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幕間② みんな甘いものには目がないからね

 クロとシロが獣人になってからしばらく。


 カレンに死を願われたり、クロとシロに女子高生コスプレのような装備を買ったり、レンは知らないが母親含む色々な人達にに心配されたり……


 そんな、波乱万丈だったファルバでの生活も、いつの間にか秋を迎えていた。収穫の時期である。


「今日の狩りも順調だったな、アイスランサーみたいなのはそうそういなくて安心だ」


 本日の狩猟物を抱えながら、レンは安堵する。


「あんなのもう出会いたくもないわ……。レンが死にそうになるのはもういやよぉ」


 アイスランサーの時レンが死にかけたのを思い出して涙ぐみそうになるクロ。


「私はその時はいなかったけど……ホワイトレパードはどれも強敵。気をつけないと」


 シロは少し残念そうだが、強敵に対しての警戒は怠らない。


「えー、私は戦ってみたいわね!!ホワイトレパードってすごく強いし換金率もいいんでしょう?」


 1人やる気に満ち溢れているマリー。


 そんな会話をしながら魔物狩りから帰る道中。


 レンは気になる光景を見つけた。


「姉さん、あの作物何かな?」


 レンが指さすのはファルバ近郊のとある村の畑で、農夫が引き抜いていた割とデカめの白い作物だった。見た目は大根かカブのようだ。


「あぁ、あれは家畜カブよ、確か。この辺りでよく作られてて、馬や牛、豚なんかの家畜に食べさせると早く大きく育つんだとか。農家出身の生徒から聞いた事あるわね」


 マリーは色々な生徒を受け持つため、仕入れられる情報はレンよりも多かった。


 レンがあまりこの辺りの情報収集をしていないのは、寒い地域は好きでなく、そのためファルバをあまり気にいっていないことも原因の一つだろう。


「へぇ、家畜カブね?なんで家畜が早く大きくなるんだろ?」


「そこまでは知らないわ。なにか理由はあるんでしょうけど」


「ふむ、ひとつ買ってみようかな……?」


「やめなさいレン、家畜用よ?」


「でもビーストテイマーとしてちょっと気になるんだよ、姉さん、いいでしょ?高かったら諦めるからさ」


「仕方ないわね……」


「おじさん、この白くて大きい作物いくら?」

「あぁん?坊ちゃんこれどうしようって言うんだ?この家畜カブはクソまずいぞ?」

「まあ、とりあえず新しいみたことないものだったんで、試しに買ってみたいんですよ」

「まあ構わないが……ひとつ400ルンだ。本当に買うのかい?」

「えぇ、それならたとえ不味くても諦めがつきますから」


 そんな会話をしつつ、レンは安かったので物は試しと思ってひとつ約2キロの家畜カブを買って帰った。


 翌日。


「何だこのカブ……シャキシャキしてて少し甘いけど、えぐみと土くささがかなりあるな」


 レンは家畜カブをとりあえずスライスして食べてみたものの、あまり美味しくはなかった。少し甘くてえぐみの目立つ大根かカブみたいな味だ。


「うーん、安かったからいいけどこれは失敗かなぁ。これだけえぐみがあって土臭いと食べるのは難しいな……」


 そう言ってもったいなかったがレンはキッチンから出て、外にある生ゴミ入れに家畜カブを捨てた。


 翌日


「きゃーーー、なによこれ???」


 マリーの悲鳴が家の中まで響いてきた。どうやら外からのようだ。


「姉さん!どうしたの?」

「マリー姉さん、どうしたんですか?」

「マリー声が大きい。どうしたの?」


 慌てて家から外に出てきたレン、クロ、シロ。


「あ、あ、蟻よ!!大量の蟻が群がってるのよ、そこの生ゴミ入れに!!」


 そう言われてレンが生ゴミ入れを注視すれば、確かに蟻の軍勢とも言える数が生ゴミ入れに群がっていた。


「あれ、なんでだろ?ちょっと見てみるね?」


 レンがそう言って生ゴミ入れを開けると、昨日スライスした後放り込んだ家畜カブに蟻は集中していた。


「あー、これのせいか……まあ少し甘かったもんな。……うん?待てよ?蟻が群がるほど甘い作物……食べさせると家畜が早く大きく育つ……」


 そこまで考えてレンは閃いた。

 これは地球で言うテンサイなのではないかと。


『これがあればファルバでもイクスでも珍しい砂糖が作れるんじゃないか?』


「クロ、シロ、姉さん、甘いものに興味ない?」

「まあ人並みにはあるわ」

「甘いもの!!あるある!!」

「私もクロと同じかしらね。ってシロ落ち着きなさい」


 クロとマリーの反応は女性として普通な範疇だったが、シロは甘いものを非常に欲しているからかぴょんぴょん飛び回った。


「それじゃあ手伝ってくれないかな?もしかしたら砂糖が手に入るかもよ?」


「はぁ?レンあんたおかしくなったの?砂糖なんて王族か貴族しか手に入れられない貴重品じゃない?」


「ところがね、この家畜カブが砂糖になりそうなんだよ姉さん」


「よく分からないわね……そのカブがねぇ……信じられないけど、レンは以前にもリジェネレイトで私を綺麗にしてくれたこともあったし、今回は手伝ってあげるわ」


「私もよくわかんないけど手伝う!!」

「甘いもののためならなんでもする……なんでも……ハァハァ」


 クロはマリー同様あまり理解していないが、いつもの調子とレンへの信頼で快諾した。


 シロに至ってはイケナイ薬の中毒者になってしまったかのように甘いものを求めている。


「みんなありがとう。じゃあこれから家畜カブを買いに行こう!!」

「「「おーー!!」」」

 3人はレンの掛け声に合わせて声を上げた。


 その後家畜カブを10個ほど購入し、4人で抱えながら家に持ち帰り、レンは家畜カブを刻んで煮詰め、アクを石灰で取り除き、最後に乾燥風を送る魔法で精製すると、それは紛れもなく砂糖だった。


「うわ、やっぱり甘いぞ!! 砂糖だ!! 出来たー!!」

「へぇ……本当に蜂蜜みたいに甘いのね、この白い粉……」

「甘い……甘い……美味しい……えへ、えへへへ……」

 レンもクロもシロもマリーもその甘さに驚いた。雪のように真っ白な粉末を前に、シロは半ばトリップしかけていた。

「……レン、本当にすごいわ。これ、間違いなく本物の砂糖よ」

「よし、これを学院の文化祭に出そうよ!確かもうすぐだったよね?」


 確かにファルバ町立学院の文化祭は1週間後だ。


「でもこの甘いだけの砂糖を出すの?そりゃ売れるだろうけど、なんか味気ないわね?」


 マリーからのもっともなツッコミ。


「うーん、それなら揚げパンとか、ベビーカステラ、あとはパンケーキなんかどうかな?パンを油であげてから砂糖にまぶすのと、ふわふわの卵と牛乳、砂糖を使った小さいお菓子、フワフワの生クリームが乗った甘いパンとかなんだけど、どうかな?」


