第四十四話 南国の休息、嵐の前
カリフ大陸に上陸し、カレンから聞いた目的地のガニアザ国まで向かうため現在カリフ東部沿岸地帯の大国アプシャンに到着し滞在している四人。
アプシャンは地球で言うところのエジプトのような国である。ニエフではヨーロッパに当たるエウレア、アフリカにあたるカリフ、アジアにあたるジアンが大きく海で分断されているため多少の差異はあるが、熱帯の気候と食物、豊かな自然などはおおむね同じである。
「きゃっほーい!!いやー、すごいわねーカリフの海って。本当にビーチからすごく近いところにサノティアよりもっときれいなさんご礁があるのね!!なにより暑いところで海に入るの気持ちいいー!!」
歓喜の声を上げながら超越者フルパワーで水蒸気爆発のような水しぶきを上げて泳ぐクロ。
「クロー、もうちょっとゆっくり泳げー。他の人がびっくりしてるぞー」
「マンゴーはすばらしい……至高の果物。パイナップルもいい……絶妙な甘さと酸味のバランス。パパイヤはあんまり甘くないけどさっぱりしている……幸せ」
トロピカルフルーツの魅力にやられまくっているシロ。クロの異常な水泳など眼中にないようだ。
「ほい、シロ姫様、バナナミルクですよ。マンゴーほど甘くないけど牛乳と混ぜてジュースにするとおいしいんだ」
シロは超越者フルスピードでバナナミルクを無言で受け取りごくごくと飲み干した。とろけきった顔をしている。感想も出ないぐらいおいしいようだ。
「太陽の光浴びながら海につかるのきもちいいですねぇ…………」
のんびりした感想を述べながら波にゆられてどんどん沖へと流されていくニュート。
「お、おい!!ニュート!!海には沖に流される海流があるから気をつけろって言ったろ!!くそ、遠すぎて聞こえてない!!『アクセラレート』『リインフォース』待ってろ!!」
かなり沖まで流されたニュートを発見し猛スピードで回収するレン。ニュートも暑さでやや熱中症ぎみになっているのかボーっとしている。補助魔法で力とスピードを強化しているのでニュートを担いで泳ぐのに問題はない。
その途中
「レ、レン……水着流されちゃった……どうしよう……これじゃビーチに戻れないよぅ……」
手ブラ状態で胸を隠しもじもじするクロ。実にあざとい。無意識なのでなおさらたちが悪い。
「なんちゅうお約束なことを……ニュートも今はぼーっとしてるだけだから大丈夫だろう。ニュートが流されないように気をつけて海に浮かべといてくれ『ハイパーセンス』『ウィンドウォール』ちょっと探してくるから待ってろよ」
レンは感覚を強化し顔の周りを空気の障壁で包んで海の中に潜っていった。
「なかなか見つからないな……『マジック・ハイパーセンス』これでどうだ?あった!!」
マジック・ハイパーセンスもオリジナル補助魔法で魔力感知能力が上がる。その能力でクロの魔力の残滓から水着を探し出した。
「ほら、クロ、探してきたぞ。あっち向いてるからさっさと水着着ろ」
「レ、レンなら見ててもいいけど……いつもしてるし……」
「いいから早く!!ニュートがそんな光景みたら死んじまう!!」
「そ、そうね……」
もじもじしながらもさくっと水着を身に着けるクロ。
なんとかビーチまで戻ってきた三人。未だニュートはボーッとしている。
ビーチにはなにやら男性が種族問わず密集している。レンが強化された五感で確認すると、未だトロピカルフルーツに夢中のシロを多数の男性がナンパしているようだ。シロは全く気づいていない。
レンは嫉妬の炎を、いやまずい、嫉妬でなく本当のプロミネンスを発動しかけている。
「レ、レン、プロミネンスはダメよ!!やり過ぎよ!!」
クロの注意で少し頭は冷えたようだが、それでも周囲の温度を上昇させ、悪魔のようにニッコリとして男性たちに告げる。
「お兄さんたち?人の連れにちょっかい出すのは止めていただけますかね?」
膨大な魔力を放って男性たちを震え上がらせるレン。男性たちは声も出せずに散っていった。相変わらず愛するもののためなら強くなれるがやりすぎである。
「シロ、トロピカルフルーツは確かにウマイがお前の魅力に群がってくる男は多い。注意してくれ」
しっかりとお姫様抱っこして真剣な目でシロに語りかけ、熱烈なキスをするレン。シロもようやくトロピカルフルーツの魅力から解放されて状況を理解したようだ。
「ごめんなさい、レン以外の話しかけてくる男は今度から魔法で半殺しにする。愛してるレン」
「むぅ、シロばっかりずるい。私も!!」
いつものシロの台詞でクロが訴えるとレンはシロをおろしてクロをお姫様抱っこする。
「どうした?クロ姫様はご機嫌斜めかい?でもクロも注意しろよ。お前たち二人は超絶美人なんだから」
注意しつつクロにも熱烈なキスをするレン。これもアプシャンにクリスチャンが少なく、見た目だけでは四人ともクリスチャンとわからないから出来ることだ。三人で結婚するというクリスチャンから忌避される大きな罪を犯してしまっている三人の悲しい幸せ。
「クロママもシロママもどうかしたんですか?顔が赤いですよ?暑すぎましたか?パパ、クールウィンドウォール使わないんですか?」
ようやく復活したニュート。真っ赤になっているクロとシロを見て心配している。
「だ、大丈夫よニュート、なんでもないわ。そ、そのうち治まるから……」
「ニュート、心配してくれてありがとう。でも大丈夫」
「二人が大丈夫って言ってるから問題ないよニュート。さてそろそろ宿に帰るかね。三人ともリゾートビーチは充分満喫したろ?」
「すごく楽しかったわ」「トロピカルフルーツは素晴らしい」「のんびりできました」
そういって四人はビーチのすぐ近くの水上バンガローに帰っていった。
その後、1週間ほど4人はアプシャンに滞在し、フェニックス討伐前の幸せな一時をリゾート気分で過ごしたレン一家であった。




