第二話 生贄
妹も揃い、家族で食事をする中。
違和感を覚えたのか?荊子が彼女にとある質問を投げかけた。
包帯の巻かれた、見つめ合う事の出来ない瞳でサインをするように顔を向き合わせる。
「食事の補助はしなくても大丈夫?あまりにも自然にカトラリーを握っているものだから気になって」
「ご心配には及びません。日常的に慣れておりますので。それに今は魚料理、僅かながら念力を感じます」
「余計な事を言わないでくれ、食えなくなる。朝の漁で捕獲されたと生々しい事を言うつもりだろう。第一、その炎とはなんだ。双子の私には見えないぞ」
私が話を遮ると、呪は表情を殺し真顔になる。
何度言ってもお互い見えている世界感が異なるからだ。
とっかかりが有れば、自分なりの解釈が出来るのだが向き合う気力も取り付く島も持ち合わせてはいなかった。
奇々怪界な能力に私は表情を怖ばされる。
しかしそれと同時に羨しくも思った。
妹と同列に扱われたい訳ではない。
だが、何か一つでも特技が有ればそれは社会的な評価や自信。精神の安定に繋がる。
私は伯爵家の時期当主として家業の財政や商売に携わって来たが、上には上がいるし中途半端な才能とも思っている。
これ以上の危険なリスクを取る必要も無いし、結婚を控えているのも相まって安定思考に向かうのが正しいと自分を見つめ直す機会を手に入れた。
「分かった、此処は正直に言う。不気味だとは思わないか?同じ血縁者に凡人では捉える事が出来ない“何か”を見る事が出来る者がいるんだぞ?神からの授かりものなのかは分からない。理屈で証明出来るのかも。ただ、調べてみる価値はある。重要な事に変わりはないからな」
そのあと付け加えるように「お前も気になるだろう」と言うと同意するように頷く。
妹は何か考え事をした後、幼少期の話から始めた。
「私は物心付く前からこの状態で、人や動物を揺らめく炎を使い判別してきました。しかし、現世の炎を私は知りません」
「それは私も知ってる。焚き火で空気が熱いと分かっていても説明を受けなきゃそのまま手を火傷する所だったぞ。お前は学習能力が無いのだと常々思った」
「ちょっと祝さん、そんな言い方はあんまりだわ。視覚情報は生きる上で重要な物だもの。それが遮断されるから障害になるんでしょう?」
「私は構いません。自分でも自覚がありますので。でも、同じ境遇の方を侮辱する事はなさらないで。私のアイデンティティであり、仲間だと思っておりますから」
「分かっている。思っている以上に快適な暮らしをしているから甘えてるだけだ。本当に苦しい者は助けを呼んでも来ない。応えてくれない。自己責任で片付けられる。別々の苦しみや課題が用意されているのが人生だ。他にも特徴は?色彩は理解出来るそうだな」
すると呪ではなく、荊子の方が目を丸くし驚いている。
盲目で有れば、それと同時に色盲であっても不自然な事はない。むしろ、それが自然の道理という物だろう。
彼女は暗闇の中にいると思っていたが案外そうでもない。
「えぇ、血縁者同士は似た色の炎を宿していますが荊子さんは違うようですね。町に出る機会がないので分かりませんが、家政婦にその炎が宿っている様子は今までありませんでした」
「じゃあ、なんらかの法則があるという事ね。犬はどうなのかしら?とても気になるわ」
「不思議な物で彼らは炎が宿る者を分かっているようです。吠えたり、側に寄る事も多いようですね」
「確か噂で聞いた事がある。犬は赤と緑を判別出来ないと。それよりも重要なのは今、帝都を騒がせている大鯰だ。湾岸で目撃情報があったらしいな。気味が悪い」
昔話で地震の際に地下近くで大きな鯰が暴れるというのを見聞きした者も多い。
しかしそれはあくまで架空の話で、現実に存在するものではないと考えていた。
この国には数年に一度、高貴な生まれの女性が行方も知らぬ場所に向かい生活をするという儀式がある。
その“生活”というのも自分には情報が無く意味不明な因習だなとしか思わなかったが、我が国の自然災害の多さを思えば尊い犠牲なのかもしれない。
集団はそうやって異なるものを省きたがる。
別に歴代の巫女達が何かをした訳ではない。
寧ろ、祖国の為に自分の役目を果たそうとする立派な女傑達とも言えよう。
しかし、集団はそれを許さない。
自分がまともだと、正しいと証明する為にそうやって悪者のレッテルを貼ろうとする。
その時点で真理に近づいているとも知らずに。
人間がどれだけ醜い生き物なのか?
それは数ヶ月後、妹との別れで知る事になる。




