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第四十話 最北の偶像国家

 カレンの情けない想像主としての失態を聞き、それを解決するためにエウレア大陸北部に存在する巨大宗教国家ゼクルスへとやってきたレン、クロ、シロ、ニュート。


「うう……やっぱりめちゃくちゃ寒いよぉ……ずびっ……犬に戻りたいような……でもそしたらレンと……どうしたらいいのぉー!!!」


「これは寒いというレベルの問題じゃない……羽毛が懐かしい……でもそうしたらクロの言うとおりレンとは……悩ましい」


「確かにものすごく寒いですね……どんどん体温が奪われていくような……暖かかったギルタン島が懐かしいです……」


「俺も寒いの苦手なんだよなぁ。カレンの馬鹿野郎が。よりにもよってこんなところのやつらに大事なもん奪われんなよな……しょうがない、『ウォームウォール』どうだ?暖かい障壁でみんなを包んでみたんだが、効果あるか?」


 街中で盛大に寒い寒いと嘆く四人。元ドラゴンのニュートは爬虫類系に分類されるから変温動物の名残でもあるのだろうか?今はちょうど街中も猛吹雪に襲われているので極寒なのは本当なのだが。


「暖かいわ……レン、ありがとう、愛してる」


「イクスの冬と同じぐらいになった。レン、ありがとう。愛してる」


「ギルタン島よりはまだ寒いですけど、これならコートで耐えられます。パパ、ありがとうございます。パパの防御魔法はすごいですね」


 レンはお風呂の温度を調整する要領で暖房効果を作り出しただけなのだが、キラキラした瞳でレンを見つめる三人。ちなみにクロとシロが動物時代にできた人や物を暖める能力は使えなくなっている。獣人になることにはデメリットも多少あるのだ。


「よし、とりあえずゼクルス偶像のある場所を探して、それから対策を練ろう。あと一応対談所も探しておくか。RPGだとこういう場合は酒場で情報収集かな?」


「「「RPG?」」」


「RPGってのは俺やカレンの出身国、日本にあったゲームだな。ニエフそのまんまの剣と魔法と魔物とか登場するゲームで、大抵は魔王や世界を破滅させる存在を倒すのが目的だ。カレンがニエフもそういうイメージで想像したんだろう。俺達の目的はなんか尻拭いみたいであんまりかっこよくないけどな。その中では酒場で情報収集したりするんだ」


「お酒ね……あんまり好きじゃないのよね……苦いし辛いし……レンの作ってくれる肉料理とは全然違う辛さだし」


「飲めないことはないけど、あまり好きじゃない」


「僕一回も飲んだことないですね」


「エウレアの酒はきついのが多いからな。南方のワインとかはうまいのもあったろ?後はやっぱり日本酒だよなぁ」


「「「日本酒も地球のもの(ですか)?」」」


「ああ、前言った米から作る酒でな。まろやかで口当たりがいいんだ。でもゼクルスじゃきつい蒸留酒しか期待できなさそうだ。まずは魔法が切れる前に宿屋を探してもう少し厚着してから酒場を探そう。酒をうまくする方法も考えてあるから」


 四人はでかいバッグを背負って極寒の街中を歩く。


 お金は結構あるのでいい宿に泊まれたのだが、そこら中にゼクルスの像が飾ってあり、気分の悪くなる四人。ちなみに部屋はレンとニュートが一番端の部屋、その逆の端の部屋にクロとシロ。理由はニュートの精神衛生上とレンのこらえ性のなさからだ。


 四人ともリビングアウトフィットの金属装備をはずし、もう少し厚着した。レンはなにやら瓶や金属のボトルをいくつかかばんに入れている。


 宿屋の受付で酒場の場所を聞くとすぐ近くに大きい高級酒場があるらしい。


「ふう、少しはましになったわね……でもレン、もう一回暖めて?」


「ふむ、むき出しの翼が寒い。レン、私ももう一回暖めて?」


「別の方法?よく分かりませんが僕も羽が寒いのでパパお願いします」


「はいはい『ウォームウォール』しかし、本当に寒いな……」


 すぐに酒場に到着した四人。高級酒場とは聞いていたのだが、店内はまばらに人がいる程度である。そして宿屋のものよりさらにでかいゼクルス偶像が飾ってある。げんなりする四人。


