第十七話 お揃いの銀と、未熟な信仰
クロとシロが、人間と同じ神の似姿としての魂を持つ「獣人」へと変身を遂げた翌日。
レンは二人を連れ、報告のためにカレンの対談所へと向かっていた。
道中、レンの様子は明らかに異常であった。目は落ち窪み、顔色は死人のように青白く、足取りは覚束ない。
無理もなかった。昨晩、レンの精神は完全に破壊されていたのである。
人間体となったことで不安と甘えを爆発させた二人は、当然のようにレンとの添い寝を要求した。唯一の理性の砦であったマリーに助けを求めたが、彼女もまた二人の急変に混乱しており「好きにしなさい」と投げやりに放り出してしまった。
結果、レンは左右から「暴力的なまでに魅力的な女性の体」に密着され、一晩中カチンコチンに固まったまま過ごす羽目になった。地球で生きていた時は、女性と縁のなかったオタクのレンにとって、それは過剰なまでの劇薬であり、口から半分魂を吐き出した状態で朝を迎えることになったのだ。
対談所にたどり着き、個室のドアを開ける。出迎えたカレンの第一声は、祝辞ではなく呪詛であった。
「死ね。リア充爆発しろ」
レンと同じく地球で独身を貫いた想像主にとって、絶世の犬耳美女と天使のような翼を持つ美少女をはべらせるレンの姿は、怒りと嫉妬を禁じ得ない光景だった。
「何が自分自身の死を願ってんだ、この性悪想像主が!」
レンの悪態に、カレンは血の涙を流しながらハンカチを噛みしめる。
「うるさい。そんな絶世の犬耳美女と天使のようなカラス美少女をつれて僕の前に来る君が悪い」
「カレン。レンはあなたとは違う。レンを転生させて私達に出会えるようにしてくれたのは感謝してるけど、今のレンに対して貴方が怒るのはお門違い」
「ああもう、レンがこれほどの『スーパーリアオタ充』になるなんて想像の埒外だよ……。
クロちゃん、君は自分がどれだけ美人か自覚しなさい。鏡を見て他の人間と比べてごらんよ。君がもっと綺麗になろうとすれば、レンはもっと喜ぶはずだから(悔しいけど!)。
シロちゃんも謝るよ。確かにレンは僕とは違う。僕が経験しなかったことを経て、何より君たち二人が側にいるんだもんね……」
カレンはそういいながら血の涙を流して、どこから取り出したのかハンカチに噛み付いてキーーッと悲鳴をあげていた。
「私が……綺麗? 美人……? 確かに、人間になってからみんなの見え方は変わったけれど……。でも、私がもっと綺麗になったら、レンが喜んでくれるの……? ……か、鏡! 鏡はどこ!?」
「ん、想像主なんだからちゃんとして。貴方は一人でレンには私達がいる。全然違う」
カレンの言葉に、クロは自分が「美人」であるという自覚がないのか、顔を赤くしてもじもじと俯いた。対してシロは、冷徹なまでに鋭い言葉をカレンに突き刺す。
「シロちゃん……独り身のおじいちゃんに向かって、その言い草はあんまりじゃない……? 君、もともとおじいさんやおばあさんは大好きだったはずなのに……僕のことも、それなりに慕ってくれていたと思ってた……」
「想像主なら、これくらい耐えられると思った。反省も後悔もしていない。……それに、カレンをおじいさん扱いするのは無理がある。そんな筋肉モリモリのおじいさん、見たことがない。……正直、気持ち悪い」
「シロちゃん、言い方! 想像主の心はもうボロボロだよ!」
地球でのネットスラングを何故か使いこなすシロに心を抉られるカレン。
シロに心を突き刺され、目に見えて落ち込むカレンを不憫に思い、レンは苦笑い混じりに口を開いた。
「あー……シロ、その辺にしてやってくれ。一応カレンも『俺』なんだから、俺まで心が痛くなってくる。……クロもちょっと落ち着け。ここに鏡はないけど、家に帰ればマリー姉さんの大きな鏡があるから。好きなだけ自分を見ればいい。二人には専用の鏡を買ってやるからな」
「そ、そうね……。私、背が高いから、全身が見える大きな鏡がいいんだけど……大丈夫?」
