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幕間① 還る森、繋ぐ声

 イクスの森は、新緑の匂いに満ちていた。  かつて地球時代に歩いた、あの遊歩道を彷彿とさせる木漏れ日の下、一行は静かに、しかし確かな足取りで歩みを進めていた。


「レン、見て! 私、こんなに軽やかに歩けるのよ! この土の感触、獣人の体になってから初めての森だわ!」


 クロが弾むような声で笑い、一行の前を駆け抜けていく。その後ろでは、マリーが「待ちなさいよ、クロ!」とウキウキした足取りで追いかけていた。


 その少し前を行くのは、ウィリアムとレベッカだ。二人は仲睦まじく、しっかりと手を握り合いながら、透き通るような空気の中を軽やかに歩いている。かつてレンが憧れた、あの二人の背中がそこにあった。


「……お父さん、お母さん。……久しぶり……」


 森の奥、古い大樹の枝に止まった二羽のカラスを見上げ、シロが少し遠慮がちに、でも愛おしそうに声をかけた。


「おぉ、お前なのかい? 立派な姿になったものだ」 「まぁ……なんて素敵な姿。本当に、立派になったのね……」


 カラスの両親に、名前という概念は伝わらないかもしれない。けれど、娘の成長を喜ぶ親の慈しみは、言葉を越えてそこに溢れていた。ウィリアムが帽子を取り、一歩前に出る。


「はじめまして、シロのお父さんとお母さん。ご挨拶が遅れてすみません、私はウィリアムです」

「私はレベッカ、レンの母よ。シロさんのご両親にお会いできて嬉しいわ。よろしくね」


 相手がカラスであっても、二人の敬意は変わらない。穏やかで丁寧な挨拶。その横で、レンは背筋を伸ばして二羽を見据えた。


「お久しぶりです。遅くなりましたが……シロは今、僕のパートナーとして、そして家族として、立派にやっています。あの時、彼女を僕に預けてくれて、本当にありがとうございました」


「わ、私も! シロと一緒にレンのパートナーをしている、クロです! よろしくお願いしますっ!」

 クロが少し口ごもりながらも、精一杯の元気で頭を下げる。


「お久しぶりです! 私もレンも、みんな元気ですよ! この森は相変わらず気持ちがいいですね!」


 マリーの明るい声が森中に響き渡り、木々がザワザワと祝福するように揺れた。

 そこからは、終わりのない報告会が始まった。シロは少し照れくさそうに、けれど言葉を噛みしめるように、カシウス家での日々を語り始めた。


「ふふ、こんなことがあった……あんなことも…………あと、これが美味しかった……レンは、料理の天才……」


 語られるのは、主に食べ物の話ばかり。けれど、それを聞く両親は、娘がどれほど満たされた生活を送っているかを察したのだろう。幸せそうに目を細め、静かに娘の話に聞き入っていた。


 昼過ぎに始まった語らいは、気づけば日が傾き、森がオレンジ色に染まり始めるまで続いていた。誰も疲れを感じていなかった。そこにあるのは、ただ純粋な充足感だけだった。


「じゃあ、お父さん、お母さん……また来る……。元気で」


 シロが優しく手を振る。二羽のカラスは力強く羽ばたき、黄金色の空へと舞い上がった。

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