第三十八話 始まりの終わり
ニュートの装備を作ってから半年。
レン一家は鍛錬、魔物狩り、教会での奉仕をどれも手を抜くことなく全力でやりきった。
ニュートは週に三回ウィリアムから学びを受け、クロの優しく感情豊かな性格とシロの賢く冷静に考える性格を受け継ぎ併せ持っているため、たった三ヶ月ほどでウィリアムからクリスチャンとしてイエス様に従うべきことを理解していると判断された。
「ニュート、お前はとても優しく賢い子だ。もう信仰告白をして、私が洗礼を授け、レンたちと共にクリスチャンとしてイエス様に従っていくことは充分に出来るはずだ」
そうウィリアムに促されたのだが
「いえ、おじいちゃん。僕にはまだ聖書の理解が足りないと思います。僕はまだ自分の信仰に自信がありません。だから、もう少しだけ学びを続けさせてもらえませんか?」
ニュートは正直に自分の信仰を告白し、もう少し学びをしたいと告げ、さらに三ヶ月ほど学びを続けた。ニュートが自分の信仰に自信を持てないところはレンに似てしまったのだろうか?
しかしその結果、ニュートは聖書に書かれているほぼすべての事柄を完璧に学んだ。
たった三ヶ月だったが、あっという間にこれらの知識を吸収してしまったニュート。もうレンやクロ、シロよりも聖書の理解は深いだろう。ウィリアムは嬉しいのか困っているのか苦笑いをしていた。しかしそれでもなかなか自分の信仰には自信が持てないようだ。
それでも洗礼式は行われた。
「ぼ、僕、ニュ、ニュートはしゅ、主である神様、父、子、聖霊を信じます。ぼ、僕に助けと導きを与えてくれるせ、聖霊様によってこれからもクリスチャンとしてせ、成長させていただくことを信じます。以上が僕の信仰告白です」
イクスの教会で多くの教会員に見られながら信仰告白をするのが恥ずかしいのかどもりながらもしっかりと宣言し、ウィリアムから洗礼を受けることが出来た。
レンは今回、劣等感を感じなかった。むしろ息子であるニュートがしっかりと信仰告白をし、洗礼を受け、クリスチャンになってくれたことが嬉しくてたまらないのだろう、涙を静かに流している。
クロとシロもまた、静かに涙を流していた。
この半年間はニュートのクリスチャンとしての成長だけでなく、レン、クロ、シロと共に
新しい装備で鍛錬を積み成長した。鍛錬は以前ウィリアムたちに対人戦闘指導をしてもらったスタイルをとり、レン、クロ、シロが順番にニュートと戦った。
ニュートは冒険者としての能力も桁外れだったため、鍛錬の最後の一ヶ月はレン、クロ、シロ三人がかりでニュートとようやく互角といったレベルになった。
四人の能力は、一部チェックで把握できなくなってしまった。結果が一部不鮮明なのだ。レンは治癒魔法と防御魔法、クロは体術、シロは攻撃魔法、ニュートは剣術と攻撃魔法がわからない。
チェックで階位は簡単に調べられるはずなのだが、どうにもおかしい。そのことをカレンに相談しに行くと
「嘘でしょ、人間の限界を超えている…………こんなこと長命な吸血鬼にも滅多にないのに。いや、人間でも亜人でも魔族でもすさまじく長く苦しい鍛錬の果てに限界を超える人もいるけど…………レンレンたちは早すぎる…………」
そんな唖然とした表情をしてしばらく微動だにしなかった。どうやら階位1位というのは人間が達しうる限界のようなもので、極稀に長い時間を生きて鍛錬し続ける吸血鬼や他の種族も長い鍛錬の果てに限界を超えることがあるらしい。
だが、カレンも現在全員30歳にも満たないレンたちがそれを突破してしまうとは予想していなかったようだ。
「ならいつでもお前の目的に出発できるな。もう充分だろ?そろそろ教えてくれよ」
「う、うん、そうだね。今のレンレンたちなら間違いなく僕の目的を達成してくれると思う……で、でもさ、装備も多少傷ついてるし、一ヵ月後にしない?マリーさんのところにもまだ行ってないみたいだしさ……しばらく家族と会えなくなるからしっかり挨拶したほうがいいよ……」
「よし、一ヵ月後だな。それまでは父さん母さん姉さんとしっかり家族の時間を持つか。じゃあまた来るからなカレン」
そういって出て行く超越者の四人。
