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第三十一話 帰郷と、親子の食卓

 カレンからAランク魔物を鍛錬として行うよう指示されてから三年。


 レン、クロ、シロはカレンシュタインのある大陸エウレア中を巡って各地に生息するAランク魔物を楽勝とまではいかなくともきっちり撃破していた。


 ウィリアムやレベッカ、マリーとの2ヶ月の訓練に比べればこの3年間での成長は少ないが、レンが治癒魔法、防御魔法1位、クロが体術1位、シロが攻撃魔法1位と最高階位へとそれぞれ達してしまった。クロとシロもそれぞれレンとのパスから、また直接教えられて治癒魔法がうまくなった。


 アタッカーのクロ、魔法メイン遠距離攻撃のシロ、今ではそれなりに攻撃力もあり、驚異的な回復と防御の出来る遊撃のレン。おそらく三人で組むパーティではエウレアでも最高クラスの実力だろう。経験も充分に積んだのでかなりの応用力や危機対処能力も上がった。


 Aランク魔物はSランク魔物と違い、知能は他の魔物と同程度のため、ギガントスクイッド同様食欲旺盛だったり攻撃的な個体が多く、エウレアに住む人たちや各地を巡る行商人や旅人、現地の人たちを襲うことがある。それを討伐するレン、クロ、シロの三人は「カレンの戦士達」と呼ばれるようになっていた。


 その理由はやはりギガントスクイッドのときと同様、高レベル冒険者パーティでもAランク魔物の討伐をやりたがらないからだ。Aランク魔物を倒して得られる報酬は大金なのだが、命をかけてまで得る金額ではない。そういった理由で多くの高レベル冒険者パーティは各地を巡って安全に大量に狩れるBランクを主な獲物としている。


 レンたち三人がなぜ普通の冒険者が嫌がるAランク魔物討伐をしてくれるのかどこの町でも質問され


「カレン様にお勧めされたので」


 という理由を言った結果、カレンの戦士達という呼び名がエウレア中に広まってしまい

、カレンの評価も少し上がったらしい。だが、クリスチャンの数はあまり変わっていないので相変わらず残念な想像主だ。


 カレンからAランク魔物討伐の経験はもう充分、しばらく休憩といわれ、三人は久しぶりにイクスの町へと帰ってきた。


「父さん、母さん、お久しぶりです。イクスに帰ってきました」


「ウィリアム父さん、レベッカ母さん、お久しぶりです。お元気でしたか?」


「久しぶり、ウィリアム、レベッカ。体に異常はない?」


 久しぶりに会う両親に挨拶する三人。


「おお、三人ともよく帰ってきた。うわさは聞いてるぞ。すごい人助けをしているらしいじゃないか。クリスチャンとしても冒険者としてもすばらしいことだ。クロ、シロ、私たち二人とも元気だぞ」


「あらあら、お久しぶりねぇ。三人とも随分たくましい雰囲気になったじゃない。エウレア中で大活躍してるの聞いてるわ。私の息子娘たちなのよってつい自慢しちゃったわ。ふふふ」


 ウィリアムもレベッカも元気そうである。三人の活躍もしっかりと耳にしているようだ。


「そんなことないですよ父さん母さん、ただカレン様の言うとおりやっていただけです。俺は相変わらずクロとシロに守られてばかりなので」


「いや、そんなことないわよレン。レンがいなかったらちょっとどころじゃない怪我負ってたし……ギガントリビングソードの群れに攻撃されて私の腕がちょん切れたときはどうしようかと思ったし……気がついたらレンがしっかり治してくれてたけど、あれどうやったの?すごくきれいに元に戻ってたけど?リグロウじゃあんなふうにならないわよね?」


「ん、私も結構危なかった。ジャイアントキラーイーグルに翼をもぎ取られて墜落した。目が覚めたら治っていたけど、あれどういうこと?いや、レンが治してくれて嬉しいけど」


