最終話 誘い
終わりへと向かう舞台は全て整った。
後は、最初に行った神楽舞を再び行うだけ。
閉会式も終わり、一息吐く間もなく小町と希輝は巫女装束に着替え準備を始める。
しかしそこに望海の姿はなかった。
窓の外からは一歩先ですら不透明になる程の濃霧が立ち込めている。
まるで不安を煽られるような光景に不信感を募らせる二人の姿があった。
「そう言えば、望海はまだ来てないの?流石に集合時刻を過ぎても来てないなんて可笑しいの!小町達待ってるのに」
「なんか、家の用事で直ぐに来られなくなったんだって。そのまま現場に向かうから待っててだってさ。大丈夫なのかな?圭太君やお母さんが倒れたとか?」
一方その頃、当の本人は母親に連れられ墓地の方へと向かっていた。
今日は父の命日だったか?いや、そうではないと記憶している。
後ろに付いていく形で歩を進めるが、直感的に嫌な予感がし後退りしてしまいたくなる。
しかし、運命に導かれるように父の遺骨が埋葬されている墓石の前へと向かい足を止めた。
そのあと、数分単位の沈黙の後。
気まずい雰囲気の中、会話が始まった。
「...お母さん、お願い。何か喋ってよ」
「ごめんなさいね、圭太にこの前色々と言われて思う事があったの。薄々気づいているようだから、包み隠さず伝えるわね。貴方達は元々、双子ではないのよ」
本来であれば、仰天した仕草をすべきなのだが思ったいる以上に冷静な反応を目の前の彼女はしていた。
「案の定」その言葉が脳裏をよぎってしまうほどに。
「毎年、不思議だと思ってたの。ウチでは雛人形を飾らないし。それを川に流す風習があった。元々は三つ子で生まれる筈だったって言いたいんでしょう?その罪悪感からお母さんは子育てを慎重にしないといけなくなった。もう、失う事が出来ないから」
「そうよ、ずっと囚われてるの。生まれてくる筈だった子供に。でも、富士宮家では良くある話。片方が成長せずに障害を持ったり、亡くなってしまう事もある。でもこの血が続く以上、抗えない現実がそこにはある」
「大祭の中で私達が見てきたのはその子の亡霊だった。今からそれを鎮める為に神楽舞をやる事になっているの。準備があるからもう行くね」
望海がその場から背を向けて立ち去ろうとした時、一言「無理よ」という否定の言葉が入り彼女は背筋を凍らせる。
「違うのよ、望海。亡くなった人は高天原に向かうんじゃない。根ノ国に行くの。あの湖の水底に」
場面は変わり、既に高天原へと到着していた二人は勿論。
その入り口で儀式を見守る圭太の姿があった。
ふと自分達の前に狐の面を付けた女性が現れる。
背丈や後ろ姿は望海そのものだった。
「...」
「姉貴、準備が出来ているのなら舞台に上がって。もう、準備出来てるよ」
圭太の姉として呼ばれた女性は頷き、指示通り洞窟の中へと足を進める。
ふと違和感を感じた二人は鏡を見るが、姿はそのまま写し出されていた。
良くも悪くも鏡は真実を映し出すのだ。
儀式はスムーズに終わった。
思っている以上に呆気ない程に。
「姉貴、お疲れ様。鏡や楽器は二人が回収するって言ってたから、休んだら?」
しかし、それに彼女は答えようとはしない。
それどころか、無理矢理圭太の手首を掴み何処へ連れ去ろうとしているようにも思える。
彼も必死に抵抗したが振り解こうとするほど、力は強まり拘束が苦しくなる。
一体何処に連れて行こうと言うのか?と疑問に思う最中、最悪の事態が起きた。
次の瞬間、二人の姿は空中にあった。
床は水面と化しており、そのまま落下すれば高い水飛沫を上げるだろう。
生命の危機を感じた圭太は位置情報を伝える発信機を遠くへと咄嗟に放り投げる。
なるべく周囲に発見してもらいたいと言う願いから陸地へと投擲するが無惨にも自分から数メートル離れた所に水没した。
そこからはあっという間の出来事だった。
圭太はそのまま落下し、水中で浮き沈みを繰り返す。
その最中、彼は不思議な光景を目にする。
誰もいない水中でも抜けの殻となった街並みの数々を。
しかし、体温は勿論。呼吸が耐えられなくなり彼は意識を手放した。
「鉄壁の運び屋 伍ノ式 ー大祭と聖なる炎ー」終
最後まで読んで頂きありがとうございました。
これで本編は終了となります。
予定通り番外編を投稿しまして、本作は終了とさせていただきます。
続編となります「鉄壁の運び屋 陸ノ式 ー水没都市と南国の謎ー」は今作と同じく余裕を持って12/1から連載をスタートさせて頂く予定となっておりますので宜しければ其方もよろしくお願いします。




