第四十五話 雨季までの二ヶ月
アプシャンでたっぷりとリゾート気分を満喫した4人。
その後もカリフ東部沿岸に沿って移動し、ガニアザ国に到着した。
「魔法科学が発達してないって聞いてた割にはファルバとあんまり変わらないな」
「そうね。ファルバより暑いぐらいで見た目はあんまり変わらないわね」
「建築物はイクスとファルバを合わせたような感じがする。森も山岳地帯も多いから?」
「ファルバも大きい町でしたけどもっと大きいですね。人も大勢います」
4者4様のコメントをする4人。
確かにガニアザ国の首都グルガルは大きい町である。
ガニアザ国がカリフ大陸にある他国に比べかなり大きい国土をもつ国であるため経済力が高く、魔法科学が発達していなくともサギルの言っていたように生活に必要な各種魔石道具を輸入することができる。
また単純に建築技術なんかは魔法科学と関係ないため大きい国では自然と発達する。そういう理由でどこの大陸でも多少の文化的差異はあるものの大国の首都は地球と変わらず大きく発展した立派な町になることが多い。
「とりあえず宿探すか。その次に対談所でカレンと相談だな」
「これだけ魔石道具があれば涼しい部屋のある宿屋に泊まれそうね」
「ふむ、またいろいろおいしいものが食べられそう。楽しみ」
「魔石車も色々種類があるんですねぇ。僕みたいな変わった感じの見た目の人も多いです」
色々感想を述べつつ宿を探し、4人はカレンに会うため対談所へと向かった。
グルガルの対談所はファルバほど大きくないが、それでもしっかりとした二階建ての建物だった。
「グルガルではあんまり嫌われてないみたいだなカレン」
「レン、カリフの他の町でもカレン様はゼクルスみたいに嫌われてなかったわよ?」
「ふむ、カリフでフェニックスが崇められていてもゼクルスほどじゃない」
「そうですね。教会もたまにありましたし、クリスチャンの人も多くはなかったですけどいましたね」
「久しぶり4人とも。元気そうで何よりだよ。カリフの人たちはただその美しさを崇拝しているから、あまり狂信的じゃないんだ。出来るだけイエス様のことも伝えている」
「カレンが頑張っていてもクリスチャンが少ないのはやっぱり直接目撃できる神秘的なフェニックスをどうしても崇めてしまうってわけか。クリスチャンはイエス様を聖書を通して信じれば救いを受けられるけど、人間には目に見えない神様ってところが難しいところだよな」
「そうだね。聖書に神様を見ずに信じるものは幸いであると書いてあるけど、僕がイエス様のことを伝えても嫌な顔はされないけど、どうもぴんと来ない人たちが多いんだ」
「なんにしろカレンはカリフでもがんばっているわけか。さて、ガニアザ国には到着したわけだが、具体的にどうフェニックスを倒せばいいんだ?なにかいいアイディアがあるのか?」
「レンレンは相変わらずせっかちだねぇ。何度も焦らなくていいって言ってるのに。ガニアザ国にはレンレンが地球で大好きだったコーヒーがあるよ?」
「マジか!?」
「「「コーヒーって何?」」」
「コーヒーはエウレアにあったハーブティーみたいな飲み物だな。ハーブティーより色が濃くてもっと苦いが深みのある味だ。カレン、コーヒーはガニアザでも一部の人しか飲めないものなんじゃないのか?」
「ガニアザ国周辺ではコーヒー豆や茶葉がどっちも栽培されているから、普通に飲めるよ。それでも比較的高価だからあまり一般庶民の人たちは飲まないけどね。シロちゃんは絶対好きだろうけど、クロちゃんとニュートくんきっと気に入るチョコもあるしね」
「カレン、チョコとは?」
「シロちゃんが好きな激甘のお菓子だよ。地球の女性はみんな好きだったね。クロちゃんの好きそうな辛い料理も香辛料がエウレアより簡単に入手できて種類も味も豊富だよ。パンはあまり一般的じゃないけどね」
「レン、オリハルコン金貨を使ってでもチョコを手に入れる。そのためならフェニックスだろうと何だろうと皆殺し」
「レン、早く良いレストランを見つけましょう。レンが作ってくれる辛いお肉とどう違うのか確かめないと……」
「甘いものも辛いものも楽しみですね。パパの作ってくれるおいしいパンが食べられないのは残念ですけど」
「いや、そういう観光っぽいことが出来るのは嬉しいし、コーヒーも飲めるのはありがたいんだが……早くフェニックス討伐に行かないくていいのか?」
「雨季まで後二ヶ月以上あるからね。レンレンたちが異常な速さで最初の十冊を集めてくれたから僕の目的が予定よりかなり早まっているんだ。レンレンたちなら難しくはあるだろうけど、フェニックスぐらいなら倒せるはずだ。それまではガニアザの食文化を堪能するといいよ」