「なに?大丈夫なのかクロ、シロ?」


「腕と翼が千切れたって……重症じゃない、後遺症はないの?」


「はい、腕のほうはしばらくしびれるというか感覚が鈍かったですけど、レンがニューラルリジェネレイトとかいうオリジナル治癒魔法かけ続けてくれたら治りました。むしろ今までより体の調子良くなった感じもします」


「ん、私も同じ。治ってからもしばらくはうまく飛べなかったけど、同じ魔法を何回もかけてもらったらしばらくして飛べるようになった。クロ同様飛ぶスピードが増した気がする。レン、どういうこと?」


「二人とも、あのときは守りきれなくて本当に申し訳ない。そういう事態があったらリグロウを使っても元の鍛えた腕や羽じゃなくて成長してない細い部分しか再生できないってトライ先生から教わってたから、何とか手術の練習をしてたんだ。二人の調子が良くなったのは怪我したところだけじゃなく、全身の神経が回復というか強化されたせいだと思う。」


「「「「「手術?神経?」」」」


「すみません、地球の知識なんです。父さんには以前俺が地球で動物専門の治癒魔法使いになりたかったって言いましたよね。覚えてます?」


「あ、ああ、レンの最初のパートナーを探しに行った時に聞いたな」


「地球には治癒魔法みたいな便利な方法がなくて、代わりに手術という技術があるんです。神経はなんというか、人間の頭の中に体をコントロールしたり感情や思考を生み出す脳という部分があるんです。その脳から全身に指令をだす血管みたいなものが神経です。」


「はぁ、目に見える部分や血管とか生殖に関する医学書はニエフにもあるけど、レンのいた世界はすごいのねぇ。体を縫い合わせたり切り開いたりするなんて。確かにどんなに高レベルの治癒魔法使いでも元通りの四肢はリグロウできないものね。脳とか神経とかもうわけ分からないわ」


 レベッカは高レベルの治癒魔法が使えるが、それでも地球の技術に心底驚いている。


「この辺も両方知ってる転生者の俺にしか出来ないずるい方法ですけどね。結果クロとシロが元通りきれいな体に戻れたのでこれからも全力でずるします。愛する妻二人ですから」


「レン、よく分からないけど私たちを治してくれてありがとう。これからも守ってほしいわ。私たちも守るけど、まだ治癒魔法得意じゃないし……愛してるわ」


「ふむ、レン、今度詳しく教えて。レンのことも治せるようになりたい。私たちは守りあう。そして愛し合う」


 クロとシロはそういってレンを抱きしめ両親の目の前で熱烈なキスをしだした。


「ご、ごほん、なんにしても三人とも元気なのはいいことだ。今日は久しぶりにうちに泊まっていくか?マリーたちももうアルーゼに引っ越したし、三人の結婚もばれないから安心だ」


「若いっていいわねぇ。あなた、私にもキスして?」


「え!あ、ああ、もちろんだ。」


 レベッカに催促されぎこちなくキスをするウィリアム。


「父さん、母さん、俺たちの家に来ませんか?しばらく帰ってないから掃除しないといけないんですが、お風呂っていうとてもきもちいいシャワーの代わりみたいなものがありますよ」


「何回かクロとシロから聞いたことあるわね。暖かいお湯を大きい入れ物にたくさんいれたものなんでしょう?そうね、私も興味あるし、掃除も手伝うわ。あなた、一緒にお風呂?に入りましょう?久しぶりにゆっくり夫婦の時間を持つのもいいと思うわ」


「へ!?あ、ああ、久しぶりにゆっくり夫婦の時間を持つか」


「よーし!!そうときまれば超特急でレンたちの家に行って掃除をしなくちゃね!!いや、その前にクロ、シロ、体や髪を洗ういい香りのシャンプーや石鹸なんかも買いましょう!!レン、金貨袋ひとつ借りてくわ!!二人とも早く!!お風呂楽しみだわー!!」


 まるでジェットエンジンでもついているかのようにクロとシロをすごい勢いで引きずっていくレベッカ。やはりマリーの特攻体質はレベッカからの遺伝のようだ。

 

