第漆拾話 本音と建前
全ての準備が整い、開会式の光景を見守る隼と颯の姿があった。
スムーズに進行し、大祭で無ければ退屈だと思ってしまうほど何もない状況だった。
観客席で見守る二人だが、その手には以前各自に送られた黒い封筒とカードがあり苦い表情を浮かべる。
その原因は望海の発言並びに依頼にあり、あの後彼女は自分の気づかない内に誰かに操られてその行為に及んだのでは?と猜疑心に囚われ黄泉に指紋認証等の科学調査を願い出たからだ。
しかし、それで判明する所か複数の人物達で共有した際に手に触れている為真相究明には繋がらなかった。
「...どう思う?これ、望海がやった事だと思うか?確かに仲間内の住所を把握していてもおかしく無いし手がかりの隠し場所だって自作自演で出来んだろ?」
「颯先輩、仲間を疑うのは辞めてください。それで困るの望海じゃなくて俺達ですよ。それこそ、相手の思う壺だ。犯人探しをしてる暇があるなら、今この場所で出来る事をするべきでは?」
隼の冷静な判断に流石はエースだなと頭の中で納得しながらもグルグルと答えが出ない事もあり、颯は歯痒い思いをしているようだ。
とりあえず今自分が出来るのは目の前の後輩の助言を噛み締めながら考察を出す事だろうと考えた。
「相手の目的は組織の分断か?確かに花紋鏡が配備される前の話だったな。この封筒が届いたの。指紋が複数あって犯人も絞れないなら意味はねぇよ。それで、アイツはどうしてんだ?」
「今、気分が悪いみたいで自宅で休んでるみたいです。喫茶店で倒れてそのまま弟が運んだんだとか。俺と颯先輩みたいですね」
彼の言葉にツッコミを入れたくなったが、此処は堪えて颯はまるで皆が同時に眠りに落ちた時と状況が似ていると思ったようだ。
彼女の危機は皆の危機だと直感的に結論付け隼に警戒するように指示を出した。
「大祭は終わっていない、むしろ始まったばっかだ。最後まで気を抜かない方が良い。それと、以前浅間に言われた事をそのままばあちゃんにも伝えておいた。一応、自分以外にも巫女の子孫はいるのかと聞いてみたが「分からない」としか言われなかったな」
「元々盲目で外に出るような人じゃないし、壁に隔てられた町の中じゃ探すのも困難でしょ。無理も無いと思いますよ」
「そもそも、そんな発想も無かったと言ってたしな。高貴な身分の人は社交界の関係もあって帝都に屋敷を構えてる可能性もあるし。ばあちゃんが活躍してた場所とはかなり離れた場所だったから情報が入って来なかった。どう言う習慣があったのかも知らないしな」
そのあと隼は足を組み考察を始める。
この自凝島に巫女が移り住む事は何かの習わしか?
それとも因習の類いだったのだろうか?
高貴でありながら、肩身の狭い。厄介払いとなった女性を島流しのように放出しただけなのでは?と勘繰ってしまう。
大鯰を使役する為というのはあくまで建前で念力の強い女性を贄にしていただけなのではと、一歩引いた冷めた視線で考えを膨らませる彼の姿があった。
「単純にきな臭いですよね。戦争で食べ物がないから厄介払いになった可能性もあるじゃないですか?俺達、夢の中で帝都に何度か足を運びましたけどそう言う話とか聞いた事ありませんでしたよ。上層部だけの因習だったのでは?」
「お前らの行った場所が本当に昔の帝都ならな!とは言え、素直に領土の問題もあるし。誰かが住んでいないと運営が成り立たないからそうしたとしか思えねぇけどな」
「...仮初の地主か。なんか不思議ですよね、用途のない場所に理由を付けて誰かを住まわせるって意味あります?茶番にしか思えないんですが」
確かにその通りだと思いつつ、哲学的な考えをする隼に大して勘弁して欲しいと願う颯の姿があった。
人間の思考は思っている以上に欲深く、それでいて単純な物だ。
理由を付けるのは簡単だ、しかし欲しいという思いに対して上手く言語化するのは不可能だろう。
それが出来ている頃にはもう冷静になり客観視しているのだから。
「領土があれば領海も広がるし、漁師達が潤うだろ?用途なんて後で幾らでも考えりゃ良いんだから。本当に不味いのはその土地が別の誰かに奪われる事だ」
「それもそうですね。それで、恐らくなんですけどその巫女達が暮らしてた場所。俺分かりました。恐らく、比良坂町でない事は確かです。年代が合わないんで」
すると颯はその場所が何処なのかと問いただすが、スケートリンクを指差すだけでそれ以上の動作をする事はなかった。




