第一話 妹
時と場所は戦前の帝都、私富士宮祝は皇統を含むとも噂される栄光ある伯爵家の長男として生まれた。
そうだ、他でも無い第一子の長男。
時期当主として、何不自由のない暮らしと教養を育むという未来が約束されている。
しかし、不幸な事に“目の上のたん瘤”がいると言うのも事実だった。
そうだ、私には呪という妹がいた。
盲目で常に杖を突き、飾りの鈴を焦ったく鳴らす。
その音が不愉快でそれが聞こえるたびに、私は彼女から足を遠ざけた。
双子とはそれ即ちもう一人の自分だ。
この世界、女は無力だ。家長である男が彼女達を養う。
ならば、それなりの容姿の美しさと愛嬌を兼ね備えてこそ守る価値があると言うものなのではないか?
正直に言おう。私は妹を可愛いと思った事はない。
自分が抱き止めきれない程の使命と重圧、悲劇を背負いそれに酔いしれる女性が嫌いだ。理解出来ない。
私の人生経験を持ってしても彼女に寄り添う事は一ミリも不可能だった。
だから彼女を突き放した。それは婚約者である咲羅荊子を含めた家族との食事会でも一緒だった。
「荊子さん、いつも息子と仲良くしてくれてありがとう。貴女のようなしっかりした女性なら私達も安心だわ」
「恐縮です。私もまだまだ未熟の身で、自分でも子供らしい一面を捨てきれてない部分もあると思いますが。祝さんとのご縁を大切にしたいと考えています」
「犬を多頭飼いしているんだろう?良いじゃないか、それが貴女の魅力なんだから。面倒見が良く、人間以外にも慈悲深い。母親になれば、良い女性になるだろう」
すると彼女は静かにニコリと微笑む。
内助の功、縁の下の力持ち。そう言う言葉が彼女に似合う。
最初、彼女と会った時。剣術に秀で、道場で居合をする姿を見た事があるがああ言う姿は嫌いだ。
女性は男性と同じ振る舞いをするべきではない。
それぞれの役割と機能がある。
社会の中でそれを生かし、支え合う事こそが美徳だと思わないか?
実際に彼女には自分以外に縁談という縁談がなかったらしい。
着飾る事を忘れてしまった彼女に手を差し伸べるようにドレスを渡した自分の判断は正しかった。
自分の横に座る女性は間違いなく理想そのものだろう。
沈黙が場を支配する。
大事な食事中だ、私語は慎みこの場の空気に浸るのが心地良い。
そんな中、理不尽な鈴の音が此方へと近づいてきた。
「呪様が参られました」
「ご無沙汰しております、荊子さん。心の炎が以前より縮んでいらっしゃるわ。どうか無理をなされないで、兄に嫌な事は口で伝えるべきかと」
家政婦の腕に捕まり、占星術なのか?不気味な文言を口にする妹に対して荊子は下品な大きい笑みを浮かべた。
そのあと、自ら隣の空席を引き。呪を案内する。
「ふふっ、ありがとう。貴女には全てお見通しなのね。ドレスが窮屈で息苦しさを感じるの。それをずっと我慢してて」
「コルセットが原因だろう。食事会である事を想定して事前に緩めておけば良いんだ」
「兄さん、身体的な問題ではなく。心の問題です。愛とは自分の思想や好みを押し付ける物なのですか?ありのままの荊子さんを受け止める事こそが本物の愛なのでは?」
「縁談の無いお前にそんな説教はされたく無い」と心の中で何度思った事だろう。
盲目のくせに彼女の姿を見ずに勝手な意見を並べるなと言いたくなるがそう言う自分が嫌いだと判断し口を噤んだ。
結婚とは両家の繁栄、富の象徴だ。
豊かで無ければそもそもありつけない権利だ。
女性を娶る事が男にとって社会的なステータスに直結する。
釣り合う家柄は思っている以上に範囲が狭い。
上澄みで有れば尚更だ。その中で自分は彼女を選んだ。
そうせざるを得ない事情や背景があるのだ。
彼女にドレスを贈る事で自分には経済力があり、衣食住に困らない事を伝えたいだけなのに何故分からない?
見えない物に浸るのではなく、見える物で思いを伝える届ける事の何が可笑しいのだろうか?
「女以上に人の理から外れたお前には分からないよ。愛とは安全だ。穏やかな日常の中でしか得られない。それを維持するには資金が必要で、自分にはその才覚がある。上を見たらキリが無いが、少なくとも荊子を養う経済力はあるんだ。それを否定するな」
それに同意するように言われた彼女は静かに二、三度頷く。
直感的に分かってもらえていると、自分の意見や思いが上手く伝わっていると思った。
そのあとも揚げ足取りの上手い妹も交えた食事会が始まった。