 そんな気分を振り切るためと、酒場で情報を得るためにはやはりいい酒を頼んで大金を店に支払うべきという鉄則に従い、一番高級で比較的アルコール度数の低いさっぱりした酒を一本とグラス四つ、夕食を大量に頼んだ。店員は狂喜乱舞してダッシュで酒とグラスを持ってきた。


「あー、店員さん、ちょっと酒に手を加えるがかまわないか?」


「もちろんかまいません!!お客様がどのようにお酒を飲まれても当店が禁止することはありません!!!こんなに高級なお酒を頼んでいただけるのですから、泥酔して暴力行為などされない限りは問題ありません!!」


「はいはい、あと、水を大量にお願いします」


「かしこまりました!!」


 店員が水を取りに言っている間、レンは瓶を数本とシェイカーを取り出す。


「クロ、シロ、ニュート、甘いのとかすっぱいのとか好きな味のジュースあるか?」


「私はすっぱいのかな。レモンとか」


「激甘で。桃とか」


「僕はちょうどいい甘さのりんごがいいです」


「はい了解。シロ、すまないがさすがに桃は用意してないからぶどうでいいか?」


「ぶどうも好き。渋くなければ」


「ちゃんと甘いよ。ほいほいと」


 地球での知識から見よう見まねでバーテンのようにシェイカーを振るレン。


 クロの前には黄色いお酒。


 シロの前には紫のお酒。


 ニュートの前にはちょっと赤いお酒。


 お酒が用意できたとき、店員が夕食とでかいピッチャーを3本ほど持ってきた。グラスも追加で四つ。


「不思議な色のお酒ですね?」


「ちょっとお酒が苦手なんでね。少し飲みやすくしたんだ。ところで、酔う前に聞いておきたいんだけど、ゼクルスの像本体はどこにありますかね?あと、対談所がどこにあるかご存知でないですか?」


「ゼクルス様を見に行かれるのですね!!ゼクルス様は国の中心にある王城の中庭におられます!!対談所は……すぐ近くの冒険者ギルドに聞けば分かるかと思います。あまりいい顔はされないでしょうが。それではごゆっくり」


 店員は最初四人がゼクルスを信じるのかと思って喜んだが、対談所という言葉を聞いてなぜか少しがっかりして去っていった。


「情報はつかめたが、王城の中ね……カレンにも一応相談に行くか。なにやら対談所の評判も悪いようだしな。まあとりあえず乾杯だ。気が滅入ってる時は酒を飲むのも悪くはない。ただきついだろうから注意して飲めよ。乾杯」


「「「乾杯」」」


 クロ、シロ、ニュートは夕食を食べつつそれぞれの酒を飲んでいく。


「くぅー、すっぱいけどおいしい!!割と甘いし、少し縁に塩がぬってあるのがいいわね」


「これは甘い……お酒とは思えない。飲みやすい。ごくごく」


「へー、お酒ってこんな味なんですね」


「それは半分以上果物を混ぜたカクテルだからな。クロのには少し砂糖も入れてある」


「「「カクテル?」」」


「カクテルも俺の、あれだ、あの知識だ。あっちではよくそうやって酒を飲みやすくしたりよりおいしくしたりするんだ。ほら、次作ってやるから水飲め水」


 エウレアにも各種の酒がある。ウィスキーやブランデー、ワイン、ビール、今回のウォッカなど。しかしエウレアに限らずニエフの人たちにとって酒は酔うためのものであり、宴会で大騒ぎするためのものである。酔えればいいのであまり味にこだわらない。王族や金持ちは超美味な超高級酒を飲む。


