第漆拾壱話 追跡
肆区の七星邸、その門前に珍しく顔触れが揃っていた。
その正体自体は、担当場所でありながらも此処を訪れるのは初めてだと言う光莉と児玉だった。
望海の姿は案の定無く、何か助けになるような手がかりが得られないかと二人は此処を訪れた。
事前に話は聞いていたが、重厚な圧迫感と威厳のある屋敷に緊張と身震いを感じながらも門前のインターフォンを押す。
家政婦に快く歓迎された後「皆さんお揃いです」と広間に案内されソファに腰を下ろした。
軽快に燕は手を振り、挨拶を交わす。
「二人とも久しぶりだね。此処に来るのは初めてでしょう?どう、他の御三家の屋敷と比べて」
「甲乙付け難いな。比べるのも烏滸がましい程、それぞれの良さがあると思う。こう言う風に言って置けば論争にもならないだろう?」
「余計な一言は付け加え無くて良いんだよ!今日は此処に来ないと解決出来ない事が沢山あって、それを一つ一つ解決する為に来たんだ」
光莉は意を決したように亘と咲羅を交互に見た。
意図を認識しているのか?準備は出来ていると頷く仕草をする。
まず初めに口を開いたのは亘の方だった。
「昨日、連絡を貰った後。花紋鏡の様子を見に行ったんだが明らかに町の風景が変わってる事に気づいた。二百年前の街並みが再現されてるのを資料で辿れる範囲で調べてみた。当時は壁が無く、民家も疎ら。海や森も見渡す事が可能だ」
しかし、彼の説明に首を傾げる者もいた。
それが瑞穂であり、とある場所を彼女は気にしているようだ。
「でも、あの大きな湖には何も水が入っていなかったというか空っぽだったのよね。流石に底の部分は見えなかったけど」
「いいや、浅間や谷川がこの前見つけてくれたんだ。水底にある都市のような存在を。ただ、流石に当時の人がどんな暮らしをしていたのかは分からないよね」
残された謎も多い中、宗教という視点から海鴎が皆に助言をする事にしたようだ。
「元々、比良坂町には様々な宗教に関わる視線が密集しています。その大元は帝国や異国由来の物でこの町本来の宗教を私は知りません。今回の神楽舞がもしそれに由来するのであれば一つの宗教や世界観があると思った方が良いかと」
「その巫女を宗教主として崇め祭る施設があの中にあるって事か。町の中に古びた楽器があるのは恐らくその名残りだろう。だけど、芸能が発展してると言う事は少なくとも衣食住は確保出来ていたんだろうな。そうじゃないと収入源は何処にあるんだという話になるし」
話は一区切りし、今度は咲羅が荊子についての情報を皆に話す事になったようだ。
「望海には以前話をしたが、彼女には愛犬家や富士宮祝の妻であるのと同じく。運び屋としての素養があったようだ。同僚には海鴎や燕の祖先もいるらしい。正に肆区は古い家の宝庫だ。彼女自身は爵位を持たない分家筋の人間で、平民出身に等しかったが素養を見込まれ咲羅家の養子となった」
「確か、富士宮家は伯爵で。身分差があったけど、旦那さんとは仲が良かったみたいね。個人的には彼の活動をサポートしたりブレーキ役だったんじゃないかな?って思うわ」
少女漫画を想像するように、空中に花が舞うように瑞穂は楽しそうに二人の関係を想像しているようだ。
燕は珍しいと思い見守る事にした。
それとは対象的に真顔で咲羅はまだ伝えられていないと会話を続ける流れに入った。
「話を続けるぞ、実家に資料がないかどうか探してみたが婚約時代の日記帳のような物を見つけた。その中で食事会に招かれた様子が書かれていたが案の定というべきか、富士宮祝に妹のような存在がいる事が明記されていた」
詳細を説明すると、祝には呪という妹がおり。
盲目という身体的特徴があるようだ。
帝国には皇族や貴族の令嬢から巫女として自凝島に向かうという責務があった。
それに彼女が選ばれたという事だけが記されていたという。
「でも逆に言うとそれだけか。富士宮家の敷地は此処にあるし、外に向かって妹を探しに行った可能性は低いか。その重要人物の名前が知れただけ上々かな。望海も出来るだけ早く復帰したいって言ってるし、閉会式後の舞には必ず間に合わせるからって」




