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脅しているようなものだ(2)

明日も8時と20時の2話公開です

 煌びやかな衣装、明るく優雅な音楽。アイーシャお姉様が好きな果物で作られた色とりどりのデザートに、ひっきりなしにお姉様に挨拶しに訪れる人々。目が悪い私でも、あたりに目を奪われ、目が回りそうだ。当日私に求められた事は、「可愛い妹としてアイーシャお姉様の隣に座っておくこと」だ。……いつぞやにウリクセス様に似たような、お飾りのように座っておく事を指示された気がする。


 しかし今回は跡取りとしてのお姉様とセットにして置いておくことにより、姉妹2人で今後国を治めて行くのだとアピールする狙いがあるらしい。次女姫だから嫁に出せと多方面から言われるのはもう嫌だ、姉妹仲良く手元に置いておくのだ、とお父様に熱弁された。


 上座のフカフカの椅子にお姉様と仲良く座り、ただニコニコとお姉様に挨拶に訪れる人に適当に愛想を振りまいていると、……来ました、マニュス帝国皇帝。とウリクセス様。真白になって十年考えた結果、皇帝もウリクセス様を排除すべきという世論と、自分の子に違いないと訴える皇妃との板挟みになった可哀想な人だと思えるようになった。それでも、全面的にウリクセス様の味方をしたい私にとっては、好きになれない人間だ。

 マニュス帝国が挨拶に訪れた瞬間、国王であるお父様が皇帝との間に割って入ってきた。


「これはこれは……マニュス帝国皇帝。アイーシャの誕生日の祝にわざわざ駆けつけてくれるとは。さすが旧来の友好国、礼を言う」


「国王自ら挨拶にお出ましになられるとは、我が帝国はよき友好国を持ったものだ。今後とも末長くこの関係を続けていきたいと考えている。どうぞよろしく頼む」


 ……外見上はにこやかに挨拶が交わされているが、水面下ではバチバチに火花が散っていることだろう。裏の諸事情を知っているからこそ、何か起こるのではないかとヒヤヒヤしてしまう。


「アイーシャ様、お誕生日おめでとうございます」


 そんな中素知らぬ顔で膝を折り、ウリクセス様がお姉様に祝いの言葉を述べる。……あれ、私と同じように夜更かししていたのに隈一つない。私なんてお化粧でしっかり隈隠しされたというのに。


「ウリクセス様、ありがとうございます。第一皇子のフェーリックス様のお祝いの席で、昨年帝国でお会いして以来ですね。帝国の皆様はお変わりないですか?」


 そうか、お姉様は初対面ではないのかと思いながら、十歳ですでにしっかりと社交上の挨拶ができるお姉様に感心する。二人とも表情の作り方から大人顔負けといった感じで。一人お子様な私はちょっと疎外感を覚えた。


「はい。春先に比較的大きな雪雪崩が発生しましたが巻き込まれた人間はおらず、不幸中の幸いでした。……そちらの可愛い姫様は、噂のアズィーム山脈の寵姫と言われるタルジュ様でしょうか?」


 お姉様より年下の八歳なのに、これまたしっかりと社交上の挨拶ができるウリクセス様にも感心していると、突然話を振られた。ちゃんと今度は通り名も間違えていない。


「ええ、可愛いでしょう?私の大事な妹なの。誰にもあげないわ」


 お父様に仕込まれた通り、私を嫁がせる気はないアピールをするお姉様。今日だけでこのセリフ聞くの、何回目なんだろう……。


「そうですか。……タルジュ様?ずっと座っていては飽きるでしょう。よければ私と遊びませんか?」


 私に向けて差し出される黒い手袋をした手。その表情は先程までの大人の表情ではなく、いつもの私に向けてくれる柔らかな笑顔だった。


「……はい!」


 今日一番の笑顔で返事をし、椅子から立ち上がってウリクセス様の元へと駆ける。


「え?ちょっとタルジュ!?」


 アイーシャお姉様の制止も聞かず、ウリクセス様の手を取って一緒に会場となっていた本宮の外へ向かって走った。

 突然の出来事に呆然とするマニュス帝国の皇帝に、私を追いかけようとするお姉様をとっさの判断で止めるお父様。少し離れた場所で他の来客と談笑していたお母様も何事かと目を見開き、その他大勢のギャラリーも何があったのだ?とガヤガヤする。


