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第二十二話 洗礼、卒業、マリーの秘密

 レンとクロとシロが、おそろいのリビングアウトフィットを作った日から――


 レンは15歳になった。

 身長は185センチほど。

 かつて黒犬と白い雛だった2人は、今も変わらぬ姿で隣にいる。


 レンは日々剣術と魔法の鍛錬を欠かさなかったため、体は引き締まり、魔力総量も大きく増えていた。


 学院とレイクウォーカーの教会で学び、トライアードからもじきじきに教わったことで、聖書の理解も深まった。

 だが、信仰によって聖霊に成長させられることと――自分が本当に神に従えているのかについては、まだ確信が持てていない。


 その理由は、主にマリー、クロ、シロである。


 マリーは以前からしっかりとした信仰を持っていた。ニエフでクリスチャンが一般的に洗礼を受ける年齢である15歳になると、迷いなく信仰告白を行った。


「私は主である神様、父、子、聖霊を信じます。父なる神様の贈り物と助力がカレン様に与えられ、神様に完全にされた人間であるカレン様がこの世を神様の被造物として想像したことを信じます。子なる神様、イエス様が私たちの罪の許しのために十字架にかかり、死にて葬られ、3日後に復活し、その尊い犠牲によって私が罪から救われていることを確信しています。また、私に助けと導きを与えてくださる聖霊様によって、これからもクリスチャンとして成長させていただくことを信じます。以上をもって私の信仰告白とします」


 その揺るぎない告白をもって、マリーはレイクウォーカーから洗礼を受けた。


 レンもクロもシロも、クリスチャンとして個人差はあれど成長していた。


 レンはいまだ聖霊による成長に不安がある。クロとシロは勉強を始めてから7年と少し。

 それでも、3人を日頃から見てきたレイクウォーカーは、レンとクロとシロに信仰告白を促した。


「……聖霊様による成長を、まだ完全には信じきれません。ですが、信じられるよう祈り続けます」


 レンは、自分の不安をはっきりと告白した。


「ま、まだまだ足りないものですが、これから聖霊様によって、せ、成長させていただくことを信じます!!」


 クロは少し噛みながらも、元気よく言い切った。


「まだまだつたない信仰……でも聖霊様がそれを強めてくれる。これからも私を成長させていただくことを信じる」


 シロは静かに、しかし力強く断言した。


 3人の告白を聞き終えると、レイクウォーカーは穏やかに頷いた。


「うん、いい信仰告白だと思うよ。3人ともクリスチャンになっている。大丈夫だよ」


 その言葉に、レンは複雑そうな顔を浮かべ、クロは満面の笑みを見せた。シロはいつもと変わらぬ無表情だったが、嬉しさを隠せないのか翼がわずかに動いていた。


 それぞれ違う告白だったが、3人は一緒に洗礼を受けることができた。


 だがレンは、クロとシロがはっきりと「聖霊に成長させていただく」と信じていることに、密かな劣等感を抱いていた。

 2人がクリスチャンになったことは心から嬉しい。だが、どこか追い越されてしまったような感覚が胸に残る。その複雑な思いを、レンは心の奥にしまい込んだ。


 ただ一つだけ――この日を境に、三人の関係とマリーの未来が静かに動き始めていた。


 そんなレンの内面とマリーの変化などお構いなしに時間は進み、ファルバ町立学院の卒業式がやってきた。


「生徒諸君の皆さん、ご卒業おめでとうございます。これからも経験を積み、自分の能力を向上させることを忘れないでください。以上で、ウルリア・ナーサス学院長からの皆さんへの祝辞とします」


 地球の校長の挨拶と比べると短い。だが、聖書と神に従って歩んでほしいという思いが、しっかりと込められていた。


 あっさりとした卒業式が終わり、レンとクロとシロは、洗礼と卒業の報告をしにカレンのもとへ向かった。


「カレン、俺たち3人とも洗礼を受けて学院も卒業した。クロとシロの電気魔力と光魔力はまだ発現してないが……力は十分についたと思う。もうお前の目的に向かうのか?」


 レンは今や、1人でもCランクの魔物を倒せる程度には強くなっていた。


「カレン様、私たちこれからどこかへ行くのですか?」


「どこへ行こうとレンについていくのみ。カレンの指示に従うのはなんかイヤだけど」


「そうだねぇ……学校も卒業したばかりだし、しばらくはイクスに帰ってのんびりしててもいいんじゃない? 前にも言ったけど、僕の目的は数年で達成されるものじゃないし、今すぐ出発しなくても大丈夫だよ。十分強くなってるから今すぐ出発しても問題はないだろうけど……」


