第陸拾仇話 雪景色
冬季の大祭が開幕する中、比良坂町は勿論。
自凝島全体は【雪女】の影響により一面の銀世界へと変わり果てた。
望海達は暖房が効いた喫茶店の中から窓枠に積もる雪を見ていた。
店前には零央と圭太の姿があり、大きな雪だるまを作ろうと画策していた。
「そう言えば、翼のタワマンのエレベーター治ったらしいですね。でも、下に降りた途端に山岸さんから雪かきをするように要請されたらしいですよ。ざまぁみろです」
「でも、小町ちゃんはそう言う時に備えてお湯を持ち歩いてるらしいよ。にしても、神様じゃないんだからさ。天候を変えろとか無茶振りもいいところだよね」
「まぁ、まぁ。結果的にこれで設備を整える事が出来たんだ。後は開催から閉幕まで見守ろう。所で調査の進捗の方は?何か新しい手がかりは無いのか?」
児玉がカウンター越しに望海に問いかけるが、首を横に降り窓の外を見ている。
この悪天候では外に出て詳しく調べる事も不可能だと伝えたいのだろう。
「今のところ亡霊に動きは無いようです。雪の影響で足跡でもつくかと思いましたがそうでは無いみたいですね。私の仮説を少し聞いて頂けませんか?あれって、もしかしたら富士宮祝かその兄妹の物なのでは?と思ったんです」
しかし、彼女の答えに光莉は眉間に皺を寄せ首を傾げている。
納得の行かない文言を並べられ肯定の意を示す事が出来ないようだ。
だが、それが間違っているとも断言出来なかった。
「まぁ、その可能性は充分あるよね。なんと言うか、姿や声を聞くに構ってちゃんって感じだったし。注文を浴びて自分の存在に気づいて欲しいって言うのは当たってるんじゃない?」
「正に発想が幼いというか、赤ん坊に近いな。零央でももっと大人しかったと思うぞ」
「いやいや、零央様はスーパー五歳児ですから。でもそうなると大人の線は消えますね。後は...“黄色い炎”でしょうか?誰だっけ、同じ事を言ってた人がいたような」
彼女の中で何か引っ掛かる事があるのだろう。
その単語がいつ使用されたのか?事の経緯を皆で探る事になったようだ。
「確か、Dr.黄泉が肉眼でそれを最初に捉えたんだっけ?圭太君も専用の機器で見つけてるよね?発見者は他にも沢山いるんじゃ無い?」
「後は殿様がそれを探知出来るカメラを所持しているのを見た事があるな。いるとすればその中だと思うが」
しかし、正体が分かった途端に望海は無気力に顎に当てていた手を下ろし震えた身体で自身の胸元を強く握った。
何かを堪えるような、苦しむような仕草の後ストンとその場に倒れ落ちた。
その異変は店の外でも見え、圭太は慌てて中へと駆け込んできた。
耳元でボソボソと囁く声が聞こえるそれを彼は丁寧に拾った。
「分かってたんだ、野師屋様は全部見透かしてた私達の事を。やっぱり私のせいだ。私が居なくなれば」
「姉貴、しっかり正気を保って!その人に何を言われたの!?勘付いてはいたけど、これは誰のせいでも無いよ」
圭太が望海を宥めた後、夢の世界での会話を皆に話した。
野師屋の車椅子を押し、理髪店に向かう中で“三つの炎”が見えると彼から伝えられた。
通常、隼や朱鷺田の場合であっても写真には二つの炎しか収める事が出来ていなかった。
で、あれば望海は一つ余計にこれを所持していた事になるがそれが亡霊の正体だとしたら?
全て自演自在で今回の騒動を巻き起こした、その可能性もあるだろう。それを彼女は恐怖しているのだ。
そのあと、圭太はこれ以上隠し切れないと姉である彼女にだけ事の真相を話した。
恐らく仮説も含まれており、全て正しいとは言えないがこれまでの両親の行動原理はこれだったのだろうと腑に落ちたのと同時に何故言ってくれなかったのかと逆情の念に駆られていた。
「あっ、あぁ...だからお母さんは私達に厳しかったんだ。替えが効かないから、もう失う事が許されないから」
「ほら、咲耶おばさんが言ってくれたでしょう?富士宮家の特徴を。それを母さんも受け継いでいた、だから僕達が生まれた」
「圭太と私は二卵性双生児です。でも、実はそうじゃななかったとしたら?そしたら前提が全て覆ってしまう。...分かりました。どうにかして、この騒動を治める方法を探りましょう。何か新しい手がかりがあるかもしれない。自凝島も全て解き明かした訳じゃない。どうか、最後まで気を抜く事はしないように」