 目指した場所は私が暮らす離宮。本宮からは少し距離があるのだが、日々地下通路探索で鍛えたおかげか引きこもりの姫にしてはちゃんと走れたと思う。

 それでも流石に息が切れたので、庭園の芝の上に倒れ込むように転がった。


「はぁ、は……あ、は……あはは!ウリクセス様、見ました?あのみんなの顔!」


「うん、見たよ。皇帝……父のあんな呆けた顔初めて見た。意外と皆追って来ないものだね……最悪タルジュを抱えて走る羽目になるかと思ったんだけど」


 ウリクセス様は少し息が上がっているだけで、少し整えれば通常に戻っている。流石鍛えている人は違う。


「この離宮は、緊急事以外は王族の許可がある者しか入れない事になっていますから。ふふっ愛の逃避行みたいで面白かった!」


「本気で連れ去ってもいいんだけど、所詮側からみればお子様のお遊びにしか見えないだろうから、ね。さてタルジュ、可笑しいのはよく分かるけど、モフを呼んでくれるかな?」


 なんと驚いたことに、ウリクセス様には毛玉状態のモフが見えるのだ。てっきり私にしか見えないと思っていたのだけど、ウリクセス様に見えるとなれば……転生者にしか見えない系の何かなのかもしれない。


「モフっ!おいで!」


 離宮の部屋の方から白い毛玉がビューンと飛んできて、私の周りで嬉しそうに跳ねる。

 ペット感覚でよしよし撫でていると、横にいる人物から何らかの良くない系のオーラを感じたので、撫でるのを中断してモフに指示する。


「シロの姿になって、偉大そうな顔で立っていて!」


 お願いすると私になる時と同じようにポンっと音を立てて、アズィーム山脈の神であるシロの姿に変身する。

 そしてシロの姿をしたモフを通じて、本物のシロに話しかける。


「シロ?お願いした計画通りによろしくお願いします!」


「全く……神の使い方が荒いわね。まぁ、タルジュがこの程度で幸せになるのなら構わないわよ。自己の望みのためなら神すら手駒にする……最近のお子様には敵わないわ。面白いけど」


 呆れたような声がモフを通じて聞こえてくる。


「だからお子様じゃなくて、私達は転生者なの!今回こそ誰も死なずにハッピーエンド、それを達成するためにご協力をよろしくお願いします」


「シロ様、どうかよろしくお願いいたします」


 ウリクセス様もモフを通じてシロに話しかけるが、完全にスルーされる。……何故かシロは絶対にウリクセス様には返事をしない。

 場の空気が凍る。さてどうしようかと思っていると、お父様と皇帝が何人かの従者を伴ってやってきた。流石に今日の主役であるお姉様は場を抜けられないため、一応「お子様の保護者」であるお互いの親が……迎えに?叱りに?やってきたという構図なのだろう。

 皇帝は、普段真面目で物分かりの良い息子の突然の行動に戸惑っているという風な表情である。勿論、国王たるお父様は、怒っている。もう見なくても分かるくらいに怒っている……!


「タルジュ、弁明したい事があるなら言いなさい」


「お父様、どうして怒っているの?アズィーム山脈の神様が、私達を祝福してくださっているのに」


 純粋な子供を演じつつ、シロの姿をしたモフを指さす。


「神……だと?そちらの、少女が?」


 疑いの目をシロ(モフ)に向けられる。


「少女?そんなに若く見えるかしら、お褒めの言葉として受け取っておくわアズィーム王国第二十二代国王」


 モフを通じて、約束通りシロが話し出す。


「信じられぬなら、また連れ帰ってみましょうか。お気に入りがもう一人増えた事だし、一緒に貰っていくわね」


 シロがそう言うと、私とウリクセス様の体が白く柔らかな光に包まれる。そして次の瞬間には寒い雪山に立っていた。


「ちょっとシロ!転移させる予定は無かったでしょー!?」


 流石に夏用のドレスなので、これで雪山は凍える!ウリクセス様が私を後ろから抱きしめて、寒くないようにと自分の手袋を脱ぎ甲斐甲斐しく私の手にはめてくれている。優しい。


「これくらいやった方が、説得力があるし面白いわ。見せてあげる、神の力を目の当たりにした人間の顔って本当に可笑しいから」


 そう言いながらシロ(本物)が、また毛玉達を使って液晶テレビのような物を出し、お父様達の様子を見せてくれた。

 シロ(モフ)に娘を返してくれるよう必死で頼み込むお父様。この機を逃すものかと、どうか帝国にも慈悲を、災害を少しでも減らしてくれるよう懇願する皇帝。一緒についてきていた従者たちも戸惑い身の振りに困っている様子が見て取れる。そしてモフは私の指示通り偉大そうな顔のシロをキープしたまま立っている。……何この状況。


