第伍拾陸話 棲家
翌日になり、場所は協会の地下室。
六人の人影があり、ビリヤードを嗜む物も居ればソファに座り寛ぐ者もいる。
その中で実梨は協会に所属していない凛が側にいるのを見て、違和感と睨みをきかせていた。
「此処、お兄ちゃんのアジトなんだけど。なんで凛が側にいる訳?」
「良いじゃん、ちゃんと阿闍梨さんの許可ももらってるし。元々、共同で仕事してるのと一緒でしょう?忍岡でも依頼受けてるもん」
険悪な空気に包まれる中、それを宥める為に彼は落花生の形をした最中を差し出した。
「二人共、仲良くしてくださいね。今日は元々射撃場に向かう予定だったのですが迎えの車が大変な事になったので此処に留まるしか無いんですよ」
その言葉を近くで聞いた旭は昨日の事を思い出し笑いをし、反対に朱鷺田は苦笑いを浮かべた。
「昨日はすごかったな。家の縁側に馬がいるだけで驚いたのにトッキーが上に跨ってるんだもんな。話を聞いたら車が大破して帰れなくなったからって言われてさ、驚かない方が可笑しいだろう?」
「流石にこれ以上、斑鳩家に迷惑はかけられないからな。親父に相談したら車の手配をしてくれるそうだ。もうすぐ迎えがくると思うから三人で会場に向かってくれ。あれから何か変わった事があるかもしれない。周辺も調べてもらえると助かる」
三人は彼の指示に従い、外に出て送迎の車に乗り込んだ。
道中は既に見知った所を通る為、実梨や凛は余り気に留める様子はなかったが阿闍梨だけは違った。
目の色を変え、突然「此処で下ろしてください」と運転手に伝えると彼女達は目を見開いた。
言われるがまま、振り回される形で半強制的に会場から中途半端な場所で降りる事になった。
「お兄ちゃん、どうしたの?何か変な場所でも見つけた?ここら辺、木が勢いよく薙ぎ倒されてるけど昨日の影響でしょう?石碑があったって言うのは聞いたけど」
「あぁ!?彼処、凄い古そうな家がある!阿闍梨さんが行きたいのって彼処の事?流石に人は住んで無さそうだけど」
「構いません。私物を見つけられるだけでも何か手がかりがあるかも知れませんし。比良坂町以外にも人がいる事が分かればそれこそ大発見ですから」
凛はそれに賛同するように頷き、念の為調査用の懐中電灯を照射したが流石に此処に幽霊の痕跡はないようだ。
周囲を見渡すと外には洗濯場や桶が転がっており生活感を連想させる。
引き戸に触れると木の劣化を連想させる。
手で触れた衝撃で屑が落ちると言う事は百年経っている可能性が高い。
中に入ると杖が立てかけられており、手すりもある事から高齢者を思わせる。
座布団や食器が二つずつある事から一人暮らしという訳ではないようだ。
来客か或いは家族なのかはわからないが集団で暮らしていた可能性が高まった。
それと同じく阿闍梨はもし仮に病気や食料に苦しんでいたのであれば長生きは不可能だと考え、恵まれた生活をしていたと考察したようだ。
しかし集落のような痕跡は無いため、そこからは離れて暮らしていたのだろうと彼は想像を膨らませた。
「どうやら、どなたかが此処で隠れるように暮らしていたようですね。此処で一生を終えたのかは分かりませんが、先住民の可能性が出て来たのは良い収穫だったかと」
「でも不謹慎だよ、お兄ちゃん。無人とは言え勝手に見知らぬ人のお宅に入るなんて。此処にいた人はきっと平穏な暮らしをしたいから此処にいるんだよ。きっと町の外から出たくて窮屈だったんじゃないかな?」
「とりあえず、此処は凛達の秘密にしておこうよ。相手のプライベートを守るのも大切な事だしさ。でも、不思議だね。どうして此処に一軒だけ民家があったんだろう?」
三人は様々な疑問を持ちながらもその場を後にした。
此処に元々暮らして居た住民の正体は一体どんな人物なのか?
射撃会場に足を運んだ後も、その突っ掛かりが取れる事はなかった。
しかし、不幸中の幸いか。そこに幽霊の姿はなく競技は平穏に終わった。
そこに規則性を見出す事は出来なかったが、平穏な一日を終えられた事に皆安堵していた。




