第陸拾話 監禁
「ねぇ、俺さ最近翼に会ってない気がするんだよね。なんか嫌われる事したっけ?」
場所は氷川の拠点、山岸は頬杖を突きながら目線の先にいる青葉と隼に声をかけた。
彼女が目線で合図を出すと直ぐに彼が口を開く。
「ほら、翼ってタワマンに住んでるでしょ?彼処のエレベーターが壊れて最上階だから階段でも行き来が難しくなって現場に来れないんですよ」
「まぁ、食料とかは色んな方法で運搬出来るみたいだから生活には困っていないみたいだけど心配よね。家に引きこもって居たら体調も悪くなるでしょうし」
「折角、おニューの服装になったって喜んでたのにな。現実はそう上手くいかないか。というより、今回の件。翼がキーパーソンになる予定だったんだよ。無線で連携が取れるとは言えどうすんの!?」
山岸が慌てるのには複数の理由がある。
まず、数多の事件が起こった夏季の大祭は日程通り終了し閉会式を迎えた。
しかしこれに入れ替わるように数週間後には冬季の開催が迫っている。
しかし、現状はどうだろうか?
会場に雪は無く、競技で使用される筈のジャンプ台の移動すら完了していない。状態も劣化している。
これでは悠長を通り越してまるで何も準備されて居ないのが正解とでも思えてしまう程だ。
そんな中で隼が過去に開催されていた当時の様子が掲載された雑誌を見ていた。
颯の実家、書庫に置いてある物と同一である。
「期間は13日、全10種。夏季よりはコンパクトな日程ですけど、この急な変化に周辺がついて行けるとは到底思えない。急かすように選手村から関係者を追い出して入れ替わるように参加者を入れてるみたいだし。選手のケアが疎かにならないといいですけどね」
「あまりにも乱雑なのよ。運び屋に全てを任せておけば安心だとでも思っているのかしらね。正直、私達の仕事の範疇を超えてるわ。寿彦さんも律儀に雪を降らせようなんて思っちゃだめよ。そんな事をしていたらキリが無いんだから」
「えぇ?俺は飛行隊の活躍が観たいんだけどな。隼もほら、フィギュアスケートが見られるって楽しみにしてただろう?」
「そうですね、良く千体のアイスリンクで子供達が滑っているのを見てたのでプロの演技を間近で見てみたいなとは思いますけど。青葉先輩は前向きな考えじゃないみたいですね。顔を顰めてる」
「まぁ、煌びやかな衣装は魅力的だとは思うけど浮かれた気分になるのもどうかと思って。とりあえず、状況を確認しましょう。今回の競技とそれに合わせて事前に不備があるかもしれない施設の偵察。情報収集はしておかないと」
今回の大祭ではスケート、アイスホッケー以外の競技は全て町の外で行われる。
開会式は二つの競技同様、大友の競技場で行われる為隼は颯と合流。施設内の見学へと向かった。
「スケートリンクなら此処が一番規模が大きいでしょうね。今更ですけど、此処まで行動範囲を広げて置いて良かった」
「此処、球技のコートもあるみたいだな。そこそこ収容人数もあるし、座席にも異変がねぇかどうか?も調べておかねぇとな。特に変な施設があるように思えないし、違和感があるとしたら謎の幽霊の存在ぐらいだな」
「初嶺も呼んでくれば良かったですね。とは言え、深追いするのもどうかと思いますけど。俺たちがパニックになって困っている所を楽しんでいる可能性もありますから。ノーリアクションでいれば、案外その手を止めてくれるかもしれません」
「愉快犯となれば派手な行動をして自分の存在を公示したいって言う心理は必ずあるだろうしな。それを考えると相手は赤ん坊と一緒だ。泣く事でしか自分の存在を気づかせることが出来ないんだから」
しかしその言葉に隼は首を傾げる、それは以前母親から泣いている姿を見た事がないと言われた経験があるからだろう。
そんな彼を見て颯は苦笑いを浮かべるが、突然異変が起こり表情をピタッと止めた。
二人で周囲を見渡すと入って来た出入り口が勝手に施錠される。
閉じ込められたと反射的に判断し保険として初嶺を無線機で呼び寄せた。
そのあと、電光掲示板が勝手に点灯し三十分の制限時間が表示される。
異様な光景に隼と颯は背筋を凍らせた。




