第陸拾弐話 船幽霊
隼と颯が競技場に監禁された後の行動は思ったより迅速に遂行された。
遠隔から山岸と青葉による【真偽の鶺鴒】が発動され周囲を取り囲んだ。
その状況は現場に到着した初嶺の無線機に伝えられる。
「済まない初嶺。今、不来方から鶺鴒を飛ばしてるけど競技場の中の様子が全く見えないんだ。何かの結界の類いかは分からないけど、またオカルト案件に巻き込まれたのかもしれない」
そのあと、後方から青葉の声がし「変わって」という言葉の後とあるキーワードを彼女から出た。
「状況を詳しく説明すると鶺鴒の視覚情報からは室内の筈なのに霧のような物が立ち込めてるのよ。こう言うのをオンボノヤスっていう正体不明の妖怪なんて例えられるのよ」
このような場面に既に慣れてしまっているのか?
さぞ当たり前のように言う彼らに普段冷静な初嶺も困惑し、無線越しにも関わず首を傾げてしまった。
情報が混在する中、更に騒動が起こった。
ドンドンと何かを叩く音がし、窓ガラスを見ると小さな手形が埋め尽くされるように全てずぶ濡れの状態で現れた。
これには中に居る二人も仰天と恐怖を混じり合わせた悲鳴を上げる。
「は、颯先輩!流石に此処まで露骨に俺達を脅迫して来たのは初めてだ。この競技場ごとお祓いをした方が」
「た、確かに俺もオカルトには精通してるつもりだったけど此処までの現象に遭遇したのは生まれて初めてだ。だが、こう言う時こそ冷静に考えろ。過去に同じような事例はなかったか?相手の特徴や弱点は?それになんであんなにずぶ濡れなんだ?水辺から出て来たのか?」
「此処の近くにも川はありますけど、怪談話なんか聞いた事がありませんよ。...もしかして、外の海か湖から来たんじゃ?」
冷静さを取り戻し、次第にリアクションが薄くなるどころか探りを入れるように周囲を睨みつけていると相手からの気配や動作が無くなり平穏を取り戻した。
無理矢理、不思議な力で施錠された扉も初嶺が確認すると中に入る事が出来、三人で合流した。
「颯、隼。無線で事情を聞いた時はどうなるかと思いましたが無事でなりより。また同じ事にならないとも限らない。直ぐに此処から離れた方が」
「良いや、寧ろ此処からが本番だ。この現象、他の所でも色々起きてるしな。情報収集や現場検証をしておきたい。望海から聴いてる情報もあるしな」
「流石、颯先輩。こう言う話なら貴方の得意分野だしお任せします。それで、肝心の幽霊の目的はなんですか?」
そのあと颯は頷き、幼少期に祖母から教えてもらったとある話を始めた。
「あぁ、そもそも相手は子供どころか赤子に近い。今回の手形から見てもそうだ。俺たちを困惑させて楽しんでるのは勿論だが、自分の存在意義を周囲にアピールする為でもある。そう言う昔話を婆ちゃんから聞いた事がある。“ヒルコ”と言う名前だそうだ。通例なのかは知らねぇけどな」
「颯、それは今回の現象に一番適合しうる名前なのでしょうか?先程も青葉の方から霧の妖怪名を聞きました。当てはめる事が可能なのなら自然と解決策も出て来そうなものですが」
「良いや、答えはもう出てる筈だ。あの花紋鏡を町中に飾るようになってからこう言う事態が起きた。あれの効果は“真実を良くも悪くも映し出す”って事だ。隠し事が通用しないんだよ」
「確かに変装した望海もあの鏡なら直ぐに見抜く事が出来ました。でも、真実って割と曖昧な物じゃないですか?どう言えば良いんだろう?解決出来ない本質だからこそ曖昧になってしまうと言うか」
「今回の件、誰か解決出来ない隠し事が露呈してしまったという解釈で良いんでしょうか?確かに直ぐに解決出来る物ならこのような事態には至っていない筈」
「そうだな、神楽舞が終わり花紋鏡が仕舞えない限りこの現象は止まらない。だが、チャンスでもあるんだ。島全体の問題を解決出来る機会に恵まれた。物は言いようだな」
隼はそれに頷き。解散後、小坂の秘密倶楽部で望海と合流した。
ヒルコという単語に彼女は驚き顔を青ざめるものの彼の話を最後まで素直に聞いていた。
「申し訳ありませんがその名前を聞いた事は私にはありません。もっと情報が必要ですね。...でも、今回の件を聞いて少しハッとさせられる事がありまして私の家では幼い頃。人形を川に流す習慣があり雛人形を飾らない奇妙な習慣があったんです。恐らく何か意味があるのかなと」
「その人形に魂が宿った?良いや、違うな。そもそも、そう言う風になったキッカケが分からない以上はどうしようもないか」
彼の言葉に望海は何も言い返せせずにいた。
誰かが隠し通すその真実が判明するのはいつの事になるだろうか?
案外、そお遠く無いのかもしれない。




