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第四十二話 戦いの後、家族の時間

 レンとニュートが死力を尽くして何とかゼクルス本体を消滅させてから一週間。


 クロとシロはなるべく大きい宿を探し、以前と同じようにニュートの部屋を遠くにしてレンを介抱した。


 レンは目覚めてからぼーっとしていたが、クロとシロがむさぼるように癒し続けたため、わずか二日でマジックコアが回復したのはいいのだが、体力が奪われすぎてゾンビのような状態になってしまった。


 ニュートは両親に二日もほっとかれて一人部屋の床で体育すわりしていた。直接ゼクルスを消滅させたのはニュートなのに――今回の最大功労者がこの扱いである。


 レンはゾンビのような状態になりながらもニュートを抱きしめてクロとシロに注意した。


「クロ……シロ……一番がんばったのは……ニュートだぞ……俺じゃなくて……ニュートを……褒めなさい……」


 レンはニュートを抱きしめながらそう言って今度は体力が尽きた。


「パパ、パパ!!大丈夫ですか!?クロママ、シロママ、事情は分かりますけどやりすぎです!今からは僕がパパを面倒見ますから!」


 息子からも注意されてしまうクロとシロ。ゼクルスに移動するまでご無沙汰な上レンの

命にかかわることだったので無理もないのだが、ちょっとやりすぎである。


「ニュ、ニュート、わ、忘れていたわけじゃないのよ……?や、やりすぎたのも反省してるわ……?ごめんなさい……?」


「性欲に流されてしまったことは認める。ニュートをかまってあげられなかったのもごめんなさい」


「え、いや、その……わ、わかってくれたならいいです……」


 美しい母親二人から上目遣いで潤んだ瞳でしっかりと謝罪され、抱きしめられると母親たちに甘いニュートはあっさりと許した。


 その後レンはニュートと同じ部屋に移り、クロとシロとは別の部屋で寝たが、食事の時や親子で集まるときはレンとニュートに定番の「はい、あーんして」をしたり必要以上にレンとニュートを撫で回した。


 家族礼拝の時と夜集まって聖書を一緒に読むとき、完全聖書を読んだ。


 今回取り戻したのは10冊。


 出エジプト記、第一列王記、伝道者の書、ヨエル書、オバデヤ書、ヨナ書、マタイの福音書、第一コリント人への手紙、エペソ人への手紙、ヤコブの手紙。


 読んだというか、理解したというか、見ると内容が直接頭に入ってくるのだ。それぞれの書に書いてある当時の状況や歴史的文化的背景なんかも頭の中に浮かび上がってくる。文字自体は見たこともないもので、ニエフはおろか地球にも存在しないものなのだが、なぜか理解できる。


 詳しい完全聖書の説明をカレンに聞きに行こうとした四人。しかしこの一週間宿にほぼ閉じこもりレンの癒しとニュートの機嫌を直すため、家族としての時間に集中していたため、ゼクルス本体が消滅して混乱の絶頂に陥っているゼクルス国民に気づかなかった四人。対談所まで行くとものすごい罵倒や罵り、カレンに死ねとまでいう者たちが大勢いた。


 対談所はカレンが神様からもらった贈り物のひとつなので、どんなに小さく、人の手入れがされずとも朽ちたり、破壊されることはない。それでも人々は対談所内外にかかわらずありとあらゆる手段で破壊しようと試みていた。


「どうするかね……?対談所で暴動が起きている理由は察しがつくが、これじゃカレンに会えないぞ?」


「そうねぇ、どうしようかしら……怪我させてまでとめるわけにもいかないし……」


「ふむ、偶像が無くなっても愚かな人間はそう簡単には変わらない。カレンがこれを機会にイエス様を信じなさいと言った。でも国民は聞き入れなかった」


「パパ、スリープウィンドウォールを使って眠らせればいいんじゃないですか?運び出すのに時間がかかるでしょうし、根本的な解決にはならないですが……」


「うーん、あれは深夜で元々眠かった人たちだったからかかりやすかったんだよなぁ。でもそれしかないか。ちょっと難しいが強くイメージしてやってみる……『ディープスリープウィンドウォール』ふぅ、どうだ?」


