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第伍拾伍話 跳躍

三人は慌てて馬を放牧地へ逃した後、それと同時に車にエンジン音とタイヤが動く音が聞こえ背筋を凍らせた。

何故なら運転席を見ると無人で誰の姿もなく、それにも関わらず自動的に此方へと向かって来ているからである。


「嘘でしょ、物を操れるとかなんでもアリじゃん。朱鷺田の坊ちゃん、出来るだけ馬達を遠くへ誘導して。斑鳩様、この中で1番大きな子を借りるよ。私に考えがあるんだ。あの車を上手く惹きつける」


「何か案があるなら光莉ちゃんに任せるよ。くれぐれも落馬しないように気をつけて。馬は群で行動する生き物だ。ボスの子に跨れば他の子もそれに続くだろう。それは朱鷺田君に任せるよ」


「分かりました。とりあえず今は夢野さんの指示に従おう。親父に無理矢理習わされれたけど、こう言う場面で頼りになるとは思わなかった。感謝しないとな。所で考えって言うのは?」


彼が首を傾げ彼女に質問を問いかけると予想の斜め上の答えが出て来た事に驚愕し目を丸くした。


「いやいや!そんな事出来る訳ないだろ、動く障害を飛び越えるような物だぞ!」


「でも、よく考えて。相手はリムジンだよ。小回りは苦手だし側面から飛び越えたら上手く立ち回る事が出来る。細長い車体を生かせばこれ以上無い獲物じゃない?」


そもそも、無人のリムジンが勝手に動くという状況自体がイレギュラーの為。臨機応変に対応せざるを得ない。

光莉の案が吉と出るか凶と出るかは実際に今行動に起こさなければ分からない。


「最悪、車が廃車になっても構わない。まずは自分の身の安全を確保して欲しい。私達も遠くから援護しよう。射撃でタイヤをパンクさせられるかも知れない」


朱鷺田が顔を真っ青にする中【毘沙門天】を展開し、関係者と馬達を守るように動く。

斑鳩も自前の長銃に弾丸を入れ射撃の用意に入り準備は整った。

跨った光莉は気性が荒く神経質な馬を宥めながら背中を摩っている。

後は車のタイヤ痕、起動に規則性がないかどうか?を見極め何処に誘導するかを計算している。


何処かで動きを止める場所がないか?

それを考えた時に遠くに見える小山がこの窮地を脱する事が出来ると思い至ったようだ。


「私、高天原の方に行ってくる!これはチャンスかもしれない。森を開拓出来るかも」


光莉はそのまま、森の中への向かう。

それをリムジンは彼女の姿を追いかけ、チェイスが始まった。

道なき森を器用に駆け巡るがそれとは対象的に荒い運転により木が薙ぎ倒され、フロントガラスの割れる音がする。

その理不尽さに光莉は恐怖を覚えながらも、この島の秘密を探りたいと山に向かう。


その最中、周辺に石碑のような物を見つけ年代を知りたいと思ったがそれは歴史に詳しい朱鷺田に任せるのが最適だと判断し、光莉は自分の役目を遂行する事に力を入れる。


「此処で行き止まりだ。車を上手く引き付けて...飛ぶ!」


勿論、乗馬クラブでこんな事を習った経験は無い。

こんな事をすれば、コーチから何を言われるか?と光莉も思ったが突然現れた発想に堪えようがなかった。


作戦は上手く嵌り、交わした後。車は山へと突っ込み大破した。周囲に煙が立ち込め、起動を止める。

報告を入れる為に、一度牧場に戻り二人を呼び寄せた。


「これは派手にやったね。妻に新車を生まれて初めて強請る事になりそうだ。帰りは馬に頼る事になりそうだね。それで石碑があった場所というのは?」


「この島は秘密が多いからな。手がかりは多い方が助かるが重要なのは内容だな。だが、苔が張り付いて良く読めないな。下手に手を出したら傷つけてしまいそうだな。今読めそうなのは、巫女という単語とそれを長年女性達が勤め上げて来たことだけだな」


「それだけじゃあ何も分からないのと一緒じゃん、でも此処に記念碑みたいなのがあるって事は昔此処に誰か人が住んでたのかもね。完全に無人って訳じゃ無いのかも」


先住民の存在は今尚不明点が多い。

町の歴史に詳しい朱鷺田でさえ、自分達が生まれる前の状態を知る事は難しい。

三人は町へと帰還し、それぞれの場所へと戻った。

喫茶店で彼女から話を聞いた児玉は苦笑いを浮かべる。


「全く、無茶するな。怪我人が出なかっただけ良かったものの。高天原をめちゃくちゃにするなんて何を考えてるんだ」


「良いや、考えが読めないのは大祭の運営委員会だよ。あんな整備されてない試合会場で競技をさせようとする時点でおかしいんだよ。設備も整備されてないし。冬季なら尚更、野外競技があるはずなのに準備してる痕跡もない。問題は山積みだね」


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