 だから安い酒をうまくするカクテル技術はあまり知られていない。ニエフの酒飲みからすると度数を低くし酔いづらくしてまでおいしい酒を飲むなど考えられないのだ。レンは地球でまずい酒を飲んで大騒ぎするのが嫌いだったが、本物の酒の味は好きだったため、家族においしいお酒があることを知ってほしかったのだ。


「レン~おかわり~」


「……おかわり……」


「頭がボーっとしますパパ~でもおいしいのでおかわりです~」


「全員もうちょっと水飲め!!」


 三人とも水を飲もうとするのだが、手元がふらふらしてこぼれそうになっている。


「しょうがないな、三人とも口あけて、よし『スローウォーターシュート』ほら、飲み込め」


 わざわざ魔法まで使って三人同時に大量に水を飲ませるレン。


「どうだ?少しはさっぱりしたか?」


「ん、ちょっとは……」


「すっきりしたかも」


「ボーっとしてたのは治りましたけどちょっと顔が熱いですね……」


「酒はうまいんだけどな。飲みすぎると酔いが回って危ない。ほれ、今度は三人一緒のオレンジのやつだ」


 三人ともレンの作るカクテルもどきに夢中で二日酔いの説明など聞いていない。


 その後もイチゴやグレープフルーツのカクテルを出したり、さすがにもう果物の種類がないためレモン、ぶどう、りんご、オレンジ、イチゴ、グレープフルーツのローテーションでさらにもう二本同じ値段の酒を四人、いやレンを除く三人で飲み干してしまった。レンも西洋人の体になっているため、酒には強くなっているのだが、獣人とは肝臓の力が尋常ではないようだ。三人とも酔っているがふらふらするだけで吐いたりはしていない。


「ありがとうございましたぁー!!またのご来店お待ちしております!!」


 クロとシロを両脇に抱きかかえ、ニュートを背中に背負って店を出るレンに元気よく挨拶と営業スマイルをする店員。合計100万ルンも払ったからボーナスでも出るのだろう。


 ニュートを部屋のベッドに寝かせるとグースカと気持ちよさそうに眠り始めた。二日酔いとは無縁そうだ。


 さてはて、息子が寝たならお待ちかねの夫婦の時間と思ったレンだったが。


「むにゃむにゃ……レン、愛してるわー……ぐー」


「んー……レン……がんばって……すー……」


 心底幸せそうに眠る二人。地球でもニエフでも酒の勢いに任せてそういうことをするものだが、レンは二人の幸せそうな寝顔を見てちょっぴり罪悪感、大きな満足感を覚えてニュートと同じ部屋へと戻って眠った。


 翌日。


「お酒ってあんなにおいしかったんだねー。レンまた作ってよ」


「あれは癖になりそう。また飲みたい。ダメ?レン?」


「なんかよく覚えてないですけど、おいしいもの飲んだ気がします」


「三人とももうちょっと量を抑えられるならまた作るよ。でもお酒は中毒性もあるし、ほどほどにな」


 和やかな会話をしつつ宿の朝食を取る四人。


 その後冒険者ギルドまでやってきたのだが


「ん?お前達以前も来たな?あの時はジャイアントキラーグリズリーを5匹も持ってきたから驚いたぞ。今はカレンの戦士達とか呼ばれてるんだったな。お前に似た珍しい格好の男が一人増えているが、新しい仲間か?」


 いきなりギルド職長から声をかけられてしまった。


「お久しぶりです。新しい仲間はニュートです。ところで前回はお聞きしなかったんですが、対談所の場所を教えていただけませんか?」


「対談所?またあの使えないカレンからなにかいい魔物でも紹介してもらうのか?」


「そんなところです」


「随分とあのけちくさいカレンに気に入られているんだな。対談所は国の端っこだ。ここから南の国境に魔石車で向かえば対談所まで2時間ぐらいだろう。またいい獲物持って来てくれよ。期待してるぞ」