「眠ってる人もいるけど、ぼーっとしてるだけの人もいるわね。でも何とか入れそう。みんな、人を動かしましょう」


 クロの掛け声と共に眠っている人やぼけっとしている人を対談所から少し離れた場所に移動した。四人が対談所に入ると、疲れを通り越してゼクルス国民の頑固さというか強すぎる間違った信仰に頭を悩ませ眉間にしわを寄せているカレンがいた。


「カレン、すまないな。俺達のせいで大変なことになっちまって」


「いや、問題ないよ……とりあえずここの対談所だけでも暴動を止めてくれてありがとう。そもそもゼクルス本体を破壊してほしいとお願いしたのは僕だ。レンレンたちが謝る必要はこれぽっちもないよ」


「そうか。やっぱり聖書を読んで真実の神様を信じなさいといったのか?」


「うん、ゼクルスの偶像本体が消えてなくなったから、あれはただの動く機械で神なんかじゃない、消えてなくなってしまうような偶像じゃなくて永遠に変わらない神様を信じてほしいと言ったんだけど……まったく聞き入れてもらえなかった」


「人間のそういうところはニエフでも地球でも変わらないな。いずれすごい金額を使ってまたゼクルスを作っちまうだろうしなぁ。完全聖書を取り戻した以上あそこまでの力は出せないだろうが」


「カレン、大変なところ申し訳ないけど、説明がほしい。完全聖書を読んだ。でも見たこともない文字で書かれているのに理解どころか色々とイメージが浮かんでくる。どういうこと?」


「シロちゃん、申し訳ないけど、神様が書かれた特別な聖書だからって説明しか僕にも出来ないかな。あの文字はクリスチャンにしか解読できないものなんだ。レンレンたちが解読できて具体的なイメージまで持てたのはしっかりしたクリスチャンだという証だね」


「それは嬉しいですけど、カレン様これから大丈夫なんですか?」


「とりあえず人間には対談所を壊すことはできない。あと、対談所の機能は停止させていたんだ。ゼクルス国民の様子があまりにもひどくて見てられなかったし、僕にはゼクルスをもう一度作るためのアドバイスなんか死んでも出来ないからね」


「そうですか、カレンさんも大変ですね……でもカレンさんでなんとかできるなら安心しました」


「しかし旧約新約問わずめちゃくちゃな選び方の10冊だな。その辺も奪った連中が適当に持ってったからか?」


「それは僕の家に61の部屋があって、レンレンの好きだと言った6書は特に強力な封印をかけて保管していたからだね。他の書にももちろん強力な封印はしてあったけど、その、恥ずかしい話封印も特殊な魔法のひとつで、イメージ力で強化されるから、お気に入りの6書に比べると他の書を保管していた部屋の封印が弱かったんだ。だから、開けやすいところから奪っていったんじゃないかな」


「なるほどねぇ、色々大変だろうが、ニュートのおかげでエウレアの完全聖書は取り戻せた。次はどこに向かえばいいんだ?」


「次は、カリフかな……ジアンは最後にしたいから……それよりもレンレン、今完全聖書持ってきてる?」


「あんな重要すぎるもん怖くて宿に置いとけるか!!ここにあるよ」


「うん、ちょっと待ってね『コンセプション』……『アブソーブ』ふう、これで安全に保管できてさらに強くなれると思うよ」


 カレンが聞いたことのない魔法を2つ唱えると完全聖書は光の粒子となって四人に吸収された。


「これは……あれか?俺の好きだったあの物語みたいに伝説の武器や防具を体に直接取り込む方法か?」


「そんな感じだね。体と一体化していれば死なない限り完全聖書は再び具現化されない。集中すれば体内の完全聖書を読むというかイメージを受け取ることも出来るよ」


「さすがは想像主だな……」


「後はそうだねぇ……どうせカリフに向かうにはエウレアを南に進むから、ウィリアムさんやキョウヤ君にも完全聖書を見せてあげたら?エクストラクトとインカーネイトって魔法でまた取り出せるから。カリフから先に進めばマームで僕に完全聖書を渡すまでエウレアに帰ってくるのが難しくなる」


