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第伍拾弐話 囁き

圭太が次に連絡を入れた相手は斑鳩であった。

しかし、不安点があるのも確かで彼は牧場を貸している影響で馬術の会場にいる可能性が高い。

直ぐに掛け合いが出来るかと不安になるよりも前に相手からの応答が来た事に安堵した。


「斑鳩様、思ったより無線を使いこなしてるね。心配して損した。お忙しい時に申し訳ありません。少し確認しておきたい事があって。今どちらに?」


「構わないよ。今は参区の自宅にいるんだ。書斎から君に声をかけてる。でも、圭太君からこちらに連絡が来るなんて珍しいね。燕ちゃんは私と良く長話をするんだよ」


和やかなエピソードの裏に斑鳩からの思いやりを圭太は汲み取っていた。

初めて出会った時からいつも彼はまるで精密に計算されたように穏やかな笑みを浮かべ助けを求める人に手を差し伸べてくれる空気を作っている。


それが出来るのは世渡り上手であり、尚且つ強さを得ながらも弱さを理解しているからなのであろう。

その人間性に圭太は尊敬と感服の念を抱く事が多い。

舞台の観客でも彼以上に目を惹く存在はいないだろう。


「じゃあ、僕も長話をしても大丈夫だね。実はさっきまで富士宮さんと話をしていたんだ。両親の事を知りたくてね。何か隠し事をしてるんじゃないかって、僕達の知らない所で何かあったのかもしれないと思って」


「そうだね、では私が何故君達のスポンサーをしてるのか?から話そうか。簡単な話、親族だからだ。私ら兄弟の母親も富士宮家の人でね。凛としていて優しい人だった。家族思いな所を受け継いだのかもしれないね。もしかしたら、何処かに同じ血を持つ存在が居ると思い調べていたんだ。それで君達に出会った」


「今でも覚えてるよ。お父さんが亡くなって、心の穴がポカリと空いた所に貴方が来てくれた。多分、頭を撫でてもらったのは貴方が初めてだよ」


「東屋の躾は厳しいね。乙黒家と同じぐらいだ。そう言えば、奥様。君達の母親は取り憑かれたように叱り声が聞こえると近所の方々から話を伺った事があってね。子供達もそうだが本人が心配になると口にしていたよ。夫を亡くした心労からだってね」


「確かに母さんは自分一人で僕らを育てないといけないっていうプレッシャーはあったと思うよ。親族には頼れないって良く言ってた。そんな事無いと思うけどね。東屋の関係者もいたし。ただ、今思うと人と接するのにビクビクしてたんだと思う。怖がってたのかな?」


「生きていれば、人の死が身近になってくるだろうからね。失礼、子供の君に暗い話をするんじゃ無かった」


「いいえ、多分母さんも同じ思いで僕達に言う事が出来なくて抱え込んでたんだ。正直言って、薄々勘付いてたから驚きはしないけどそれが何かに関係するかは...」


そんな時だった、何かが後ろを通過するような感覚に陥り圭太は背筋を凍らせる。

何かが「いる」それだけは目に見えなくとも分かった。


「け...いた...」


耳元で自分の名前を囁く声がする。

それに顔を青ざめた拍子に無線機を落としてしまった。

手が動かない。こんな恐怖は一夜城依頼だろうか?

この危機にティムはいち早く察知し、手元にあった懐中電灯を彼に向けて照射した。

すると子供のような小さな黄色い炎が見え、二人は勿論無線機越しの斑鳩も困惑した。


「圭太君、何があったんだい!落ちたような音とノイズが入っているんだが」


「い、今。僕を呼ぶ声が聞こえて、ティムが正体を突き止めたんだ。そしたら、見た事ない炎が見えて。あぁ、ごめんなさい。でも、今は一から説明する余裕がないんだ」


「東!今ならまだ相手を追える、走るぞ!」


ティムの怒号に目を覚まし、慌てて立ち上がり手がかりを得る為再び会場内に戻る事にした。

いち早く観客席に向かい、姉の安全を確認しようと視線を向けると望海と目が合った。

首を傾げ、試合会場と二人を交互に見ている。

何かの異常や違和感を彼女は知らないようだ。

やがて、疑問を持ったのか圭太に近づいて来た。


「外の見張りはどうでした?中は得に異常はありませんよ。試合の進行も順調ですし」


「それは可笑しいね。今、こっちの方に幽霊が来た筈なんだ。僕の名前を呼んでた」


「えっ、声?そんな話一度も聞いた事がありませんよ。どうして圭太だけ?私はそんな物、聞いた事がないのに」


苦い顔をする彼女を他所に、圭太はティムに耳打ちしこう言った。


「さっきの幽霊の声、姉貴にそっくりだったんだ。ちょっと幼い感じもあったけど間違いないよ。一体何が起きてるんだ?」


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