「ああ、それくらいの金はあるさ。みんなで魔物討伐して稼いだ蓄えがあるだろ。任せておけ」
レンの頼もしい言葉に、クロは頬を赤らめながら、上目遣いでさらに問いかけた。
「そう……。ねえ、レン。……レンは、好きな髪型とか、お化粧とか、髪の色とか……ある? アイナスが教えてくれたの。女の子はおしゃれで色々と変えられるんだって……」
「俺の好みか? ……そうだな、髪の色と形は、今のクロの黒髪ポニーテールと、シロの白髪ストレートが一番好きだ。化粧はよく分からないけど……二人が塗ってるその桜色の口紅はいいと思うぞ。俺、桜色が一番好きなんだ。だから、今のままで十分だ。髪の色も変えないでほしいし、服も今のワンピースがすごく似合ってる」
レンの率直な言葉に、クロは嬉しそうに身をよじらせる。しかし、シロは冷静に、かつ独占欲を滲ませて釘を刺した。
「レン、お化粧のことはいい。でも、洋服に関してはちゃんと意見が欲しい。レンが私たちに着てほしい服を、レンが選んで。……カレンのことは、善処する」
「あー……了解だ、シロ。頑張って選ぶよ」
そんな三人の甘い空気感に、ついにカレンが震える声で割り込んだ。
「あのー……そろそろ、その甘ったるい会話をやめてもらってもいいかな? シロちゃんからリアルハートブレイクショットを喰らって瀕死なのに、これ以上幸せオーラを浴びせられたら、おじいさんの心は粉々だよ……」
「あ、ご、ごめんなさい、カレン様!」
「カレンの心なんて、どうでもいい」
「おい、シロ! 善処するって言ったばかりだろ、謝りなさい。そういう態度はクリスチャンになるには良くないぞ。俺も人のことは言えないけど、ちゃんと謝るんだ」
「……ごめん、なさい……カレン……様」
レンに嗜められ、消え入るような声で謝るシロ。カレンは力なく手を振った。
「だー、もういいって。とりあえず幸せオーラを抑えてくれればそれでいいから。……それから二人とも、僕の正体を知ってるんだから『様』なんてつけなくていいよ。カレンさん、って呼ぶ人が一番多いかな」
「……なんだか、結果的に色々と迷惑をかけたみたいで済まない」
「んー、まあ、レンレンが幸せならそれでいいような気もするし……。ちょっと複雑だけど、大丈夫だよ」
「ありがとう。……それで、これから二人にイエス様のことを知ってもらうつもりなんだけど、想像主の側から何か指示はあるか?」
レンの問いに、カレンは少し真面目な顔をして頷いた。
「そうだね。なるべく早く二人の『装備』を作ってあげることかな。店は、クリスチャンの一家が営んでいる『ライオンハート』さんのところが良いと思う」
カレンの話によれば、ニエフにはある明確な傾向が存在するという。
「ニエフではね、なぜかクリスチャンのほうが強くなるんだよ。戦士も職人も。理由?知らない。たぶん神様の応援なのかな?」
「神様の応援?それはなんだ?地球のクリスチャンは戦うことなんてなかっただろ? なのに、なぜ信仰心が戦闘力に結びつくんだ?」
「僕にも確かな理由はわからない。ただ、ニエフは地球よりも戦いが多い過酷な世界だ。だから、もしかしたら神様がクリスチャンに、基本スペックを底上げするような『加護』を与えてくれているのかもしれない。……あくまで僕の憶測だけどね」
さらに話題は、マリーの装備にも使われている稀少金属『ミスリル』に及んだ。
カレンによれば、ミスリルが信仰心を反映して強度を増すのは、カレン自身のイメージが具現化した結果だという。ミスリルは元々『指輪物語』という、聖書をモチーフにしたファンタジー文学に由来する架空の金属。そのため、ニエフにおいても聖書(信仰)と密接な関わりを持つ性質を与えられたのだ。
「ミスリルはね、信仰で“応え方”が変わる金属なんだよ。使い手の在り方に、けっこう正直でさ」
「応え方が変わる?」
「うん。誰が持っても同じ性能ってわけじゃない。……伸びる人が持てば、すごく伸びる。マリーさんなんかは、まさにそのタイプだね」