「フェニックスを倒すには雨季まで待たないといけないなら楽しんでおくか。すまないがまた甘えさせてもらうよ。ありがとうなカレン。同一人物だが本当の父親のように愛してるぞ。何度も言うが俺に幸せなクリスチャン人生と愛する家族を与えてくれて感謝する」
「レンレンのために転生させたのは決して嘘じゃないけど、僕の目的のためでもあるんだからそんな父親みたいに愛したりする必要はないよ。感謝するなら神様にしないと。それよりよだれたらしまくってるクロちゃんとシロちゃんどうにかしてあげて」
だらだらとよだれを流し、らんらんと輝く蒼と紅の瞳をレンに向けているクロとシロ。ニュートはそこまででもないようだが楽しみにはしているようだ。
「そうだな。神様に感謝しないとな。カレン、雨季になったらまた相談しに来るから。クロ、シロ、チョコも辛い料理もすぐ探すから。お金を多く払えばパンも食えないこともないだろう。じゃあ、またなカレン」
「チョコ……激甘……トロピカルフルーツよりも……?信じられない」
「辛いお肉……いや、グルガルは海にも近いからお魚も……自分で狩りに行こうかしら……?」
「パンも食べられるなら嬉しいです。パパ、早く宿に戻ってチョコとか料理とか手に入る場所を聞きましょう。このままじゃフェニックス討伐なんてできませんよ……」
レン以外カレンへさようならともいえずに対談所を去っていく四人。
「ふぅ、いよいよここまできたかぁ……でも、やっぱりジアンが不安だなぁ……あの国には、今の4人でも、簡単には超えられない壁がある……あの子達が、その時どんな選択をするのか……それまでは出来るだけ幸せでいさせてあげたい……神様、どうか四人がなるべく幸せな家族でい続けられますように……」
カレンは四人がニエフ史上最強となっても不安は尽きないようだ。四人の幸せも心から願っている。一体最後に待つジアンにはどんな試練が待っているのか?
そんなカレンの心境を知らず、クロとシロは超特急で宿まで戻り、どこにチョコがあるのかホテルマンをびびらせながら聞き出した。チョコは近くの高級菓子店で売っており、カフェも近くにあるらしい。シロは今にも飛んでいきそうだ。
四人が泊まっている宿は5階建ての高級宿なので、レストランも併設してあり、料理に関しては朝昼晩パン含めおいしいものが食べられるとのこと。魔物食材を持ち込めばさらに料金を割り引いてくれる。クロは今すぐにも魔物狩りに飛び出そうとした。
「こら、クロ、今昼過ぎだろ、夕食までは充分時間がある。まずはチョコ探しに行こう。シロもあんまり街中で飛び回るんじゃない。カフェは明日でいいから、チョコ探したら魔物狩りにいこう」
また珍しくレンから注意されてしまい、二人ともいつものレンと違う様子にときめいている。ニュートはあまり変わらない。赤ん坊のころから父親のダメダメなところも少しはしっかりしてきたところも見ているからだろうか。
高級菓子店でチョコレートを購入した4人。
「これがチョコ……トロピカルフルーツとはまったく違う……とろけるような甘さとそれを引き立てる苦味」
「確かにすごいわね……いつものケーキとかクッキーとかとは全然違うわ……甘すぎないし、苦いのも嫌な感じじゃない」
「おいしいですねー!!いくらでも食べられそうです!!」
「チョコレートは地球でも輸送技術が発達してから全世界で好まれていたからな。板チョコとかチョコチップみたいなのも買ったし、チョコケーキとかチョコチップクッキーでも作ってみるか」
ちなみにカレンが言っていたようにグルガルでもチョコレートは高価だ。板チョコが500ルンほど、クロとシロ、ニュートが食べているようなカリフにしか生息していないブル系魔物からとれた最上級の生クリームやバターなんかを使ったサイコロサイズの生チョコは一箱5000ルンもする。
5000ルンもあればかなり高級な料理が食べられたり、一日暮らすのに充分な金額であるため、また普通のチョコでも500ルンかかるためカリフの人たちは誕生日などの記念日にしかチョコを食べない。
レベッカもよくマリーやレンの誕生日にはケーキを作ってくれていたが、5000ルンはさすがに高い。そんな生チョコが大量に入っている箱からパンを食べるようにパクパク口に入れる三人。レンは地球時代からあまりチョコが好きでないためひとつ二つ程度口に入れている程度。
「三人とも満足したか?次は宿に戻ってチョコを冷蔵庫に入れてから装備を整えてクロご希望の魔物狩りをしておいしい夕食を作ってもらおう」