 そう語るカレンはどこかぼんやりしている。クロとシロのリビングアウトフィットを作った頃からずっとこの調子だ。休みに帰るときのレベッカの様子にもよく似ている。

 不安が消えたわけではない。ただ、神に委ねるしかないと覚悟を決めたのかもしれない。シロの毒舌にも気づいていない。


「そうか……父さん母さんといられるのは嬉しいからイクスに帰るのはいいんだが……お前、大丈夫か? 最近ずっとおかしく見えるぞ。いや、母さんもだけど……?」


「あー……レンレンは相変わらず僕と同じでちょっと信仰が弱いみたいだけど、3人ともしっかりしたクリスチャンになってると思うよ。大丈夫。僕やレベッカさんが心配してるのはそういうことじゃない……」


「相変わらず何を心配してるのかよくわからんな……」


 レンがそう感じるのも無理はない。

 ファルバに戻ってから、5LDKの家を借り、美少女に囲まれて眠る状況から解放された。そしてレンが10歳頃から、なぜかクロとシロはあまり引っ付いてこなくなったのだ。


 実はクロとシロは、アイナスからさりげなく注意を受けていた。レンにべたべたしすぎてはいけない、と。クリスチャンとして良くないから、と。

 クリスチャンになりたかった2人は、必死で我慢した。


 そのおかげでレンは誘惑に晒されることなく成長し、男性になっても2人と自然に接することができた。だがその分、カレンやレベッカが抱えている別の心配には、ますます気づかなくなっていた。

 おんぶに抱っこ状態は変わらず、より鈍感な主人公へと成長してしまったのである。


「相変わらずなのはクロちゃんとシロちゃんの見た目のほうだと思うけどねぇ……。ビーストテイマーと契約して人間体になった獣人は、ある程度主人の年齢とリンクするから当たり前なんだけど……」


 確かに獣人化してから7年以上経つが、クロとシロに肉体的な変化はない。主人が幼い場合、主人の年齢が追いつくまで成長や老化が止まるのだ。トライアードのように主人が年上の場合はそのまま成長する。

 おそらくシロは15歳相当なので、そろそろレンと共に成長を始めるだろう。クロは18歳相当のため、もう少し先だ。


「その辺はトライ先生から聞いてるよ。まあ、とにかく引越しの準備でもするか。イクスでも家借りたほうがいいかな。さすがに父さんたちの家に成人した息子がいるのも、なんか気まずいし」


「えー……別に実家でもいいんじゃない? あー……いやでも……まあ好きにしなさいな」


「なんか投げやりだな。まあいいか、クロ、シロ、帰ろう。準備しなきゃな」


「さようなら、カレン様」


「また今度」


 いつもの挨拶をして、3人は対談室を出た。


「ふぅ……そろそろ心配が本格化してくる時期だねぇ……どうなることやら……神様、3人を導いてください」


 カレンはそう独白し、祈った。


 家に戻ると、すでに荷物をまとめ始めているマリーがいた。


「姉さん、なにしてるの? 大掃除?」


「ん? 教師を退職してイクスに帰るのよ」


「え!? なんでさ!?」


「教師としての経験は十分積めたと思うの。それに……ちょっと考えてることがあってね」


「マリー姉さん、先生辞めちゃうんですか? 授業面白かったのに」


「マリーの授業は勉強になったから残念」


「姉さん、ちょっとってなにさ!! 教えてよ、姉弟でしょ!!」


 相変わらず姉萌えシスコンのレンは強く問い詰める。


「女性には秘密の1つや2つあるものよ。それに、いくら弟でも言えないこともあるわ。イクスに帰ったら分かるから」


「どうしても教えてくれないの……?」


 レンは今にも泣きそうだ。

 マリーは20歳。長身でスレンダー、派手すぎない上品な服装。レンにとって理想の姉である。執着が悪化するのも無理はない。


「イクスに着いたらちゃんと話すから。そんな子供みたいな顔しないの」


 そう言って、マリーはレンの頭を久しぶりに撫でた。


「……絶対教えてよ」


「その顔をやめないと教えないかもしれないわよ?」


「レ、レン! 私たちも準備しないと!」


「レン、早く」


 クロとシロが焦って促す。


「そうだな……急ごう……」


 だがレンはどこか上の空だ。姉の秘密が気になって仕方ないらしい。


 そんなレンを、久しぶりにマリオネットのように操りながら準備を進めるクロとシロ。2人が近づいても、レンは何も感じていない。


 こうして4人全員、イクスへ帰ることになった。


 ――マリーはなぜ教師を辞めたのか。


 その疑問だけが、レンの胸に渦巻き続けていた。

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