カレンはそこまで言いかけて、ふと口をつぐんだ。
「……ま、まあ! だからって別に他の金属が劣ってるわけじゃないよ!? 銀だって十分強いし、扱いやすいし!」
「……なんだよ、今の間」
「え? い、いや? なんでもないけど?」
「絶対なんか言いかけただろ」
「言いかけてない言いかけてない! ただの一般論! 深い意味はないよ!?」
露骨に目を逸らすカレンを見て、レンは半眼になった。
「……察した」
「察するな!」
「要するに、信仰とか精神性とか、その辺がガッツリ反映されるタイプの装備ってことだろ。……マリー姉さんはともかく、俺やお前が持っても宝の持ち腐れになる可能性が高い、と」
「わあああああ! 自分から地雷踏みにいくのやめてくれない!? 僕は何も言ってないよ!?」
「でも当たってるんだろ」
「………………」
「おい」
「………………可能性の話だよ?」
観念したようにカレンは視線を泳がせ、ぼそりと付け加えた。
「ミスリルって、“信仰が芯になる人”が持つと本領発揮するんだ。マリーさんはもう完全にその領域。……でも、僕らはまだそこまで到達してない、ってだけで」
「……あー」
レンはすべてを理解した顔になった。
「言わんでいい。分かった」
「だよね!?」
「俺、自分の信仰がマリー姉さん級にしっかりしてる自信、正直ない」
「僕もだよ!」
二人は一瞬、無言で見つめ合った。
そして、ほぼ同時に。
「………………はぁ」
深いため息を吐き、鏡合わせのように四つん這いになって床へ崩れ落ちた。
「なんかこう……改めて突きつけられると精神にくるな……」
「分かるよ……。僕も同じだよ……。マリーさんと比べると、自分の信仰なんて砂粒みたいなもんだし……」
「神様や父さんや、みんなに支えられてばっかだな……俺……」
「僕もだよ……。想像主とか言ってるけど、精神性は全然だし……」
完全に打ちひしがれた二人は、そのまま項垂れた姿勢で固まった。
そんな情けない男たちを、クロとシロはしばし無言で見下ろしていた。
「あ、あの……カレン様。とにかく、私たち、レンとお揃いの装備――リビングアウトフィット?を早めに作ればいいんですよね?」
「レン……元気出して」
シロに至っては、あまりの無惨さに珍しく同情の言葉を口にする始末だった。
「……そうだな。今さら自分の信仰の弱さを嘆いても始まらないか」
レンが力なく顔を上げると、シロがピシャリと言い放った。
「落ち込むのはそこまでにして。話が進まない」
「はぁ……。レンレン、動物時代に集めた二人の素材はちゃんとあるかい?」
「ああ……換羽期前だったから、俺の時よりは少ないけど……一応ある」
「なら……足りない分を補う『ちょっとずるい方法』を教えるよ……」
依然として魂が抜けたような二人だったが、そこに二人の動きがあった。
「えいっ!」
「……ふふっ」
「はうっ!? ……やわらかっ!?」
項垂れるレンの左右から、クロとシロがその豊満で柔らかな体を容赦なく押し付けた。耳元にくすぐったい吐息が触れ、レンの脳内に快楽と戸惑いの火花が散る。
「レン、大丈夫よ。私たちは先に大人の体になっちゃったけど、レンはこれからもっと大きく、強くなるわ。私は信じてる。それに……レンが神様をちゃんと信じていること、言葉は分からなくてもずっと感じていたの。レンの信仰は、弱くなんてないわ」
クロの包み込むような抱擁に続き、シロが静かに、だが熱のこもった声でささやいた。
「レン……私もずっと見てきた。イクスの教会で、あなたがあんなに頑張っていたのは、イエス様のことが好きだからでしょう? 自分の信仰を弱いだなんて言うのは、たとえレン自身であっても私が許さない。もし弱いのなら、私とクロが支える。今まで一緒に戦ってきたように、これからは一緒に神様に従う……ただ、それだけでしょ。私たちはいつも一緒」
