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第二十九話 冒険者ギルドの苦悩

 レン、クロ、シロが普通の仕事を始めてから3ヶ月。


 ようやく三人の装備が完全に自動修復された。


 そのことをカレンに伝えに行き、三人はそれぞれの職長に退職することを告げ、職長達から「いつでも復職してくれ……」と涙を浮かべながら言われてしまった。あまり自分たちの優秀さを自覚していない三人はびびりながらも「は、はい、冒険者として戦えなくなったらまたお願いします?」とちょっと疑問を抱きながら返答したのだった。


 三人は退職してからカレンに一週間の休暇期間をもらい、ゆっくりと家族の時間を過ごしていた。


 結婚してから、アイナスに封印されていた肉体的接触が解禁されたクロとシロ。二人は休暇期間中、仕事がないため時間に関係なくありとあらゆる方法でレンに迫り、精神的にも体力的にも受けてぼろぼろになってしまった。


 さすがにレンが朝になっても目を覚まさず、昼になってからようやくげっそりした青白い顔に深いくまを浮かべて「クロ……シロ……おはよう……」と今にも死にそうな声で時間に合わない頓珍漢な挨拶をするようになってから二人は多少控えるようになった。


 そんなオタクの理想である美少女二人に迫られて死にそうなレン。でも休暇期間が終わるころには何とか健康状態を持ち直した。どこまでも妻二人に助けられてばかりのレン。夫の威厳など微塵も無い。


 休暇期間が終わって、カレンにAランク魔物討伐準備の詳細を聞きに行くと


「うらやましいような……うらやましくないような……」


 カレンが羨望と哀れみを混ぜたような複雑な表情をしていた。


「おい、まさかまた見てたんじゃねぇだろうなぁ、あぁん?今度こそ死ねない体を切り刻んで完全に息の根を止めてくれるわ!!」


 一瞬にして完全復活するレン。やはり愛するもののためなら強くなれるようだ。


「いや、だからなんども言うけど見れるわけないでしょクロちゃんとシロちゃんが満面の笑みでレンレンを抱えながら買い物とかしてたから予想しただけだよ。三人の状態を見てイクスの人たちも結婚してることを気づくどころかレンレンのあまりにも悲惨な状態に目を背けてたし問題は無いだろうけど……」


 確かにカレンの言う状況はしばしばあった。クロとシロはどうしてもレンを家で一人にするのが不安だったのか、どこへ行くにもレンを支えながらイクスの町を歩いていた。イクスの町の人たちはレンの死人のような状態を見ておられず、目を背けるどころか三人が歩くと恐怖してモーセが海を割ったように三人の前から人がいなくなった。


「カレン様、ごめんなさい、ちょっとやりすぎました」


「少しやりすぎた」


「あー、仲いいのは結構だけどねぇ……まさかクロちゃんまでそんな風になるとは……何かあったの?」


 「「乙女の秘密」」


 クロとシロの答えは完全にハモった。


「それよりAランク魔物討伐に必要な魔石車の値段を教えてくれ。借りたことしかないから値段がわからん。それと、どのぐらいの性能のものが必要なんだ?」


「そうだねぇ。魔石車は今からのAランク魔物討伐への移動だけじゃなく、のちのち僕の目的の場所へ移動するにも必要だからキャンピングカーみたいなやつがいいかな。大きいものを用意するとなると5000万ルンぐらいかなぁ」


「5000万ルンか。結構な額だな……イクス周辺よりはファルバ周辺でホワイトレパードでも狩ったほうがいいかね?」


「でもイクスに家建てたばかりだしねぇ。相当な無茶したとはいえ、マリーさんの結婚式のときに一ヶ月で1000万ルンもイクス周辺で稼げたんだし、今ならレンレンもきちんとクロちゃんシロちゃんと連携とれるだろう。イクスでゆっくり暮らしつつ費用を貯めたらファルバでキャンピングカーを作ってもらったらいいんじゃないかな?」


