも上だから僕の魔力を使って手伝ってほしい。その後レンレンにホーリーミスリルウォールを部屋の扉に全力でかけてほしい。少しイメージが難しいかもしれないけど、お願い。僕の魔力は一応ニエフで一番量が多いから何度でも試せるよ。あ、後リビングアウトフィット装備してきて」


「了解だ。ミスリルのチェックをしっかりして原子分子構造を把握する。ホーリーってのは神様の力ってことか?」


「馬鹿だからどこまで力になれるか分かりませんががんばります!!」


「ん、やり方を教えてもらえば出来るはず」


「今まで鍛錬してきた成果を全力で使います!!」


「早く封印とやらを終わらせてニュートと父上の実家で結婚したいからの。今すぐ教えるのじゃ」


「ホーリーってのはクリスチャン限定の聖属性だね。クリスチャンと相性のいいミスリルと併用すれば、破壊不可能な障壁になる。封印魔法も同じ属性のホーリーシーリングって魔法だから僕よりしっかりしたクリスチャンの四人ならより強力な封印が出来るはず」


 一度船に戻り装備を整えてからカレンに続いて広い想像主の家を歩く五人。


「それじゃまずはここで。よいしょっと。練習だからあまりがんばりすぎないで。僕が魔力を五人に渡すから、それをイメージでホーリーシーリングとホーリーミスリルウォールに変換してみて。それじゃ魔力を渡すね。ほい」


「ぐお!!」「きゃあ!!」「ぐっ、これは……」「すごい魔力ですね……」「くっ、伊達に想像主ではないということかの……」


「あ、ごめん、多すぎた?」


「も、問題ない」「や、やれます!!」「いける」「ちょっと多いですけどコントロールには自信があります」「魔力量は多いがそれだけじゃ」


「頼もしいねぇ。クロちゃん、シロちゃん、ニュートくん、キリア、神様のことをイメージしながら扉を封印して」


「「「「ホーリーシーリング!!」」」」


「嘘、一発で成功……いや、四人の信仰は確かだけど……っと、そんな場合じゃない、レンレン、ホーリーミスリルウォールを展開して」


「…………『ホーリーミスリルウォール』…………ふう、どうだ?」


「はぁ、レンレンもしっかり成長させられているねぇ。アブソリュートウォール以上の障壁だよこれ。しかもアブソリュートウォールと違って形あるものだから効果は永続的。もうこれで奪われる心配はないね。みんな少し疲れたろうから休むかい?」


「まだいける」「大丈夫です」「余裕」「なんだか気持ちが落ち着きます」「心地いい魔法じゃ」


「さすがはニエフ史上最強の五人組だね。でも僕の魔力も限りがあるから、今日は後9部屋ぐらいかな」


 その後順調に次々と完全聖書を封印していく五人。二日で全ての封印は終わった。


「はぁ、驚きも通り越して何も感情浮かんでこないよ……あんな簡単に封印して障壁を展開するなんてね……最後には魔力運用効率を最適化して一日で11部屋封印しちゃうし……」


「しかし完全聖書を俺達からカレンに渡したのに力が弱まってる感じしないな?みんなどうだ?」


「あまり変わらないわね?むしろちょっとすがすがしい気分だわ」


「同じく。むしろ魔力が増えた気がする」


「僕もなんだか不思議な感じがします」


「妾も若返ったような感じがするのう」


「その理由は僕が完全聖書を取り戻して想像主の加護が強化されているからだよ。レンレンには説明しなかったけど、想像主の加護はレンレンと深い絆と関係がある人にも効果があるんだ。単純に言えばレンレンが愛している人たちだね。ウィリアムさんやレベッカさん、マリーさんも強化されているだろう」


「レン……?私達やニュートはともかくキリアさんも愛しているの……?」


「レン、キリアがどんなに強くてもレンがキリアを愛したらキリアをアンチマターで消滅させる」


「いや、そんなことないぞ?俺が妻として愛してるのはクロとシロだけだ。なんでキリアさんも強化されているんだカレン?」


 あっさりとキリアを異性の対象として見ていないと断言するレン。


 怒りが一瞬で恥ずかしさに反転して赤くなるクロとシロ。


「んー、たぶんレンレンがキリアを尊敬しているからじゃないかな?クリスチャンの先輩として愛してるってことだと思うよ。後はレンレンが深く愛しているニュートくんがキリアにべた惚れだからかな?キリアのほうもニュートくんにべた惚れだしね。結婚したらもっと効果が出るかもね」


「キリアさん、イクスに帰ったら僕とすぐに結婚してください」

「もちろんじゃニュート、妾たちの愛の力で父上からの力がより受けられるなどこんな嬉しいことはこの長い人生でもなかったことじゃ」


 抱きしめあうニュートとキリア。


「あー、ニュート、キリアさん、そういうのは結婚してからな。カレン、もうすぐにでもエウレアのどこかにはワープできるんだろ?イクスで二人の結婚式してからしばらくゆっくりしてもいいか?」


「問題ないよ。なるべくカレンシュタインのどこかにはワープするようにするから。ただ魔石車は持って行けない。身に着けているものは大丈夫だから、なるべく金貨をミスリルとかオリハルコン金貨に換金して出来るだけ魔石車を購入する資金は確保しておいたほうがいいね」


「えーと、オリハルコン金貨が15枚、アダマンチウムが32枚、ミスリルは67枚だな」


「そんなに持ってるの……?キリアと同じぐらいの船が買えちゃうよ……まあいっか、それなら五人とも輪になって手を繋いで」


 レンが両手でクロとシロと手を繋ぎ、クロとニュート、シロとキリアが手を繋ぐ。もちろんニュートとキリアはがっちりしっかりばっちり手を繋いでいる。


「それじゃ行くよ。ちょっとショックが強いかもしれないから歯を食いしばって耐えてね。『カレンシュタイン・ワープ』ふう、初めてだけど成功したね。神様、この能力を与えてくださってありがとうございます。次はどこかな……リヴァイアサンでもベヒーモスでもキマイラでも大丈夫だろうけど……ガンジャン・シュウがやっぱり心配だなぁ……」


 無事カレンに完全聖書を届けられた5人。

 しばらくはイクスでゆっくりした生活が送れるだろう。

 後3体残っている完全聖書を持つSランク魔物も問題はないらしい。

 カレンが心配するガンジャン・シュウとは何者なのか?

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