獣人となり、人間と同じ魂の性質を得てまだ二日。それでもこれほど深い慈しみと愛情が溢れ出すのは、レンが動物時代から二人に注いできた「クリスチャンとしての誠実さ」が結実した結果であったのだろうか。
「二人とも……ぐすっ……ありがとう……。情けないマスターだけど、これからも俺を助けてくれ……。神様が二人に出会わせてくれたことに、二人が俺を選んでくれたことに……心から感謝する。ありがとう」
レンの涙ながらの告白に、クロは愛おしそうに目を細めた。
「当たり前じゃない。最初に私を選んで、助けてくれたのはレンなのよ? 私がレンを選んで愛し、助けるのは、あまりに当然のことだわ」
「レン、私はあのままなら死にゆく運命だった。それを変えてくれたのはレン。……レン以外を選び、愛するなんて、たとえこの世界が消えてもあり得ない」
二人がレンを甘やかす光景を、想像主・カレンは「血の涙」を流しながら見つめていた。
「おねショタいいなぁ……。でも、少し心配かな。僕にはどうしようもないことだけど……」
真っ先に出るのがオタク的な感想なのは、カレンが心底オタクだからだろう。確かに、姉属性を好むレンとカレンにとって、年上の美女に慈しまれる現状は理想の具現化に他ならない。だがその呟きには、賢者トライアードが抱いたものと同じ、拭いきれない不安が混じっていた。
やがて二人の抱擁が解け、レンは涙を拭ってカレンに向き直った。
「カレン、話を進めよう。クロとシロのリビングアウトフィットを作る際、素材の少なさを補う方法を教えてくれ」
「あー、はいはい。基本は前回と一緒だよ。ただ、今度は元になる装備と素材の上に二人を立たせて、レベッカさんとマリーさんに融合の魔力を注いでもらう。同時に、クロちゃんとシロちゃん本人にも魔力を放出させるんだ。本人の魔力を直接注ぎ込めば、素材の少なさは十分にカバーできるはずだよ」
カレンは空中に図を描くように説明を続ける。
「レンレンも一緒に立って魔力を出したほうがいい。三人で手をつないで、魔力を循環させるイメージで放出するんだ。絆を定着させるようにね」
「なるほど……。ベースにする装備の金属は何がいいと思う? やはり、ミスリルの方がいいのか?」
「んー、そうだねぇ。もちろんミスリルは信仰による恩恵も強度も高いんだけど……」
カレンが言いかけた時、食い気味に二人の声が重なった。
「カレンさん、レンと同じ銀がいいです!」
「レンと同じ銀がいい。……ふふっ、ペアルック」
二人の強い意志に、カレンは苦笑して肩をすくめた。
「本人たちがこう言ってるし、銀でいいんじゃない? 共通する部分が多いほうが、お互いを補い合う共鳴効果も高くなる。それに、銀だって決して悪い素材じゃないからね」
「よし、銀で決定だ。二人とも、俺が早い時期に銀でリビングアウトフィットを作ってしまったせいで、お揃いを強いる形になって済まない。よろしく頼む」
レンが申し訳なさそうに言うと、クロは花が咲くような笑顔で首を振った。
「マリー姉さんのミスリルも格好いいけど、私はレンとお揃いなのが一番嬉しいの! 謝らないで、むしろ幸せなんだから」
「素材の性能なんて関係ない。レンと同じものを身につけている、という事実が私には大事。……ふふふ、ペアルック……」
シロに至っては「ペアルック」という響きに陶酔している。二人の深い愛と、特にシロの意外なこだわりを目の当たりにして、レンは気恥ずかしさとそれ以上の幸福感に包まれるのだった。
「一つ気になっていたんだが、休暇を取ってまで急いで作る理由は何だ?」
「リビングアウトフィットは文字通り『生きている装備』だ。君たちの体毛や血液を核として作る、いわば体の一部。早い時期から身につければそれだけ馴染みが早まり、効果も劇的に上がる。レンレン、君自身も最近、装備の恩恵が強まっていると感じないかい?」
「……確かに。最近は防御力だけでなく、攻撃魔法の伝導率も上がっている気がする」
「――ただし」
カレンは指を一本立て、わざとらしく咳払いをした。