 久しぶりの親子の会話から取り残されるカシウス家男性二人。


「その……父さんごめんなさい」


「き、気にするなレン。レベッカは割りといつもあんな感じだ。それより先にお前達の家に行って掃除をしよう」


 とぼとぼとレンたちの家へ向かっていくウィリアムとレン。やっぱりそっくりな父息子である。

 

 数時間後。


 その晩レンたちが狩って氷付けにして保存していたAランク魔物をレベッカ、レン、クロ、シロが調理したニエフでも最高ランクの超高級料理が並べられた。


「Aランク魔物っていつもの魔物と全然違う味なのねぇ……さっぱりしてるのもあるし油がしっかりついてるものもあるし、旨みがすごいわ。ちょっかたいけどそれも歯ごたえがあっていいわね。特にイクスではめったに食べられない魚介系がおいしいわぁ」


「ふむ、すごいものだな。Aランク魔物を狩ってくる冒険者はめったにいないから市場でも購入できない。しかし氷付けにしたとはいえすごい鮮度だな?どうやったんだ?」


「レンから教えてもらってアブソリュートゼロというオリジナル瞬間冷凍魔法を開発した。凍っている時間も長く続く。だから新鮮」


「母さんが言うように色色種類があるのはクロが肉だけじゃなく魚介系も旅中に好きになって、ちょっと無茶して狩り過ぎたからですね。クロ、がんばるのはいいんだがあんまり危険な戦い方しないでくれよ。心臓が止まりそうだ」


「うっ、Aランク魔物おいしかったから……魚介系も刺身がすごくおいしかったし……でも、気をつけるわ」


「お、そうだ。刺身のこと忘れてた。クロ、ナイス。シロ、魚をマイクロウェーブで火が通らないように解凍してくれ」


「ほへぇー、やった、馬鹿でも役に立った!!」


 クロはレンになでられだらしない笑顔になっている。


「いやいや、クロがなかったら倒せない魔物もいただろ。俺どころかシロの魔法でもダメージ与えにくいやつもいたし。そういう時はクロのパワーで粉砕してくれたから頭のよさ関係なくみんなでがんばった証拠だ」


「はふぅー……レンありがとう。愛してるわ」


 もはやなでられてよだれがたれているクロ。


「むぅ、クロばっかりずるい。レン、私も」


「はいはい。シロ姫様はご機嫌斜めですか?よしよし」


「ん、レンに撫でられると落ち着く」


「満足したか?あと、マイクロウェーブ頼むシロ」


「満足。『マイクロウェーブ』ふう、これでいい、レン?」


「ちょっと待て『チェック』うん、傷んでない、新鮮だ。ほいほいっと。父さん、母さん、これ塩につけて食べてみてください」


「え、レンこれ生のままよ?こんなもの食べたらおなか壊すわよ?」


「ふーむ、でも新鮮な魚のいい香りがするな。見た目もきれいだし、レンがチェックかけて確認したなら大丈夫だろう。もぐもぐ」

 

「レンがしっかり確認したならいいけど……もぐもぐ」


「「!!!!」」


 声にならない悲鳴を上げ、驚愕の表情となる二人。


「あー、口に合わなかったですか、父さん母さん?」


「いや、レン、これすごいわね……適度な歯ごたえと口の中でとろける甘み……生臭さなんてまったく感じないわ。火を通した魚とは全然違うのね」


「うむ、この人生の中でも1,2を争う衝撃的なおいしさだ。これも地球のものか?」


「はい、そうですね。シロのマイクロウェーブも俺の世界の食材を解凍する機械の仕組みを教えて再現してもらった光魔法です。今のは刺身でもいちばん人気のあったツナ系魔物ですね。Aランクではないですけど。普通のBランク魔物ですよ」


「いやレン?Bランクだって最高級なのよ?普通じゃないわよ。しかし刺身?とかいう生の魚がこんなにおいしいとは。レンの世界はすごいわねぇ」


「すごいな、シロのアブソリュートゼロやマイクロウェーブという魔法がなければイクスはおろかファルバでも食べられないだろう。クロも一生懸命狩ってくれたからこそ食べられるものだし、そもそもレンがいなければ一生味わうことはなかっただろうな」