「神よ、どうか……何でもしますからどうか娘を。娘を返してください!」


「そんなに息子をお気に召したのであれば差し上げますから、どうか帝国の民をお助けください……」


 言っている事が対照的な父親達。ウリクセス様がショックを受けていないか心配になり後ろを見上げるようにして様子を伺うが、全く気にしていないようだ。


「気にしてくれたの?タルジュは優しいね。父親としては微妙な解答かもしれないけど、皇帝としては正解の解答だと思うから、私は何も気にしてないよ」


「別にお気に召したわけじゃないから。タルジュの頼みじゃなきゃ、あんたなんてどうでもいいわよ」


 あ、初めてシロがウリクセス様に向かって発言した!


「それでも、タルジュの頼みをのんでくれる程度には私の事も気にかけてくれて感謝しています。ありがとうございますシロ様」


 ふんっとシロが顔を背ける。……仲が悪いように見えたけど、実際はそうでもないのかもしれない。


「じゃあ、私の要求を何でも飲んでくれるというの?国王と皇帝は」


 再びシロがモフを通じで語りかける。

 勿論だと言う両者に、シロが条件を提示する。


「条件一つ目、この二人を正式な婚約者とし引き剥がさないこと。二つ目、この二人にはそれなりの知識を授けておいた。それを有効的に活用し、互いの国の発展に努めること」


 続いてシロ(モフ)が皇帝を指さす。

 ……いや、シロ(本物)も遠隔でモフを動かせるわけ!?


「私、差別は嫌いなの。他民族に対しての対応と同じように、生まれにハンデがある者へも開けた対応を望むわ。それが帝国へ慈悲を与える代償。慈悲はウリクセスに授けた知識とタルジュ自身よ」


「おお、神よ……伝説に基づいた王族との婚姻だけでなく神の知識まで……何と有難い。やはり神は帝国を見捨てたわけではなかったのだ……!」


 皇帝は望んだ通りの答えが得られた為か、安堵からか……すっかり力が抜け膝から崩れ落ちるようにし地面に手をついた。


「アズィーム山脈の神よ!それではタルジュが戻ってこないではないか!」


 逆にお父様は憤慨している様子である。


「タルジュの事を考えるなら認めた方がいいわ。アズィーム王国の陽はタルジュにとっては毒も同然、マニュス帝国の方がまだマシでしょう。親とすれば大切な娘が健康に過ごせる方が良いと思うのだけど……それともよく知った長年の友好国に行かせるくらいなら、神の国に留めておいて欲しいと?」


「そういう訳では……」


「勿論、永久に帝国に留まらなければならないわけではなく、里帰り程度は認めるわよ。私は、お気に入りだからこそ山脈のお膝元からタルジュを手放したい。父親の貴方は違うの?……もう一声欲しいかしら?タルジュの健康と幸せを考えてこの要求を飲むのなら、今後もアズィーム王国に変わらぬ雪解け水の提供をお約束しましょう」


 ……これは脅しではないだろうか?予定ではもうちょっと和やかにお父様を説得してもらうつもりだったのに、これでは「要求を飲まないなら水を止める」と脅しているようなものだ。


「……彼は帝国の第二皇子でしょう?帝国内での評判は腕の痣のせいで良くないと聞く。そんな人に嫁いでもタルジュは大丈夫なのだろうか。もっと他の方に嫁ぎたかったと言うのではないだろうか」


 心配そうに呟くお父様に、皇帝が縋り付く。


「アズィーム国王!先程神のお言葉にあったように、必ず帝国は変わってみせます!だからどうか姫を……!」


「だそうよ?この二人だったら多分大丈夫だと思うけど」


 シロがそう言った瞬間、再び私とウリクセス様の体が光に包まれて転移する。

 戻ってきた離宮の庭園、シロ(モフ)の隣。私が凍えないようにと抱きしめてくれていたそのままの体勢で飛ばされたので……それを見られるのは少し恥ずかしい。離す気は無いと言わんばかりの強い眼差しをしたウリクセス様と、心配そうなお父様を交互に見る。


「……アズィーム山脈の神よ。仰せの通りにいたします。ですので、どうかタルジュの幸せを、王国の変わらぬ繁栄を、よろしくお願いいたします」


 お父様が承諾した!流石シロ、最後はほぼ脅しだったけど協力してくれてありがとう!


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