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第三十九話 夫、父の覚悟

 カレンの本当の目的に向かうまでの一ヶ月。


 レン一家は以前ほどではないが頻繁にマリーのところを訪れ、そのたびマリーが四人に練習試合を申し込んだ。しかし、クロには同じ肉弾戦であっさり負けてしまい、町からだいぶ離れてやったシロとの魔法戦でもあっさりとやられてしまった。


 しかしマリーは懲りることなくめげることなく二週間ほど四人に挑み続けた。自分よりも強いものと戦うことで得られるという、成長する嬉しさを久しぶりに思い出してしまったらしい。


 しかし、四人がなぜ三日に一回もわざわざ自分に会いに来るのか不思議に思い、たずねてみた。


「カレンの戦士様とやら?どうして最近私に頻繁に会いに来るわけ?四人全員で愛する姉をぼこぼこにしたいわけ?いや、四人と鍛錬できるのは嬉しいんだけどね……この年でこれ以上成長するなんて思わなかったからいいんだけど……むしろ感謝するぐらいだわ」


 そう語るマリーの能力はたったの二週間で以下のようになった。


 剣術2位、攻撃魔法2位、防御魔法3位。


 いくら限界を超えているニュートの剣術、クロの体術、シロの魔法と戦い鍛錬しているとはいえ、短期間で成長しすぎである。もしマリーが結婚せずにレンたちと共に戦い続けていたらニュートによる強化を受けていなくても限界を超えていただろう。


 カシウス家はウィリアムやレベッカ、マリーのように冒険者よりも教会で働くことを選ぶが、そうでなければ全員限界を超えられる可能性を持っているのかもしれない。カシウス家は全員、クリスチャンとしても冒険者としても世界最高クラスのポテンシャルを持っている。


 ちなみにレンも鍛錬にちょくちょく参加していたが、あっという間にマリーに勝てなくなり、マリーの回復役に戻ってしまった。しかし、昔を思い出すのか勝てなくなったのに嬉しそうなレン。レンが必要以上にリジェネレイトとギガヒールを全力で使い続けているため、マリーがますます若々しく元気になってしまい、キョウヤが目をごしごしとこすっていた。


「姉さん、かわいい弟妹達が愛する美しい姉とそのかわいい娘に会いに来るのに理由がいるかい?」


 皮肉っぽい感じで質問を質問で返すレン。姉をかわいがるいやらしい方法を覚えてしまったようだ。


「いや、別に四人と会えるのは鍛錬抜きにしても嬉しいけど……でも何か事情があるんでしょう?話しなさい」


 愛するとか美しいとかグレイスに会いたいとか言われて赤くなってもじもじするマリー。レンはそんなマリーを見てニヤニヤと笑みを浮かべながら軽い感じで説明する。本当に性悪になってしまっている。やはりカレンと同一人物だ。


「うん、俺達二週間後にカレン様の目的へ出発することになったんだ。もしかしたら一生帰ってこない可能性もあるね。クロ、シロ、ニュートは全力で守るけど」


「馬鹿!!何で早くそれを言わないのよ!!私と鍛錬なんかしてる場合じゃないでしょう!!」


 大声で叫びながらマリーは四人全員を泣きながら抱きしめた。マリーも一生帰ってこないというところから四人が死ぬかもしれないとすぐに理解したのだ。早く言えといわれても会うたびすぐに鍛錬をふっかけてきたのはマリーのほうなので、言い出すチャンスがなかったのだが。


「ママ、どうして泣いてるの?お兄ちゃん達どうかしたの?」


 当年四歳のグレイス。初めて母親がここまで泣き叫ぶところをみてびっくりしている。


「あー、グレイス、悪いな。ちょっとグレイスのママに言いそびれてたことがあってな。それでママを怒らせちゃったんだ。ごめんな」


 マリーの抱擁をひょいと抜け出してグレイスを抱っこしながら説明するレン。


「レンおにいちゃんもママと同じ抱っこするね。優しい。レンおにいちゃん好き」


 そういってレンのほっぺにキスするグレイス。


「おっと、びっくりした。グレイス、そういうのは男の人にあんまりしちゃだめだぞ、俺は一応家族だから大丈夫だし、すごく嬉しいけど。後、俺はお兄ちゃんじゃなくおじちゃんだぞ。レンおじちゃんだ」


「そうなの?」


「そうだ。レンおじちゃんだ」


「うん、わかった!!レンおじちゃん好き!!」


 ぎゅっと抱きしめてくるグレイス。レンもニヤニヤせず心底ニコニコしている。


「まったく、そういう事情だったら今してるみたいにしっかりグレイスを家族として愛してあげてよね……残り二週間はもう鍛錬してもらわなくていいから、うちに来る時はゆっくりなさい」


