第陸拾漆話 限界
「希輝ちゃん、おかえりなさい。それって那古野で買って来たスィーツ?」
「そうなんですよ、浅間先輩!ちゃんと崩さずに持って帰る事が出来たんですよ!偉いでしょ!?」
「...その割には口の周りにクリームがついてるけどね。大方、我慢出来なくて自分のだけ先に食べたんでしょう?」
信濃の事務所で待機していた浅間と白鷹に出迎えられた希輝は図星だとギクリと身体を震わせながら誤魔化すように口笛を吹き、ほうじ茶と盛り付けの準備に入った。
しかし本命である自分の本心を隠す事が出来る程の演技力があると一安心している部分も少なからずあった。
しかし、ちらりと二人は勿論側に居ない剣城の顔を思い出し隠し事は出来ないなと突き動かされ報告がてら話を切り出した。
「元々、白鷺さんに頼んで弐区に連れて行って貰ったんですけど。喫茶店による事が出来て、その途中で望海達にあって来たんです。肆区で異常があったみたいで。此処でも何か変化とかありませんでした?」
浅間は質問を仕草で返すようでキョロキョロと周囲を見渡し首を傾げる。
「いいえ」や「異常なし」という答えが出る前にそれならもう既に行動しているだろうと希輝は思ったようだ。
我ながら愚問であり自分らしくもないと会話のテンポが狂い始める。
その証拠に本来無口な白鷹が今日は彼女の調子が悪いのだと変わりにこれからの行動について説明を始めた。
「とりあえず、僕らはまだ信濃にあるはずの器具を探して指定の会場に持って行くっていう作業があるから下見をしてどれくらいの人数規模が必要なのか?を調べておかないとね」
「一人、八〇〇キログラムだっけ?重量の限界って。バラして持って行ければ良いと思うけど、問題なのはあの小山にそれを設置する事じゃない?私、平地でしか作業をした事がないんだけど」
そのやり取りを聞いた浅間が「あれ?」と疑問符を浮かべた。
比良坂町には巨大な壁を含めて高所は存在した。
それに臆する事無く、三人は自分達の役割を真っ当していたのは彼女も良く知ってる。
寧ろ、若者故か?好んでいたとさえ感じていた。
高台、坂、トンネル、複雑な順路にも対応出来る者はそれぞれの組織にいる。
それに気づいた途端に、浅間は顔を青ざめた。
もっと言うとその得意不得意でさえも赤い血にインプットされた要素なのだと言う事に。
それを確認する為に浅間は二人に対して意地悪な質問をした。
「...ねぇ、自分の知らない場所に行く事に怖いと思った事はある?慣れない場所に困惑した事は?」
「そりゃアタシ達も運び屋ですし。担当以外の場所に行くのって緊張しますけど。やっぱり、仕事の邪魔したら悪いよなとか。部外者みたいな疎外感がありますけど」
「でも、そんな僕らでも小坂には行けた訳だし多少の息苦しさはあっても仕方ないんじゃない?とは言え、もうこれ以上行動範囲を広げたいとは思わないけど。そんな余力ないし」
“余力”という言葉を聞いた浅間は嫌な予感が脳裏をよぎった。
過去、協会の事務員をしていたのにも関わらず急に担当場所を与えられそのままの晒しにされてしまった思い出を今頃になってほじくり返されるとは思いもしなかった。
次第に愛らしい食べ物を掬う手が強くなって行くのが何よりの証拠だろう。
「また仕事が増える」それと同時に「これは自分の使命だ」とも脳内で言葉が浮かんでいるようだ。
何故なら始まる前から自分にはそれが可能だと言う言葉にならない直感と理由があったからだ。
浅間本人には白鷹の言う余力が残っているのだろう。
また一人かと落胆仕掛けたが、過去と今とでは状況が明らかに違う。
適性を持つ人々をかき集める事が出来るのなら、この作戦は遂行出来ると言う計画を頭の中で組み立て始めた。
まずは自分の身近な人に声を掛けてみようと無線機を手に取ったのと同時に以心伝心するように今この場には居ない後輩から連絡が届いた。
「良かった剣城君、今丁度貴方に確認を取ろうと思ったの。二人には頼めそうに無いし、私一人ではどうにもならないから」
「何か俺に協力出来る事があるのなら遠慮なく言ってください。深夜に呼び出たされる事以外なら引き受けます」
「ふふっ、じゃあ私と一緒に登山をしてくれる?貴方なら大丈夫だと思って誘ったんだけど。頼まれてくれない?」
「分かりました、あの山にアタックするなら人は多い方が良い。協力させてください」




