背いてでも
また荷物のように手荒に運ばれるのかと思い身構えていたが、杞憂に終わった。縛られた口は塞がれたままだったが、光が当たらぬよう頭から布をかけられた状態で、宮殿近くにあるウリクセス様の屋敷まで運ばれた。わざわざウリクセス様本人が横抱きにして。
というか、10代前半の子供に屋敷が与えられるってどういうこと?
何処かの部屋のベッドの上に降ろされた瞬間、先程の子孫を残す話が脳をよぎり恐怖で体が震えてしまったが、流石にお子様同士だしそういうつもりは無いらしい。ウリクセス様は私の口を封じている布だけ外し、ベッドから数歩後ろに下がった場所で跪いた。
「私は、まず謝らなければなりません。貴女の家族、特に愛する姉を目の前で奪ってしまった事。手荒に我が国まで連れて来てしまった事。この先貴女を国に返す事は出来ず、貴女の国も我が帝国の支配下に置く事。全て我が帝国に非がある事です、本当に申し訳無い」
髪と同じダークブラウンの瞳は、真剣だった。この人は心から謝っている、そう感じた。口封じが解かれたら散々罵倒しようと思っていたのに、先にこう真剣に謝られるとやりにくい。
「許せ、とは言いません。許せる事では無いでしょうから。……ただ、私は貴女を害するつもりは一切ない事だけ分かってください。世話をする侍女達も同様の思いのはずです」
いつの間にか部屋に入って来ていた数人の侍女。壁沿いにずらっと並び、恭しく頭を下げている。
「……拷問でも何でもして、私の口を割らせたいのではないのですか?害するつもりが無いなんて信じられませんし、私の国民の情報を出す気も有りません」
出来るだけ強気に返事をしつつそっぽを向く。久しぶりに泣き声以外の声を出した気がする。久しぶりに話すのが、私の家族を殺した人だなんて。
涙がまた溢れそうになるが……耐えなければ。生き残った私がしっかりしなければ。家族は守れなかったけど、姫として国民だけは最後まで精一杯守らなければならない。特に今狙われていそうなのは、王家の直系ではない傍系の者達。少しでも王家の血が混じっていれば良いのなら、そこそこの人数が当てはまる。私が口を割るわけにはいかない。
まぁ私が口を割らなくとも宮にある家系図を見られてしまうとバレてしまうのだが。
「あぁやっと声を聞けた……いえ、独り言です。あれは私が貴女を保護するための理由付けで、聞き出すつもりなどさらさらありません。むしろ代わりが見つからない方が貴女を守りやすいので、絶対に情報は出さないでいただきたい」
「ウリクセス……様は、皇帝の命に、背いているという事……ですか?」
予想外のまさかな返答に言葉が上手く出てこない。
「……背いてでも守るつもり、なだけですよ」
そう言ったウリクセス様の表情は苦笑い、といった感じで。全く言葉の意図が分からず、更に混乱してしまった。