「そういってもらえるのはありがたい、だが何度も聞くが本当に焦ってないんだろうな?」


「んー、大きい魔石車を持つのは高レベル冒険者には必須なことだし、そのための費用を稼ぐのに時間がかかるのもしょうがないよ。レンレンもそんなに焦らなくていい。それに……」


「それに?何だよ?」


「いや、何でもない。とにかく、お金を貯めてからファルバで車を買うこと。OK?」


「あ、ああ、了解した。5000万ルンね……一応もうちょっとだけ費用を確保しておくか。あとクロ、シロ、夫婦の時間はもう少し少なくしてもいいか……?」


「そうね、ちょっとやりすぎたわ……でもレンかわいいし、私にちょっとでいいからレンをかわいがる時間頂戴?ダメ?」


「少しやりすぎたことは認める。頻度は減らす。その分やるときはレンを全力でかわいがる。拒否権は認めない」


「あー……了解だ。二日に一回ぐらいなら大丈夫だと思う。一日あれば回復できるから」


「「よし!!」」


「あのー……夫婦のそういう相談は家でしてくれませんかね?おじいさんに幸せビームあてて心を貫くのはやめていただけますか?」


「ああ、悪いなカレン。それじゃちょっとがんばってきますか。またな、カレン。クロ、シロ、行こう」


「カレン様、ありがとうございました」


「また今度」


 いつもの挨拶をして去っていく三人。


「ふぅ……三人が結婚したらどうしようと思ってたときもかなり心配だったけど、これからのことも心配だなぁ……三人とも幸せそうだからなおさらそれが壊れる可能性のある目的に向かわせないといけないのは……神様、将来、僕の目的に三人が出発しても幸せでい続けられますように……」


 そんな独白と祈りをするカレン。


 一方三人はすさまじい勢いでイクス周辺の魔物たちを狩り続けていた。


「ふう、やっぱりファルバ周辺と比べると弱い魔物が多いな。ファルバ周辺の岩石地帯には鉱物系魔物が多かったから防御力高くて大変だったけど、イクス周辺のメインは動物系か植物系だから倒しやすいな」


「そうね、炎魔法も電気魔法も良く効くし、防御力低いから切り裂くのも簡単だし。」


「ん、余裕。レンも元に戻ってくれて連携も取れる、私たちの愛のパワーが強くなってますます余裕」


 そんな余裕の三人。


 レンとクロは巨大な木製の箱を背負って倒した魔物を片っ端から入れている。


 シロも二人に比べるとやや小さいが、同じ木製の箱を羽の邪魔にならないよう腰の辺りに固定してやはり大量の魔物が入れてある。


「よし、持ちきれるのはこんなもんだろ。シロ、先に飛んで冒険者ギルドに行っててもいいぞ」


「大丈夫。二人と一緒がいい。でも飛んでいく」


「そか、じゃあクロ、俺達は走っていくぞ」


「りょーかーい!!」


 三人は獲物の重さも感じずに超スピードで町まで戻っていった。レンもそうだが、クロもシロもお互いのパワーとスピードが互いに補われているので、普通の冒険者では考えられない量をすごいスピードで持ち帰っていた。


 そんなことを5往復ぐらい続けた結果、その日の収入は200万ルン。マリーのときに一ヶ月で1000万ルンだったことを考えると異常な金額である。これはきちんとレンがクロとシロと連携をとれており、結婚してパワーアップし、壮絶なレベッカとマリーの指導を受けたことによる当然の結果なのだが、困っている人たちがいた


 冒険者ギルドである。ギルド職員もレンたちの実力を知ってはいるのだが、信じられない量の魔石と素材、食材を持ってくるので査定が追いつかず、「じゃあ、また行ってくるので報酬は後でもらいます」なんていって金を受け取る前に次の狩りに出かけてしまい、また次々と大量の魔石や素材、食材を持ってくるのでギルド職員達は悲鳴を上げていた。


