第陸拾弐話 才能
高低差は勿論、周囲の田畑に囲まれた異様な高層マンション。その最上階に翼の姿があった。
手に無線機を持ち、窓ガラス越しに周囲を見渡している。
「とりあえず一波乱あったみたいだが、三人共無事みたいだな。所で其方はどうだ?動けないのも中々不便だろ」
「いや、逆に那須野さん達に迷惑かけてるようなものなんて申し訳ないぐらいっすよ。山岸さんが大泣きしてる姿が想像出来るんで」
那須野の姿は氷川の本拠地にあり側には小町もおり一緒に留守番をしているようだ。
二人の会話を聞いた彼女も近くに寄ってくる。
「寿ちゃんは高い所が苦手だから翼の所に行けないって嘆いてたの。これはコンビ解散の危機ね!」
「いやいや小町ちゃん、そうやって何度も別れる別れるって騒いでる程そうはならないんすよ。本当に別れる時は割とあっさりなんで。綱渡りに見えて太いロープの上にいるようなものなんですよ。そんな話は良いとして、いつも野次を飛ばしてくる望海が元気がないみたいで何か理由があるんじゃないかと思って聞いておきたくて」
すると小町は「ふーん」と言いながらニヤニヤした笑みを浮かべている。
相手を揶揄おうと思ったようだが那須野が目配せをし静止するように彼女を牽制した。
しかし、直接言うなとは告げないようである。
「これは望海の心の問題だから余り深入りしない方が良いと思うの。小町からのアドバイスね。それよりも凄いピンチが比良坂町に迫ってるの!雪が降らないって皆んな嘆いてる」
「あぁ、なんか山岸さんも行ってましたね。ヒーローは遅れてやってくるっていう考えなら【雪女】を起動させて雪を振らせれば良い。でもそんな単純な話じゃないでしょ、物事には手順がある。舞台の準備が整っていない状態でこれを行えば...」
「俺達のこれからの行動が険しくなってくるって事だな。確かに翼に頼むのは一番最後で無ければならない。必要な物を相応しい場所に運んでからでないとな」
答えは決まった、しかしそれ以上に理不尽だと怒りを表したのが小町だった。
顔を赤くし、鬼の形相をしたのちに地団駄を踏む。
その光景に那須野は「またか」と思うのと同時に彼女らしいとも思ったようだ。
「小町達は運び屋じゃないの!いや、違う!えっと、依頼人を運ぶのであって物を運ぶのは専門外なのね。どこまでこき使うつもりなの」
彼は彼女を宥める為に味の違う焼き菓子を二つ手に取りそれを渡した。
小町はそれに釣られて食すと理性を取り戻したのかこれからの動きを考え始めた。
「前からスキーのジャンプ台がボロボロで高天原に置き去りになってるって光莉が言ってた。でも、あんなに大きな物小町達が運べるの?」
「別に大きな物を一つとは言わず、解体してそれぞれで運べば良いんじゃないっすか?ただ、正直。人と物体じゃ念力の使い方が違うからな。適正が無いと難しいんじゃないですかね?」
運び屋にはそれぞれ役割がある。
それと同時に人に対して自分の能力を意図せず、視覚化出来ない。感覚的かつ曖昧な物によって成り立っている。
しかし、これは理屈で片付ける事が可能でそもそもの能力の根源は血統、血液の循環そのものだ。
それを手を通して触れる事によって相手に投影させ移動が成り立つ。
つまり、触れなければ能力を行使する事は不可能である。
それと同時に相手にも血液が循環していなければそれは物質とみなされ移動が困難になる場合がある。
同じ重さでも人物と物体で容量が異なってしまう場合があるのだ。
「そういや、以前隼が宅配の依頼を頼まれた時。八〇〇キログラム以上は運搬が不可能だって言ってたな。人なら千人は軽く請け負えるのにって嘆いてた」
「能力の限界なんて小町達全然考えた事がなかったの。アスリートじゃあるまいし、過去の経験や記録からアバウトにしかやって来なかったし」
「でも、良い機会じゃないっすか。俺は無線機越しで応援してるんで改めて全員集まったら相談タイムと行きましょう。協会の会議室でも良いし」
どうやら、次の問題では通常とは異なる運び屋の能力を行使する必要がありそうだ。
そのあと大友や不来方にいる隼や山岸達と合流、これからの行動を考える事になった。