  そういってようやく落ち着くマリー。レンがクロ、シロ、ニュートに順番にグレイスを抱っこさせた。


 その度にグレイスはクロの耳をさわったり、胸に顔をおしつけ、シロの羽をさわったり、胸に顔をおしつけ、ニュートの角や翼、尻尾などさわってから胸に顔をおしつけてさらにぐりぐりしてしあわせそうにしていた。


 クロ、シロ、ニュートもすごく幸せそうであった。


 その後キョウヤも交えて、家族での昼食や家族のふれあいや語らいなど幸せな時間を2週間過ごした7人。


 夕飯はカレンに出発を告げられてからずっとウィリアムとレベッカ、ライオンハート一家をレン一家の家に招待してみんなで食べている。


 男性グループ、女性グループ、家族、夫婦でそれぞれ風呂にはいったり、イクスが発展したためカードゲームやボードゲームなどが手に入るようになり、色々なゲームをみんなで遊んだりしていた。


 この一ヶ月間は鍛錬とニュートの学びが終わったため、教会で奉仕する時間以外をレン、クロ、シロ、ニュート四人全員で魔物狩りをし、毎日1000万ルンを稼いでそのうち100万ルンをウィリアムに、500万ルンをマリーの学校に、キョウヤに100万ルンそれぞれ献金と学校の運営資金として渡した。


 最後の幸せな時間かもしれない一ヶ月が終わり、完全修復された装備と旅支度を整えてカレンの四戦士は対談所へと向かった。


「カレン、準備は完全に整った。父さんたち、姉さんたち、ライオンハートさんたちとの悔いのない幸せな時間を与えてくれて感謝する。お前の目的を教えてくれ」


「……レンレン、なぜクリスチャンがニエフに少ないか分かるかい?」


「ん?だいたい地球と同じ理由じゃないのか?偶像とか無宗教とか精霊信仰みたいな魔物崇拝してる人たちなんかもいるって聞いたことがあるが。それをぶっ飛ばしてイエス様のことを信じる人たちを増やせってのか?」


「レンレンの予想はおおむね正しいよ。偶像を作る人間もいるし、無神論者もたくさんいる。ニエフではSランク魔物が人を助けたり稀にだけど逆に襲ったりして、それを感謝して崇拝したり魔物の怒りを静めるためにささげ物をしたり祈る人たちもいる」


「地球でもそういうのはたくさんあったからその辺は人間の本質的な罪の問題なんじゃないのか?だが、カレンはそれらをぶっ飛ばして来いって言いたいのか?」


「……結果そうなるかもしれないけど、それらの宗教を滅ぼす必要はない。レンレン、好きな聖書の書は何がある?」


「急によく分からん質問だな……?でも、そうだな、創世記、ヨブ記、詩篇、ルカの福音書、それとセットの使途行伝、後はヨハネの黙示録かな。それがどうかしたのか?」


「……色々違う経験をしても同一人物だねぇ。僕もその六つの書が好きなんだ……僕は神様からニエフでも地球と同じようにイエス様のことを伝えて人々をクリスチャンにするよう命令された。そのときに神様じきじきに書いてくださった完全な66巻の聖書をもらったんだ。他にも解釈書とか色々もらったけど」


「そういやそうだな。たしかにそういうのもあった。俺には難しすぎて読めなかったり理解できなかったりしたが。お前がまた神様に色々手伝ってもらったってことは分かった。それが目的と関係してるのか?」


「……解釈所なんかは大丈夫なんだ。ウィリアムさんたちが使っているように失われていない…………問題は神様からもらった完全な力ある聖書なんだ。その聖書はクリスチャンが読んで理解するとより神様のことが近くに感じられて強い力を得ることが出来る。僕もそれで自分の想像力を強化してニエフを作った」


「お前、問題ってまさか…………失くしたんじゃないだろうな…………神様からの聖書…………?」


「すいません…………奪われました…………」


「なんちゅう罪深いこと…………なのか?でもなんで奪われたんだ?その聖書を読んで理解すればクリスチャンなら強くなれるんだろうが、クリスチャンならそもそも奪ったりしないだろう?」


「この世界の魔力ってエネルギー自体も神様からの贈り物なんだ。魔という文字がついているけど、神様からの力だから神力とでも呼ぶべきものなのかな」


「魔力の説明は理解したよ。それと完全聖書を奪われたことと何か関係あるのか?」


「レンレンの言う完全聖書にも神様からの魔力がこめられている……もちろんクリスチャンが読んで理解しないと力を完全には引き出せない。それでも神様からの直接の力がこめられているから、所持しているだけでも人間や魔物に強大な魔力を付加してしまうんだ」


「はぁ……なるほどねぇ……力におぼれた連中がこぞってカレンを襲って……ってお前ニエフに実体あるのか?」


「うん、僕は神様に魂だけじゃなく肉体も完全にされているからね。対談所でみんなが見る僕は立体ホログラムみたいなものかな。僕の本体はマーム大陸にある」


「マーム大陸……地球で伝説とされていたムー大陸みたいな場所か。そこに保管していた完全聖書を奪われたと?」


「うん……最初は僕も66巻全部もっていたから今よりも力があって、なんとか防いでいたんだけど、時間が進むごとにレンレンたちみたいな超越者が多数現われて、僕を動けなくして奪っていったんだ……」