 ギルド職長は


「は、早く全員この魔石と素材と食材をどこかに売ってくるんだ!!レンたちに支払う金貨がなくなってしまう!!」


 必死な指示を職員全員にだし、全力でレンの報酬を確保しようとした。駆け出しの冒険者がだいたい一日1万ルン前後の日給、レンたちがたった一日で200万ルンもの獲物を狩ってきたことにうろたえるのも無理は無い。


 魔石も素材も食材も全部必需品で需要が高いため、職員全員で慌てて買い取り先を探した結果、レンの報酬も確保でき、ギルドにも相当な利益を出せたのだが、すべてが終わるころには嬉しいんだか疲れているんだか、全員ぼけーっとして充足感を感じているらしい。イクスの冒険者ギルドにこんな忙しい日が来るのは非常に珍しいからだ。


 しかし


「明日も同じぐらい狩ってくると思うのでよろしくお願いします」


 レンが頭を下げて丁寧に残酷な宣言をした結果、職長含め職員全員から充足感はすべて吹き飛びみんな絶望の表情を浮かべていた。


「み、みんな落ち着け!!レンたちのおかげでイクスが潤うのだ!!町も大きく発展するかもしれん!!!田舎町だと馬鹿にされることもなくなるだろう!!今から全員に臨時ボーナスを出す!!このままなら昇給も期待できるぞ!!」


 きちんと結果に見合ったボーナスや昇給も約束してもらったし、実際に職長が全員に銀貨一枚という夢のようなボーナスをもらい、昇給もほぼ確定しているだろうからいいのだろうが、労働環境は地球のブラック企業のようである。


 ただ、レンたちは5000万ルン以上稼いだらまたイクスからどこかへ旅立ってしまうので、イクスの町が発展するかどうかは分からない。


 だが、すさまじい狩りを続けた結果、魔石や魔物の肉が供給過多となり、レンたちの受け取る報酬は徐々に下がっていった。その途中でたまたまイクスに立ち寄ったファルバからの行商人にレンたちの獲物を大量に買い取ってもらい


「これからも頻繁に来てほしい、売るものは腐るほどある!!」


 鬼気迫った表情でギルド職長が行商人にお願いした結果


「い、いや、こちらこそぜひお願いします。こんなに大量の商品を仕入れさせていただくことは他の町ではありえませんから。商品の状態もいいですし……」


 ちょっとギルド職長の迫力に気圧されたものの、行商人は魔石車を使ってまでイクスに四日に一回ほど仕入れに来てくれるようになり、レンたちの報酬はまたあがっていった。


 そんなやりとりがあるとは露知らず、レン、クロ、シロの三人は相変わらずまったりとした生活を送っていた。レンはあまり報酬の上下を気にしていないようだ。金銭感覚が麻痺しているのかもしれない。


「レン、マックスブルのステーキおいしい?」


「うん、普通のブルでもうまいけど、マックスブルは強い分歯ごたえがあっていいな。肉汁もたっぷり染み出してきてうまい。焼き方も絶妙だし、味付けも結構凝ってるよな。クロ料理うまくなったなぁ」


「ちょっと奮発しちゃった。充分稼いでいるし、食材は自分たちでとってるしいいでしょ」


「ふむ、この魔物サラダはおいしい。これはどういうドレッシング?」


「それはレベッカ母さんから教えてもらったウォーキングキャロットのドレッシングね」


「あー、しかしこんなうまいステーキ食ってるとお米食いたくなるなぁ。サラダもお米にあいそうだし」


「「お米って何?」」


「お米も俺とカレンの出身地、日本っていう国の主食なんだ。パンと違ってぱさぱさじゃなかくてしっとりしててな。うまいぞー。まあニエフにきてからだいぶパンにもなれたけど、やっぱお米くいたいなー」