「でもね、それが“最初から完璧に使える”とは限らない」
「どういう意味だ?」
「リビングアウトフィットは最初から完成品じゃないんだよ。君たちと一緒に育つ装備なんだ」
カレンは空中に図を描くように指を動かす。
「核になるのは体毛や血液、魔力、それに三人の絆。つまりこれは普通の防具じゃない。半分は身体、半分は魂でできてる」
「……身体の一部、か」
「そう。だから最初から100%性能なんて出ない。むしろ出たら危ない。同期が取れてない状態で全力出したら、最悪、体のほうが壊れるかもね」
さらりと恐ろしいことを言われ、レンは眉をひそめた。
「じゃあ、どれくらい出るんだ?」
「最初は……六割、出れば上等かな」
「六割!?」
「うん。装備の性能は高い。でも“噛み合ってない状態”だとむしろ扱いづらい。魔力の流し方、体の動かし方、戦い方。全部が合って初めて真価が出る」
カレンは肩をすくめる。
「特殊で強い装備だけど、使いこなせるかは別。これがリビングアウトフィットの面倒なところだね」
「……なるほどな」
レンは小さく息を吐いた。
「つまり、装備が強いんじゃなくて――俺たちと“噛み合って”初めて強くなる、ってことか」
「その理解で完璧」
カレンは満足げに頷いた。
「クロちゃんは肉弾戦主体だろ? でも人間体での間合いや重心にはまだ慣れてない。シロちゃんも同じ。飛べるとはいえ、翼と腕を同時に使う戦闘はこれから覚えることになる」
クロとシロは顔を見合わせ、小さく頷いた。
「だから最初は“装備に頼る”んじゃなく、“装備と体を慣らす”期間が必要なんだ。少なくとも一週間――フィルファ君とアイナスさんに訓練をつけてもらったほうがいい」
「やっぱり訓練か……」
「うん。そこで魔力循環と身体操作が安定すれば、装備の同期率も一気に上がる。七割、八割……って感じでね」
カレンは軽く笑った。
「最初から完成してる装備なんて、つまらないだろ?」
「……違いない」
レンは苦笑し、クロとシロを見る。
「俺たちで完成させていくってことだな」
「ええ」
「ん」
二人は迷いなく頷いた。
「じゃあ方針は決まりだね。まず一週間、訓練。そのあと製作に入ろう」
「了解だ。……最初は六割でもいい。どうせ最後まで付き合う装備だ」
「いいね、その覚悟。リビングアウトフィット向きだよ、レンレン」
「それと銀はね、魔物特攻・魔力伝導・軽い・加工しやすい、そして科学的にも強い。地味だけど便利なんだ。初心者から上級者まで選ぶ素材だよ」
「銀の特性がここまで二人の属性に噛み合うとはな……。お前、本当によく見てるな。……まさか、二人のプライベートを覗き見してないだろうな?」
「失礼な。神様からピーピング制限はかかってるよ。第一、僕らみたいな煩悩の塊にそんな能力、危なくて与えられないだろ?」
「……説得力がありすぎて嫌になるな」
製作には、三人の絆を繋ぎ止めるための媒介が必要だ。
レンはこれまで伸ばし続けていた髪を切ること、そしてコップ一杯分の血液を提供することを承諾した。乙女チックな髪留めでまとめられた中性的な美髪が失われることに、クロとシロは少し寂しげな表情を浮かべたが、それが「絆の装備」になるのならと最後には微笑んだ。
「よし、一週間後に出発だよ。レンレン、休暇申請を忘れないでね」
「ああ、早く二人に装備を作ってやりたいからな。……じゃあな、カレン」
「はーい、レンレンも頑張ってねー。い・ろ・ん・な・意味で☆」
「余計なことを言うな! 行くぞ、二人とも」
騒がしく去っていく三人の背中を見送り、一人残されたカレンは深く息を吐いた。
「ふぅ、疲れた……。あんなに可愛い子たち、アニメでも見たことないよ。……でも、本当に大丈夫かな。今の幸せが、いつか彼らを追い詰めなければいいけど」
それは、想像主としてこの世界を俯瞰し続けてきた彼が抱く、拭いきれない不安。
しかし今は、迫りくる輝かしい未来の準備を始めるしかなかった。