「ご期待に答えられるよう努力します」


 なにやらゼクルス国民に本当に嫌われているらしいカレン。対談所に向かう車の中。


「なんとなくカレンが嫌われている理由が分かってきたな」


「そうね、ゼクルス国民の目的は分かりきってるし……それをカレン様が手伝うとは思えないわね」


「いくら想像主でもクリスチャンなら自分の作った世界の住人ためとはいえ偶像にささげる魔石の情報は教えられない」


「カレンさんも大変なんですね」


 そんなカレンの悩みを確信しながらもニュートがシロ並の運転技術を披露し一時間もかからずに国境付近までやってきた四人。対談所はすぐに見つかった。ファルバは愚かアビシアよりもさらに朽ち果てた小さな建物から冒険者が数人口をいいながら出てきていた。


「ちっ、何度聞いても上質な魔石の採れる魔物の情報を教えやがらねぇ!!しかも毎回ゼクルス様を信じるのをやめてイエスを信じろとか説教までしやがる!!ギルドで充分な情報聞いてるから別にいいけどよ。つかえねぇうざい想像主だぜ!!」


「まったくだな。ニエフのこと良く知ってんだからちっとは教えてくれてもいいのによ。俺達は必死だってのに……」


 カレンへの悪態をまったく隠すことなくイライラして対談所を出て行く冒険者パーティ。


 ちょっとカレンの苦悩が分かりつつ、対談所へ入る四人。


「よおカレン、久しぶり。ゼクルスでは苦労してるみたいだな」


「カレン様お久しぶりです。その、お気持ちは察します……」


「ゼクルス国民がカレンを嫌っているのはカレンの責任じゃない。カレンはがんばってる」


「カレンさんもクリスチャンだから複雑ですね……自分の想像した世界の住人が偶像に魔石をささげるためにカレンさんにその手伝いを頼むのは……」


「あー、四人とも久しぶり……ゼクルス偶像本体について分かったかい……?」


 四人が宿屋や酒場でゼクルス偶像を見てげんなりしていたとき以上に疲れきった表情をしているカレン。


「疲れているところ悪いな。本体は国の中心にある王城の中庭にあるそうだ。しかし国境までかなり距離のある王城に本体があっていいのか?戦争のとき本体が間に合わないんじゃないか?」


「んー、守護騎士の中にはシロちゃんやニュートくんみたいに飛行できる獣人や魔族がいて、見張り役をしてるんだ。だから敵国が攻めてきても早めに発見できて、それからゼクルスが馬鹿でかい道路を走って駆けつけるんだよ」


「確かに必要以上に大きい道路だったな。そういう理由か。まだ王城自体は確認していないんだが、城ってことはかなり厳重な警備がされているのか?それとも中庭は吹き抜けだろうから簡単に侵入できるのか?」


「そうだね、中庭もかなり頑丈で高い城壁で囲まれているけど、シロちゃんとニュート君の力を装備の効果で強化すれば高い飛行能力を発揮できるはずだ。だから城壁を越えて侵入するのは簡単だと思う。夜ならなおさらかな。ただゼクルス本隊にも敵を自動認識する機能があるらしいから、侵入は簡単でもその後は大変だと思う……ごめんね」


「謝るなって。お前の本当の目的も聞いたし、結果それを達成して何をするつもりなのかも知らないが、お前には今まで与えてもらった恩を返さなければいけない。またなカレン。完全聖書楽しみに待ってろ」


「カレン様、かならず間違った偶像のゼクルスをぶっ壊して完全聖書取り戻してきます!!」


「偶像の偽神なんて気持ち悪い。ばらばらにしてかけらも残さない」


「剣も魔法も全力で使って破壊して見せます!!ゼクルスが失われればカレンさんの働きでこの地にもクリスチャンが生まれるかもしれませんし」


 ゼクルス偶像を破壊する強い意思を宣言し出て行く四人。


「四人の実力ならゼクルスぐらい大丈夫だろうけど、レンレンも僕の目的が達成された後何かをするつもりなのは気づいているんだね……でもそれはレンレンのためなんだ……ごめんよ」


 完全聖書を集めることもカレンの目的なのだろうが、それを集めてさらになにか達成するべきことがあるらしい。レンのためとはどういうことなのか?


 いよいよカレンの四戦士最初の戦いが始まる。

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