「問題ない。チョコのおかげで魔力が満ち溢れている。どんな魔物でも狩る。フェニックスでも」
「ごくり。ありとあらゆる魔物を狩りつくしてやるわ……チョコもまた食べたいからお金もほしいし……」
「料理も食べたいし、またチョコ食べるためのお金もほしいです!!」
ちょっとグルメ守銭奴みたいになりつつ四人は海でも草原でも山でも森でもありとあらゆる魔物を狩り続け、宿のレストランでは消費しきれないため冒険者ギルドにも売りに行った。
魔石と食材はエウレアと変わらない値段だったが、素材に関しては少し相場が低かった。やはりサギルの言っていたとおり魔法科学が発達していないため、鍛冶店などが少ないためだろう。
それでも充分すぎる収入を得たため、またガニアザに到着するまでちょくちょく魔物狩りをしていたので明日からもクロ、シロ、ニュートは腹いっぱいチョコを食べられるだろう。
さて、クロが楽しみにしている夕食の時間。
「こんなに豊富で上質な魔物食材を提供していただいたのは初めてでしたので作りすぎてしまいました。申し訳ありません。食べ切れなくても問題はありませんのでごゆっくりどうぞ」
シェフがそういって並べてくれた料理の数々はまるで満願全席のような状態だった。
「い、いえ、絶対に残したりしません……」
「クロ、お祈りしてからな」
「そ、そうね……」
4人は食前の祈りをしてから料理を堪能した。
「すごいわね……悔しいけどレンのつくる肉料理よりおいしい気がするわ」
「ん、サラダもすごく新鮮。ドレッシングも不思議な味がする。癖になりそう」
「パパたちの作ってくれる料理もおいしいですけどこれはなんか独特ですね」
「そりゃプロの料理人が作っているし、カリフの香辛料は俺が地球で使っていたものにより似てるからな。このシーフードカレーもうまいしな。あー、でもこんなうまいカレー食うとやっぱり米食いたいなぁ……」
「お客様お米をご所望ですか?」
「あるんですか!?」
「は、はい……一応グルガルも港町なのでジアンと交易をしております。一人前1万ルンほどになりますが……ご注文されますか?」
「ぜひ四人前、いや8人前お願いします!!」
「か、かしこまりました。すぐにお持ちいたします」
米一人前に1万ルン。確かにグルガルとジアン各国にも交易はある。しかしエウレア以上にジアンと距離があるためすごい値段になっているのだろう。
「おー!!久しぶりの米だ!!日本米じゃなくタイ米みたいな感じだけど。もぐもぐ……ぱくぱく……かっー!!やっぱり米は最高だな!!どの料理ともあう!!」
「これがお米なのね……?もぐもぐ……ぱくぱく……確かにお肉の味がより引き立つわね!!お米自体にあんまり味はないけど、さっぱりしてるのが逆にお肉の味を引き立ててるわね」
「すごい。パンとは全然違う。パサパサしているけれど食感がパンと全く異なる。確かにドレッシングの味を引き立てている」
「これがパパが探していたものなんですか?もぐもぐ、不思議な味ですね。確かにお肉もカレー?もサラダもよりおいしいです。すごい食べ物ですねぇ」
「シェフの方、米の在庫は充分か?」
「え、ええ……?高額なので注文されるお客様もあまりいらっしゃらないですし、お米は比較的長期間保存が可能なのでまだ50人前ほどの在庫はございますが……?」
「クロ、シロ、ニュート、全力でお金を稼ぐぞ。なんとしてもお米を毎日食べる。魔物狩りをすれば少しは鍛錬にもなるだろう。Aランク魔物をカリフから殲滅するぞ」
「いいわね!!Aランク魔物おいしいし。今晩の食材は最高でもBランクだったし、さらにお米が食べられてレンが喜ぶのなら私達も嬉しいわ!!」
「問題ない。お米はすばらしい。お肉もサラダもカレーもなんでもおいしくなる。なによりレンが喜ぶなら私達にとって最高の幸せ」
「そうですね、あとはパパが好きなコーヒーや紅茶も気になります」
「おっと、そうだったな、今日はそれらをわすれていた。まずはその2つを明日の午前中に楽しんで、その後魔物狩りにいこう」
ニュートのお陰でコーヒー、紅茶のことを思い出したレン。しっかりと計画を立てた。
計画通り、4人は午前中はコーヒーや紅茶、ケーキとチョコを楽しみ、その後カレンからAランク魔物の生息地を聞きだし、二ヶ月かけてガニアザ国周辺のAランク魔物はほぼ殲滅された。
グルガルの冒険者ギルドも驚いてはいたが、Aランク魔物の最高級魔力がこめられた魔石を見てほくほくしていた。
しかし、順調だった魔物狩りの最中、レン達は何度も上空を飛行する巨大な火の鳥を目撃した。
1ヶ月後の雨季。
それが訪れた時、完全聖書を手に入れるための、第二の試練が始まる。