「はー、心臓に悪いよ……もともと三人とも強かったけど、ニュートくんとの鍛錬とパスで体も装備も強化されちゃうなんてね……ニュートくん自身もレンレンたちから強化されてるし……これなら大丈夫かなぁ……」
相変わらず四人の強さに圧倒されて罪の刈り取りを忘れてしまうカレン。あんな異常成長速度では無理もないかもしれないが。
ちなみに魔物狩りのほうも順調であり、ニュートが学びを受けている日は以前と変わらずレン、クロ、シロの三人で600万ルン、ニュートが加わって四人の日は1000万ルンほどの日給であった。
以前のように冒険者ギルド職員をブラック企業のような状態にしたり、ウィリアムにも半分ほど献金したためウィリアムは鬼のような形相で、必死にアルーゼまで届けに行ったりしていた。
イクスも再び特需のような状態となり、もう田舎町とはいえない規模にまで発展してしまった。レンたちがいなくなっても、マリーの学校で優秀な冒険者達が多数卒業しているため、これからもイクスとアルーゼは発展し続けるだろう。
カレンに勧められてマリーとグレイスに会いに行くことにした四人。そしてファルバの恩師であるトライアードの元にも向かい、結婚の報告とニュートの紹介をすることにした。
「姉さん、久しぶり、元気だった?おお、グレイス大きくなったなぁ。今何歳?」
「マリー姉さんお久しぶりです。元気そうですね。グレイスもかわいくなってきましたねー。クロおねえちゃんですよー」
「久しぶりマリー。グレイスもかわいい」
「は、はじめまして、このたびレンさんの仲間になったニュートといいます!!!」
「あら、三人とも久しぶりね?しばらく来なかったけど何してたの?グレイスは4歳になったところよ。ニュートくん?どういう知り合いなの?」
「またちょっとカレン様から頼まれてエウレアを旅してたんだ。そのとき出会ったのがニュート。俺達じゃかなわないぐらい強いよ。それなのに兄弟みたいに親しくしてくれてるんだ。まだ15歳だから俺達から見ても弟みたいな感じだね」
「へぇ、確かに強そうね。でも見たことない人種の人ね?魔族と何かの獣人のハーフ?」
「うん、爬虫類系獣人のお父さんとすごく魔法のうまい魔族のお母さんがいたんだってさ」
「ふーん、ちょうどいいわね。強い相手がいないから退屈してたのよ。学校もすぐそこだし、ちょっと練習試合しない?ニュートくん武器は何?」
「け、剣を使います」
「私と一緒ならやりやすいわね。クロ、シロ、ちょっとグレイス見ててもらえる?」
「はい、ぜひ!!グレイスちゃん、クロおねえちゃんと遊びましょうねー」
「ん、まかされた。小さい女の子はかわいい」
「よし、ニュートくん行くわよ、レン、ついでにあなたも鍛えてあげるわ。うふふふふふ」
力強く楽しそうに指導することを宣言し、ちょっとバトルマニアっぽい笑みを浮かべながら部屋を出るマリー。
レンは小声でニュートに注意する。
「ニュート、姉さんに気づかれない程度に手を抜いてくれ。お前の実力だと木刀でも死にかねん。最後は勝ってもいいから」
「わかりました。パパの愛してるお姉さんを殺しちゃまずいですもんね、ふふ」
「まったく、お前母さんのところに預けるようになってから母さんに似てきたな」
そんなことを言いつつ学校へ向かう二人。
「遅いわよ!!何やってんの二人とも!!見た目だけじゃなく行動まで似てるわね!!」
「「はい、すいませんマリーお姉様!!」」
「いいから受け取りなさい、ほら」
マリーは恐ろしくでかい木刀を投げ渡す。レンたちのバスターソードと大きさが変わらない。
「ね、姉さん、いつもこんなの授業で使ってるの?」
「それは一番上級者向けよ。レンとニュートくんなら大丈夫でしょ。じゃあニュートくんから行くわよ。はい構えて。せいっ!!」
マリーも剣術3位の実力の実力で同じ木刀を袈裟切りに振り下ろす。しかし剣術が限界を超えているニュートにとっては児戯にも等しく、スローモーションのように見えていた。余裕だが手を抜けといわれているため紙一重で回避するニュート。
「おっと、危なかったです。さすがレンさんのお姉さんですね。ではこちらからも、はっ!!」
