第肆拾陸話 痕跡
「ねぇねぇ、皆んな早く来て!此処の陸上トラック凄い大きい!もう競技も始まってるみたいよ」
瑞穂が指差す先には陸上競技が行われる会場であった。
燥ぐ姿に皆、苦笑いを浮かべながらもその様子を見守ってるようだ。
そんな中で燕は彼女にこう声をかけた。
「もう。遊びに来たんじゃなくて、選手の護衛をしに来たんでしょう?会場内でも設備の不備がないかどうか?のチェックもあるんだから。此処にDr.黄泉を連れて来たのは例の悪戯幽霊を探す為でしょう?」
「まぁまぁ、良いじゃないか。こんな機会滅多にないんだ。全ての会場を回ってから調査を始めても遅くはないだろう?観客席に異常はないようだ。問題があるとすれば選手達の出入り口かな?」
それを聞いた海鴎は不思議をそうに彼に質問を投げかける。
彼らの目は特別だ。それをこんな風に言語化し周囲の理解を得ようとする状況に違和感を覚えたのだろう。
彼の目にどんな風景が映し出されているのか?気になるようだ。
「それはどのようにして見えるのですか?何かの痕跡や足音のようなマークがあるのでしょうか?」
「大体は炎や血の巡りと同じく血管のように動いているんだけどね。チャクラとも言えるんだが、この場合は斑点にしか見えないな。良く、心霊写真で中に白い物が見えると言うだろう?正にそれなんだ」
「で、あればもっとその知識を深く知る必要があるな。それを追ったとて、物理的に対処出来なければ本末転倒だ」
咲羅の意見に瑞穂はふと虫取り網のイメージを思い浮かべたようだ。
虫のようにミクロな者でも捕えられる存在だったとしてこの状況を打破する事は難しいようだ。
そんな中でもう一つの案が思い浮かび、咲羅に自分の考えを述べた。
「ねぇ、咲ちゃん。あのお殿様が持ってるカメラ、私達にも使えるかしら?あれが沢山あったら皆んなで協力して幽霊探しをする事が出来ない?」
「では、夜に小坂に向かおう。確か、望海が使用しているのを見た事がある。交渉すれば量産出来るかもしれない。しかし今はDr.黄泉の話を聞く方が先決だ。何も手がかり無しに無闇に動いても仕方ないだろう」
「そうね。Dr.黄泉、私達にも情報を頂戴。あの入退場する場所の先には何があるのかしら?」
「選手達の更衣室やドーピング用の検査室だろうか?いずれにせよ関係者ではない僕達では立ち入りは難し...」
そう言いかけた途端に皆の元へ急いで大会職員がかけより焦った表情で口を開いた。
この時点で嫌な予感はしたが、その考えは見事に的中する。
聞けばドーピング検査室の機器が故障し、通常通りの測定が行えないと言う事だった。
実際に現場へ向かえば、数値が文字化けを起こし奇妙な数字の羅列が見える。
まるでプログラミングのようだと黄泉は思ったが冷静を取り戻し、修復へと意識を其方に向けた。
機材を動かしながら、幽霊の痕跡を探る。
しかし、どれも小さい斑点模様ばかりで何の特徴も得られなかった。
「可笑しいね。人型ですらないとは。猫や犬の手でももう少し特徴がありそうな物だがね。こんなに最小限の痕跡しか残らないとは不気味極まりない。指紋を感知しようとしても無駄だよ。血液のようなルミノール反応も出ないだろうね」
「それは困るな。折角燕達、会場まで足を運んだのに無駄足になっちゃうよ。そう言えば、疑問に思ってたんだけど相手って燕達の事を認識してる。見えてるのかな?」
「物体を操れるのですから認識やそれを操作する知恵は必ずあると思います。なので動物がまぐれで動かす事がない限りは心霊現象だと捉える他にないんでしょうね。実行犯が見えない訳ですから」
「これだけ大騒ぎを起こして、損害賠償の請求も出来ないなんて大会側としては大損だろうね。なら、僕らで裁きを下すしかない訳だ。修理は直ぐに落ち着くだろうし、大会の進行にも問題ないだろう。丁度僕らが居て良かったね」
ここ数日は陸上競技の表彰式やインタビュー等が行われ、落ち着く暇もなく運び屋達は現場に駆り出されるだろう。
しかし、夜になれば静寂が訪れるのはいつも通りの光景である。
瑞穂と咲羅は予定通り、小坂の秘密倶楽部を訪れ写真機の交渉をするものの複数台用意する事は朝風に断られた。
しかし、此処の入り口を映し出す懐中電灯であればレンズと特殊なライトに付け替える事により事の窮地を脱する事が出来そうである。
希望はまだある。そう思った2人だった。