「パンを揚げるの?」

「甘いもの、フワフワ、生クリーム……欲しい!!絶対手伝う!!」

「へぇ、甘いパンは珍しいわね、美味しそうだし、手伝うわ!」


 満場一致で揚げパンとベビーカステラ、パンケーキ作りが決まった。


 その後ファルバのパンを色々な種類買い集め、卵や牛乳、生クリーム、油、この時期に手に入る果物(各種のベリーやりんご、洋梨、あんず)なんかをレン達は買い揃えた。


 ベビーカステラはたこ焼き器のようなものを鍛冶屋に説明し、特別料金を支払って素早く仕上げてもらった。


 それらが揃い、試作品の研究が終わった。


「うん、これなら行けそうだ!みんな、味見の感想はどうかな?」


「すごいわね……ママが作ってくれるお菓子も美味しかったけど、これはもう別物だわ」


「パンケーキに乗ってるりんご美味しいね!!いつもよりすごく甘いわ!」


「レン……愛してる……最高……美味しい……」


 マリー、クロ、シロそれぞれにとても気に入って貰えたようだ。特にシロは感極まっているのか、恍惚としている。


「これなら売り物になりそうかな」

「間違いなく売り切れるでしょうね」

「絶対売れると思わ!!」

「これを食べない人は人生損してる……甘い……幸せ」


 レンは幸せに満ちた3人を見て、自分も満足だった。


「それじゃああとは砂糖を増産しておくかな、姉さん、クロとシロには料理の練習お願いしていい?」


「頑張っちゃうわよ!!」

「絶対成功させようね!!」

「何としても作り方をマスターする」


 その後レンは大量に家畜カブを購入。

 なんだか騙している気分になりそうだったので、1つあたり100ルン上乗せした価格で購入すると、非常に驚かれ、サービスで家まで無料で運んでくれることとなった。


 そして文化祭当日。


「いらっしゃいませ〜、かつてないほど甘い各種のパンはいかがですか〜?」


 頑張って呼び込みをするレン。


「い、いかがですかぁ〜、甘くて美味しいですよぉ〜……うう、この格好レンの前だけのはずだったのに……」


「クロ、恥ずかしがっちゃダメ。今の私たちはプロ。頑張らないと」


「しかし私までこんな服着るとはね……まあ露出が多い訳じゃないし、可愛いし、いいんだけど」


 それぞれサイズのあった黒いロングドレスと、慎ましく控えめだがはっきりと主張するフリルエプロンをつけたクロ、シロ、マリーのコメントだった。


「やっぱり文化祭といえばメイド喫茶だよなぁ……ま、地球でそんなことした経験はないんだけどね」


 3人の至高のメイドを見ながらレンは悦に浸っていた。


 だがそんな華美なメイド喫茶は客が入ったら戦場と化した。


「おお、黒いお姉さん女性にしては背が高いけどすっごい美人だねぇ。シックなメイド服も超似合ってる!!」


 何やらクロをナンパしようとしているのか、褒め言葉を投げかける客がいた。


「え、えぇ……そ、そうですか……?」

「うん、マジマジ!!そっちの白いお嬢さんも金髪のお嬢さんも抜群に可愛いけど、俺は黒いお姉さん推しだな!!」

「ほ、本当ですか……?ありがとうございます……」


 モジモジしながらしどろもどろで応対するクロ。満更でもなさそうだが、どうしたらいいか戸惑っているようだ。


「レ、レン……私が可愛いって言ってもらっちゃった……どうしたらいい?」


「まあああいう客は適当にあしらっておけばいいんじゃないか?褒めてくれてるんだし、悪気は無さそうだ。ありがとうって言えたから大丈夫だよ」


「そ、そうなのね……でも……可愛いっていうのはレンに言ってほしいの……ダメ、かしら?」


 ズキューン!!ドカーン!!


 レンは心臓を大砲で撃ち抜かれたような衝撃を受けた。