普段の半分ほどのスピードとパワーで繰り出すニュートの一文字切り。
「なっ!!はやっ!!きゃあ!!」
ガードごと吹き飛ばされ壁に激突するマリー。半分の力でこれか。
「あちゃあ、姉さん大丈夫?『チェック』うん、骨も折れてないし、ちょっとあざができるぐらいかな。『メガヒール』『リジェネレイト』たぶんこれであざも消えたと思うよ。体平気?」
「いや、大丈夫だけど……レンも随分簡単にリジェネレイト使えるようになったのね。前は直接見ないとダメだったのに……?」
「その辺もカレン様からの指示で戦った成果かな。俺とも稽古してくれる?」
「え、ええ、ニュートくんの実力はもう充分分かったわ。悔しいけど私じゃ勝てないわね。でもレン相手なら……ふふふふふ。レン、構えなさい!!」
「はい姉さん。せいっ!!」
「はっ!!なかなかやるじゃない。ふっ!!」
その後十数分打ち合った結果、マリーが力尽きた。
「はぁー、はぁー、どうなってるのよ……レンに負けるなんて……ありえないわ」
レンの剣術はマリーと同じ3位となっていた。しかし、レンはクロとシロ、ニュートによってかなり強化されている上、マリーが格下の生徒を指導している間レンはAランク魔物やニュートとの戦闘訓練で経験を積んでいたため、総合的な強さと体力でマリーを上回ったのだ。
「姉さんの指導も久しぶりで楽しかったよ。『メガヒール』おんぶでもしてあげようか?」
満面の笑みでちょっと皮肉を言うレン。
「おんぶなんてこの年で恥ずかしすぎるわ!!しかも弟になんて!!まったく、ニュートくんぐらい強ければ諦めもつくんだけど、まさかレンにまで負けるとはね……結婚して幸せだけど、冒険者続けてるレンが少しうらやましいわ」
実はレンもニュートほどではないが手を抜いている。満面の笑みは余裕の表れでもある。
「姉さん、そういやキョウヤは?」
「たぶん今頃学び会の準備か説教の準備してるんじゃないかしら」
「じゃあ邪魔しないほうがいいね。姉さんからよろしく伝えておいて。俺達で何か手伝えることある?」
「そうね、今から炊き出しの準備をしようかと思っていたから手伝ってもらえる?クロとシロがグレイスを見てくれているし、久しぶりにゆっくり料理できるわ。ニュートくんは料理できるの?」
「はい、自分でも料理してましたが、レンさんたちに教わって上手になったと思います」
「それじゃ二人ともお願いね」
その後レンたちが土産に持ってきた大量の魔物食材を使った料理に貧しい人たちだけでなく町中の人たちが集まってお祭り騒ぎとなった。
夕刻前、マリーは泊まっていくように勧めたのだが、トライアードに挨拶に行くと伝えると納得して送り出してくれた。
「はぁ……パパとママ達を親として呼べないのはきついですね……でもマリーさんもすごく若くて美人でしたね。ママ達と同じぐらい。グレイスちゃんもちょっとしか見れませんでしたけど、すごくかわいかったですね。小さい子供っていいなぁ」
「ニュート?ママ達の肉体年齢はマリー姉さんより若いのよ?同じじゃないわ?」
「ニュート、あまり女性の年齢を詮索してはいけない。クロ、制裁として抱きしめる」
「うわ、クロママ、シロママ、ごめんなさい!!やめてー!!イヤー!!」
パーティで一番強いのにクロとシロにはさまれて女性のような悲鳴をあげるニュート。やはり女性は強いし怖い。
「二人とも、まだアルーゼから出てすぐだし、外なんだからほどほどにしてやれ」
「むぅ、そんなに嫌がらなくても……いや、理由は分かるんだけどね」
「ふむ、美しすぎる私達が問題。おばさんになれば大丈夫かも。でも老けるのはいや」
そんなことをいいつつシロが運転して深夜になり、魔石車の中で眠り、翌日の昼前にはファルバに到着した。
学院の受付でトライアードへの面会を申請し、四人でトライアードの部屋へ向かった。
「失礼します。カシウス・レンです。入室してもよろしいでしょうか?」
「おー、ひさしぶりじゃのー、入りなさい」
すでに100歳以上のはずなのに、レンが一年生だったころとまったく見た目の変わらない元気なトライアードがニコニコしている。