「まだおいしくする方法はあるんですけどね。かなり遠い国にある食材と調味料が必要なので、エウレアから別の大陸に行かないといけません。でも絶対父さんと母さんには食べてもらいます。僕の出来る親孝行はこれぐらいしかありませんから」


「これをさらに……?おいしすぎて死んじゃうんじゃないかしら。それとレン?あなたはもう充分親孝行してるわよ?教会もイクスで初めての3階建て建築物の礼拝堂になったのだし」


「もっとおいしくなってしまうのか……信じられないが、レンを待っているよ。それとレベッカも言ったようにお前達がたまに帰ってくるたび莫大な献金をするから教会も大きくなってクリスチャンも増えてきたしな。親孝行どころか教会員として充分すぎる働きをしている。アルーゼの教会やマリーの学校も立派なものを建てられたしな」


 確かにレンたち三人はエウレア中を旅していたため、目的地に向かう途中にイクスがあれば半日ほどではあるが立ち寄っていた。


 ギガントスクイッドの時と同じく各地の人たちに頼まれて周辺に生息するAランク魔物をほぼ殲滅しており、その報酬の大半をウィリアムたちの教会に献金していた。アルーゼにも立ち寄って献金し、マリーの学校を建築する資金も提供したため立派な教会と学校ができ、キョウヤが狂喜乱舞して牧師業をがんばっており、マリーがすさまじい指導をしているためアルーゼではクリスチャンと強い冒険者が増えてきている。


 レンが収入の大半を献金していたのはなかなか各地で教会が見つからず、クロとシロと家族礼拝しか出来なかったための埋め合わせだ。


「そんなことでは俺が父さん母さん姉さんに育ててもらったお返しにはなりません。今の俺がクリスチャンとしての働きが出来ているのならそれは俺の愛する妻、クロとシロのおかげです。クロ、シロ、申し訳ないがこれからもよろしく頼む。情けない俺を支えてくれ」


「レンも変わらないわねぇ。ふふっ、でもかわいいわ。私たちも支えるけど、レンも守ってくれているんだからお互いさまよ。愛してるわレン」


「ん、いつもどおりのレン。そろそろ慣れてきた。どこでもいつでも支えてあげる。三人もっといい夫婦になってイエス様を目指す」


「三人ともいい夫婦になっているようで何よりだわ。でも三人とも、いずれは罪の刈り取りという試練が来ることも忘れないでね。たとえ、三人の誰かが失われたりしても……」


「今のところは心配ないようだな。だが、レベッカの言うとおりだ。たとえお前達三人が幸せな夫婦となっても、罪の結果は必ず来る。それがどんなものでもくじけないでくれ」


「はい、父さん母さん、クロとシロが共にいてくれれば大丈夫です」


「ウィリアム父さん、レベッカ母さん、罪の結果を忘れているわけではありません」


「ん、ウィリアムとレベッカの心配はもっともなこと」


「三人とも罪の刈り取りをしっかり覚悟している。しかし、守りあえば試練も乗り越えられるかもしれん。辛い道のりになるだろが、心からお前達の未来を祈っている」


「そうね……三人がクリスチャンとして、夫婦として互いを補い合って罪の結果を乗り越えられるよう祈るわ」


 ちょっとしんみりしてしまった食後の雰囲気。でもウィリアムもレベッカも真剣に心配し祈ってくれている。


「父さん、母さん、そんな悲しそうな顔しないで下さい。それと母さんならお風呂のお湯をうまく調整できると思うので、これからは二人で自由に使って下さい。結構母さんも楽しんでたみたいだし、父さんと新婚さんみたいに戻ってラブラブしてください」


「レ、レン!!い、今だってラブラブよ!!そ、それはお風呂にパパと入れるのは嬉しいけど……そうね、お風呂は使わてもらって、その代わりたまにレンたちの家を掃除でもしようかしら」


「ほう、レベッカをやり込めるなんてレンも成長したな」


「「「二人とも本当にラブラブ」」」


 久しぶりの親子の再会を楽しむカシウス一家であった。

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