「マームでお前に完全聖書を渡せば簡単に帰ってこられるのか?」

 

「禁足事項です」


「それも久々だな。相変わらず秘密主義だし。とりあえず完全聖書を紛失したりしないってのは安心したよ。ところでカリフは何が完全聖書を持ってるんだ?」


「カリフは……フェニックス。カリフ全土で崇拝されている魔物だね。ゼクルスみたいにクリスチャンがまったくいないわけじゃないけど、その美しさから崇拝している人は多い」


「フェニックスか。どうやったら殺せるんだ?あれ地球だと不老不死じゃなかったか?」


「物理法則があるから不老不死ではないよ。吸血鬼と同程度の寿命や回復力、生殖能力だね。でも、群れで生息してるから、強力なフェニックス一体だけじゃなく他のフェニックスとも戦うことになる。幸いフェニックスの住む火山地帯には人が住んでないから今回のように周囲への被害を気にする必要はないよ」


「人殺しをしないですむのはありがたいが、フェニックス複数と戦うのか。飛行できない俺とクロは厳しいな。クロ、がんばって狙撃できるような遠距離水魔法や氷魔法習得しような」


「が、がんばる!!ニュートのおかげで全属性強化されてるから鍛錬すれば何とかなる!!」


「レン、私もアンチマター使えるはず。教えて」


「僕もアンチマターだけじゃなく水魔法や氷魔法も鍛錬します」


「レンレンとクロちゃんが遠距離攻撃魔法を習得するのも有効だけど、フェニックスは結構近距離戦で爪やくちばし、炎魔法で攻撃したりするから、飛行できなくてもそこまで問題はないよ。カリフまで行くのにかなり時間がかかるから、鍛錬の時間をしっかりとっても大丈夫。こんなに短い期間でもう10冊集めたんだから、焦らなくていいよ。イクスでも一月ぐらいゆっくりするといい」


「何から何までありがたいな。なるべく早くお前に完全聖書届けに行くからな」


「そのためには広大なジアン大陸を横断しないといけないから、時間かかるのはしょうがないよ。レンレンが楽しみにしてる米はジアンにあるし、ジャマングって日本みたいな島国に行けば醤油とか味噌とか酒もあるしね。カリフが終わったら世界旅行みたいな気分でマームまで来ればいいさ」


「それは楽しみなんだが……ニエフの世界もあんまり地球と変わらないのな。エウレアはヨーロッパだろ?カリフはアフリカだろ?ジアンもアジアだろうし。ジャマングは色々混ざってわけわからん名前になってるが」

 

「それはどうしても僕のニエフのイメージが地球から来てるせいだよ。自分の生まれ育った世界のイメージと違うものはなかなか想像しにくいからね。大陸の名前も僕が適当につけたし」


「なるほどね。とりあえずくそ寒いゼクルスを出発してイクスに帰るか。カレン、色々ありがとうな。ゼクルスはしばらく大変だろうががんばってくれ。カリフでも全力を尽くす。じゃあな」


「やっとイクスに帰れるー!!ってほど時間経ってないか、てへ。カレン様、ありがとうございました。これからがんばってください。これからもバリバリ完全聖書集めちゃいますね!!さようなら」


「ふう。イクスに帰れると思うだけで安心できる。早くイエス様の雰囲気に包まれたい。カレンもがんばって。これからも全力を尽くす。また今度」


「おじいちゃんとおばちゃん元気かなぁ。グレイスちゃんにもまた会いたいし。カレンさん、ゼクルスの人たちがイエス様を信じるのは難しいかもしれませんけど、がんばってください。これからもパパたちの力になれうよう精進します。さようなら」


 ゼクルスを出発する四人。


「ここまで早いとは……数年かかって10冊集められるかどうか、かと思っていたけど。相当な無理もしてるから当たり前か。僕にもっと力があったらなぁ……神様、僕を助けてくれる四人をこれからも守り導いてください」


 カレンは静かに祈った。


 カレンの想定よりも短期間で完全聖書を10冊集めた四人。しばしの休憩と鍛錬をはさみ次なる目的地カリフへと向かう。カリフの大地は四人を歓迎するのか、それとも厳しい試練となるのか。

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