「レン、いまからカレン様にニエフのどこかにお米がないか聞いてくるわ」


「レン、いますぐお米のありかをカレンから聞きだしてくる。魔法で切り刻んで穴だらけにしてでも」


「二人ともダメだぞ、マスターが命じる。まだ食事中だし、シロの作ってくれたデザートも残ってるしな」


「これがマスター…………私になんでも命じて…………?」


「マスター効果でレンが眩しいぐらいかっこいい……」


 どうやら二人ともパスを通じてレンの趣味が伝染しているようだ。


「いや、クロ?大丈夫か?あまり命令したくはないんだが。シロもそういってくれるのはいいんだが、俺の見た目がいいのは父さん母さんのおかげだからな?」


「大丈夫…………もっと…………」


「元なんて関係ない。見た目も関係ない。どんな姿になろうともレンを愛する」


「あー、クロ、ちょっと失礼するぞ」


 そういってレンはクロのほっぺをむにーっと引っ張った。


「あいたたた!!でもちょっと気持ちいいかも……」


「むぅ、クロばっかりずるい。私も」


「はいはい。痛いだけだぞ?」


 むにーっ


「痛い。でも悪くないかも。クロの気持ちがちょっと分かる」


「二人とも正常に戻ったか?後シロ、そのだな、元の俺は相当ひどいぞ?カレンよりもな。太ってたし、はげてたし、体中病気だらけだったし……見た目は最悪だ。中身も最悪だったけど」


「「そんなレンでも愛する。」」


「はぁ、そういってくれるのは嬉しいんだけどな……飯も食い終わったし、シロのデザート食うか」


「はい、あなた、クロ、愛情こめて作ったわ」


「相変わらずシロの見た目と言動のギャップ萌えはすごいものがあるな……」


「レン、ギャップ萌えって何?」


「なんと説明すればいいのか……シロに限らずクロもそうだけど、誰かの普段の様子と違うところをみせられるとドキッとする感じかな……」


「わかるようなわからないような……レンはいつも優しくて変わらないからかしら?」


「クロ、さっきマスターになってたレンにときめいていたのと同じだと思う」


「あれがギャップ萌え……?」


「どうだろうな。でも普段から二人に助けられてばかりだから、珍しく二人を注意した俺をみてギャップ萌えを感じたといえなくもないが。お、うまいなこのケーキ。クロ、呆けてないで食ってみろ、うまいぞ、シロもデザート作るのうまくなったなぁ」


「へっ!!あ、ああ、はいはいどれどれ……うん、おいしいわね。確かに甘すぎなくていいわ」


「ん、ニードルラズベリーのとげを丁寧に抜いた。クリームもクロと同じマックスブルから取れたものを加工した。男性は甘さ控えめのほうがいいとレベッカから聞いた。我ながら上出来」


「ふぅー、腹いっぱいだ。二人ともありがとうな。明日は俺が作る番だからなるべく二人が満足するようがんばるよ」


「レンの料理は昔からおいしいから大丈夫よ。あの辛いお肉大好きよ」


「ん、レンの作るあの不思議なケーキにはまだまだかなわない」


「その辺も地球の知識からだからな。そのうち二人に教えるよ」


「「楽しみ」」


「さーて、腹も膨れたし、地球で好きだったあの物語でも話しながら寝るか。それとも別のがいいか?」


「そうねぇ、あの物語ちょっと切ないのよね……でも最後に主人公ががんばるのがかっこいいわ。他の話も聞いてみたいわ」


「ん、戦いの果てに結ばれる男女。最後には離れ離れ。でも最後に愛してると告げるのは感動的。他の話も聞いてみたい」


「どれがいいかな……とりあえず寝室行って寝巻きに着替えるか。クロ、シロ、行こう」


「は、はい、あなた……一緒に寝るわ……」


「むぅ、今晩はかわいがってもらえない……でも一緒に寝る」


「いや、その、クロ、すごくかわいいんだが……無理しなくていいぞ?シロも今日はちょっと我慢な。明日はがんばるから」


「無理してないけど……やっぱり恥ずかしいのよぅ……とにかく寝室行きましょ」


「ん、明日を楽しみに眠る。ふふふ」


 冒険者ギルドの人たちの苦労をまったく無視したラブラブ新婚生活を送る三人であった。

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