「はぁ、自分の想像した世界の住人に負けるなよ想像主様……死んではいないんだろうが。ということは奪われた66巻全部取り戻してくれってことか」


「いや、取り戻してほしいのは60巻だよ。さっきレンレンが好きって言ってた6巻はなんとか守りきった。それがなかったらニエフを見渡すことも出来ないし、対談所や他の神様からもらった力も使えなくなる……他にも取り戻してほしい理由はあるけど、今は内緒」


「いつも思ってたが結構秘密主義者だよなお前。で、どこに何巻あるんだ?」


「マームを除いたニエフの6大大陸にそれぞれ10巻ずつ。最初はやっぱり今レンレンたちがいるエウレアかな……?」


「エウレアでのキリスト教以外で大きな宗教って言えばゼクルス教か?エウレア北部一帯の巨大宗教国家だよな?Aランク魔物討伐中にも行ったがクリスチャンなんて一人もいなかった国だ」


「うえー……カレン様、またゼクルスに行かないといけないんですか……?あそこめちゃくちゃ寒くて教会もないしクリスチャンも一人もいないうえなんか雰囲気暗いんですよねぇ……」


「寒いのはいや。イエス様の雰囲気がかけらも感じられない。みんな死んだような目をしてた」


「僕は行ったことないですけど……あまり居心地のいい国ではなさそうですね」


「四人ともごめんよ……ゼクルスの人たちが生気のない顔をしてるのは、そのまんまの名前のゼクルスという偶像に魔石をささげ続けているからなんだ」


「そういややけに魔石の買取値が高かったな?なんで偶像なんかに魔石をささげるんだ?普通は金とか農作物、家畜とか最悪の場合人間の命とかだろ?」


「僕も詳しい構造は分からないんだけど、魔石車のように魔石をエネルギー源として動くオリハルコン製の偶像らしいんだ。巨大な分魔石が大量に必要で、冒険者は死ぬほど魔物狩りをして魔石を集め、他の国民もほぼ全財産を費やして遠い国から魔石を輸入したりしてる。だからみんな元気がないんだ」


「なるほどね、エウレアも北部はあまり平和じゃないし、戦争もたまにあるからそのゼクルスってのが必要なわけか。しかしオリハルコン製で100メートル以上ってドラゴン並みの耐久力がありそうだな」


「うん、ゼクルス自体は耐久力と攻撃力は強いんだけど、ロボットみたいなもので自動で動くから戦い方は単調なんだ。でもそれを守っている守護騎士たちがかなり強くて人数も多い。かなり厳しい戦いになるはずだ」


「守護騎士ね……人間とも戦うことになるわけか……殺人は……嫌だな」


「ごめんね。ちょっと難しくなるかもしれないけど、レンレンたちの実力なら守護騎士たちを殺さずに無力化できるかもしれない。他の大陸、特にジアンなんかには吸血鬼や限界を超えた人間がいるだろうから、結果人殺しをさせてしまうかもしれない……」


「今更だな。俺はもう自分が助けられるためにクロとシロに大きな罪を負わせてしまった。今度は俺がどんな罪を負おうともクロとシロ、ニュートを助ける。それだけだ。殺人は大きな罪だがそれを背負ってでもお前に恩を返す」


「レン!!」


「レン……いい覚悟」


「パパァ…………ぐすっ…………」


 四人抱きしめあい家族の絆を肌で感じている。レンは決然とした表情でカレンに告げる。


「カレンの戦士としてこれからゼクルスに向かう。ゼクルスにも対談所はあるのか?前は見かけなかったが?」


「レンレン……うん、小さいしぼろいけど国のどこかにあるはずだよ。レンレン……ありがとう。ごめんなさい」


「謝らないでくれカレン。お前は俺に最高のクリスチャン人生のやり直しを与えてくれて、愛すべき、守るべき家族も与えてくれた。じゃあまたなカレン。ゼクルスで会おう」


「さようならカレン様。がんばってきます!!レンとシロとニュートを守ります!!」


「またゼクルスで。レン、クロ、ニュートは守り抜く。命に代えても」


「カレンさん、パパとママ達に出会わせてくれてありがとうございます。パパとママ達を竜人の力を全力で使って守り抜きます」


 いつもの挨拶に加え、互いを守りあうと宣言し出て行く四人。


「ついにこの時が来た…………神様、僕の身勝手な計画に四人を巻き込むことをお許しください」


 四人がクリスチャンで超越者であっても、いやクリスチャンで超越者だからこそ自分の目的のために殺人をさせることが怖いカレンの祈り。


 それぞれの想いを抱えて四人はゼクルスへと向かう。

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