「ク、クロは可愛いぞ! そのメイド服も、世界一よく似合ってる!」


「ありがとうレン!!よーし、バリバリ働くわよー!!」


 レンからのお褒めの言葉(衝撃のあまり棒読み)を貰ったクロは、俄然やる気を出して接客を始めた。


 さて、客入りも多くなり、そこはまさに戦場だった。

「レン、次の生クリーム、準備できたわ! はい、これっ!」

 クロが差し出したボウルには、数分前まで液体だったはずの生クリームが、角がピンと立つほど見事にホイップされていた。

 普通なら何分もかけて泡立てるものを、クロは自慢の腕力とスタミナで、超高速回転させて瞬時に仕上げてしまう。

「クロ、早いのは助かるけど、ボウルがひしゃげそうよ……」と笑うマリーを尻目に、クロは「任せて! 混ぜるのだけは誰にも負けないんだから!」と、また新しい小麦粉の巨大な袋を軽々と肩に担ぎ上げていた。

 一方で、シロは極限まで集中した表情でパンケーキに向き合っていた。

「……ここ、数ミリ……。ベリーの赤、生クリームの白……完璧な対比……」

 紅い瞳を鋭く光らせ、ピンセットを使うような繊細さでカットした洋梨やリンゴを並べていく。

 シロが盛り付けるパンケーキは、もはやお菓子の枠を超えた芸術品だ。翼を羽ばたかせて上空から全体のバランスを確認するその姿は、まさに「味覚の守護天使」。

 時折、自分へのご褒美(という名のつまみ食い)で指についたクリームをペロッと舐め、「……至高。レン、愛してる……」と小声で呟きながら、恍惚とした表情でまた次の「作品」に取り掛かっていた。



 客の感想としては


「おいなんだこりゃ?甘くてうめえ!」

「甘くてとろけて舌の上で消えるな?もっとくれ!」

「この小さいのも素朴で美味しいわね、パンは普通のパンに見えるけどすごく甘いわ」

「すごい繊細な盛り付けね、目でも楽しめるわ」


 という感じで大盛況間違いなし、といったところだ。


 そんな大忙しの中


「シロ、これ秘密のサービスね、味わって」


 そう言ってベビーカステラをシロの口に入れるレン。


「んん……この素朴だけどしっかりとした砂糖の甘み……やっぱりたまらない!!誰にも渡さない……と言いたいけど今はこれを販売中。この味を多くの人に届けるのが使命!!」


 そう行ってシロは喫茶店を文字通り飛び出し、学院の敷地中で商品を持って超高速で飛び回った。


「シロー、人や物にぶつからないよう気をつけて飛ぶんだぞー」


 こんな風にクロの強力な接客と調理補助、シロのハイスピードな宣伝と配達もあり、1人、また1人とカシウス家の喫茶店に入る人が増え続け、砂糖の魔力にたくさんのひとがやられてしまった。


 こうしてレン、クロ、シロ、マリーは慣れない喫茶店運営を頑張り、大量の客を捌き、大勢の人達を満足させたのだった。


「ふぅ〜、疲れたなぁ」

「でも心地いい疲れね」

「甘いもの……あんまり食べる暇なかった……」

「またレンに作ってもらえばいいじゃないシロ」


 そんな各自の感想を述べる4人。


「そうだな、あとはこの精製法を広めれば簡単にエウレアでも砂糖が手に入るようになるから、家畜カブを譲ってもらったお礼に、農家のおじさんにでも教えるか」

「いいわね、砂糖で作るものみんな美味しいから好きよ」

「砂糖が簡単に……?是非そうしてレン」

「そうね、パパとママにも食べさせてあげたいわ」


 かくして甘い砂糖と文化祭の話は結末を迎えた。


 その後砂糖の作り方を教えられた農夫は後に億万長者となり、エウレア中に砂糖はすぐ広まり、彼は深くレンに感謝した。

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