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第伍拾肆話 起動

「節子、溜め息を吐いてはダメよ。幸せが逃げてしまうわ。とは言え、これじゃあどうしようも無いでしょうね。大祭も六日目、とりあえず射撃競技は問題なく初日を終えられただけ良しとしましょう」


夕暮れの会長室、今後のスケジュールを見ながらその仕草をする節子を見て五曜はそのように励ましの声をかけた。


「明日は馬術競技の初日が控えています。念の為、経験のある光莉さんや朱鷺田さんを会場内に配備するように手配しました。馬に何か異変が有れば気付くと思いますし」


同じく側に居る武曲は顎に手を当て考え事をしているようだ。

その光景を見て、五曜は珍しいなと思ったようだ。


「相手は動物だからな、馬なら尚更敏感だろう。そう言えば、今大会では無いが有名な競技馬が以前はいたとか。軍人と共に金メダルを勝ち取り、後を追うように亡くなったらしい」


「それなら光莉さんからも同じ話を聞いた事があるわ。馬の上背が一八〇メートル以上あって、気性が荒いから誰も乗りこなせなかった。でも、かの男爵と思いが通じ合い栄光を手にした。当時、優勝記念の着物の絵柄があったと朱鷺田さんからも話を聞いた事があるわ。幼い頃に袖を通した事があるんですって」


「それで、その肝心の二人は何処にいるのかしら?確か、斑鳩家の御当主が所有する牧場の近くで行うんでしょう。事前に寝泊まりでもするのかしらね?」


そんな会話と同じ頃、斑鳩の所有するリムジンの中に光莉と朱鷺田の姿があった。

高級車に目を輝かせる彼女とは対象的に、シートベルトを掴み緊張した仕草をする彼の姿がある。


「なんか変な感じがするな。運び屋の俺達が車に乗ってるなんて。まぁ、親父は良く送迎してもらっているらしいが」


「今更?そう言えば斑鳩様、牧場ってどのくらい大きいの?牛とか家畜もいるんだよね?」


「そうだね、基本的に富士宮家の為に用意している物だから殆どは趣味の範囲なんだけどね。ビジネスと言える程の規模では無いんだ。勿論、馬も数頭居るよ。繁殖も行ってる」


「確か、町内の馬術クラブに血統表があるので調べさせてもらいましたが此方の牧場に全頭ルーツがあるようですね。今まで何の違和感も無く、跨らせてもらっていたから改めて驚いた。徹底した管理をされているようですね」


「元々は私じゃ無くて妻の家系が代々続けていた物だからその道のプロにお任せしているよ。私はあくまでも財産として保有していると言った方が良いかもしれないね。今回の大祭で馬房の空きを利用して馬術競技に参加する子達の管理を預託する事になったんだ」


「確かに受け入れ先は大事だもんね。問題はその牧場は

勿論、会場で異変がないかどうかを調べてこないと。圭太君が言うには声が聞こえるらしいね。自分か対象の相手かはわからないけど望海に似た声らしいよ」


「怖いな。別に近くに居た訳じゃないだろう?俺も何か違和感を感じたら直ぐにお伝えします。別に人馬だけが可笑しくなってる訳じゃないしな」


こんなにも町の外に広大な土地があったのかと目を疑うほど、二人は瞬きを何度も繰り返しながら牧場の事務所へとまずは足を踏み入れた。

夕刻にも関わらず、懐中電灯を手にする彼女達に周囲は違和感を抱きながらも斑鳩がそれを制し調査に協力する姿勢を見せている。


「流石に馬房に照射なんか出来ないからそんな事はしないけどさ、朱鷺田の坊ちゃんなんか変な所あった?馬具とか飼い葉桶とかさ。備品も少なからずあるだろうし」


「良いや、変だな。話を聞いた感じ指紋のようにベットリと模様が付着しているんだろう?此処はあまりにも綺麗だ...ん?」


その時だった、彼は何かの音を聞き顔を顰めるが平常心を取り戻す。

しかし、表情が反転するように斑鳩と光莉の表情が険しい顔に変わった。


理由は朱鷺田が最終に聞いたのはリムジンのエンジン音だった。

運転手が専用の駐車場にでも移動させようと思ったのだろうと結論付け思考を止めた。

だが、この土地を良く知る斑鳩がそうではなかった。

車を移動させる指示など出していない、光莉もだんだんと此方に車のエンジン音が轟くのを察知にこれからの騒動に身を震わせた。


しかし、それ以上に身動きが不可能な馬達をこの場から動かさなければ彼らに命は無い。

そう危機感を抱いた彼女は叫ぶようにこう言った。


「早く、馬達と関係者を放牧地へ!車が此処に突っ込んで来るよ!」


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