「トライ先生、お久しぶりです。お変わりないようで安心しました」
「レンくんはだいぶたくましくなったのぉ。はて?そこのレンくんに似た獣人?は誰かの?」
「先生、その前に悪い報告と良い報告があります」
「ふむ、悪いほうはなんとなく予想がつくが……良い報告もあるのじゃったらまあいいかの」
レンはクロとシロに結婚して助けられ罪を犯し、結果ひどいものが生まれたこと、三年前にファルバ周辺のドラゴンからニュートを預かり息子として育て、世界初の竜人系獣人に変身させたこと、三人の罪の事を知ってもニュートが息子でい続けてくれ、この前信仰告白をして洗礼を受け、クリスチャンになったことを報告した。
「ふむ、悪いほうは予想通りじゃったの。アイナスも色々と心配しておったからの。罪の結果は辛かったろうが、クロ君もシロ君も生きておるし、何より竜人系獣人の息子が与えられるとはのぉ……レンくんはまたすごい力をカレン様からもらっているんじゃの。ニュートくん、少し体を見せてもらってもいいかの?」
「は、はいトライアード様!!」
「わしのパートナーではないのじゃからトライ先生でよいぞい。ふむ、確かにドラゴン特有の翼や角、尻尾が生えとるの。髪色もドラゴンの体色そっくりじゃし、きれいな金色の目もいい。レンくん、ニュートくんの能力はどんなものじゃ?」
「俺ともビーストテイマーとパートナーとしてではなく親子としてよい信頼関係を結べていたのでさらに強くなっています。俺達もなんですが、一部の階位が限界を超えたといっていました。1位より上になってしまったらしいです」
「驚きすぎて死んでしまいそうじゃのう……レン君たちの年齢で1位を超えるとは……レンくん、1位を超えたのは治癒魔法かの?」
「はい?治癒魔法と防御魔法ですが?」
「ならば使えるかもしれんの。限界を超えた治癒魔法使いはすべての高レベル治癒魔法を同時使用し、時間を巻き戻すイメージを持てばリバース・リザレクションという魔法が使えると聞いたことがあるのじゃ。呼吸が止まって一時間以内じゃったら息を吹き返すことが出来る伝説の治癒魔法じゃ。さすがに完全に死んでいるものを蘇らせることはできんがの」
「トライ先生、ありがとうございます。トライ先生に教えてもらった治癒魔法の集大成として非常時には使ってみます」
「ふむ、防御魔法も限界を超えておるようじゃし教えておくかのう。何も存在しない空間をイメージして障壁とするアブソリュート・ウォールという伝説の防御魔法があるらしいの。わしも専門ではないので、詳しくないのじゃが、何も存在しない空間とは防御する対象を包み込みその場から隔離してすべての攻撃を防ぐことが出来るらしいの」
「トライ先生、何から何までありがとうございます」
「かまわんよ。どうせ教えても使えるものはおらん知識じゃし、わし自身も使えないからの。せめて知識だけでも伝えられてしかもそれが使える可能性がある教え子なら教師として本望じゃよ。クロ君、シロ君、ニュート君、レンくんと守りあって生きてほしい。じじいからの最後の頼みかもしれん。聞き届けてもらえるかの?」
「「「「絶対に守ります。命に代えても」」」」
「ふぉっふぉっふぉっ、クロ君とシロ君が獣人になった時よりもニュート君が加わってさらに感動的なことじゃ。さて、じじいのお話はこれで終わりじゃ。もう生きて会うこともないかもしれん。四人とも精一杯生きるんじゃぞ」
「「「「ありがとうございますトライ先生」」」」
四人は頭を深く下げて礼をし、退室していった。
「ふう、寿命が縮んだわい……しかしいいものを見させてもらったから逆に長生きしてしまうかもしれんの。ふぉっふぉっふぉ」
一人快活に笑うトライアード。レン、クロ、シロ、ニュートの四人ならばカレンの目的も罪の刈り取りも耐えて乗り越えられると信じているようだ。
息子のニュートがクリスチャンとなり、四人とも超越した力を身につけ、トライアードからの最後の教えも受け取った。
これで一ヵ月後にはいよいよカレンの目的に向かうこととなる。レン、クロ、シロ、ニュートの夫婦、親子としての物語は終わり。これからは真の戦いの物語が始まる。




