好きだったタルジュではない
ウリクセス様目線回です!
切れ目の関係で、本日21時に2話目が公開になります
気がついたらまた異端の第二皇子として虐げられ暮らしていた。私は刑に処されたはずなのに、どうして生きているのだろう。……飛んだ首を誰かが繋いだのだろうか?いや、ならばこんな子供の姿のわけがない。そんな事を思いながら幼少期を過ごし、今度は初めから私の婚約者候補としてのタルジュに出会った。
……ああ、こんな話タルジュが書いた小説にあった気がする。都合よく転生して都合よく人生のやり直しができる話。きっとその類の何かなのだろうと初めは気楽に考えていた。
前のように求婚を蹴られることもなく、普通に嫁いできたタルジュと平和に過ごせ、そのうち子供も生まれて……と大きな問題もなく過ごせる人生。もちろん彼女は私の事なんて何も覚えていなかったが、それでも前世のタルジュと彼女を重ね合わせて一緒に過ごした。
違和感に気がついたのは、その世界で天寿を全うした後だ。
今度は気がつくと見たことのない優美な柄の衣装を着たタルジュが目の前にいた。聞いてみると、着物という遠い東の国の衣服らしい。美しく着飾った彼女を見ていると、ふっと意識が遠くなり……今度は白いドレスを着て、鳥のような羽が背から生えていた。先程までの着物とやらは何処にいったのだろうかと考えていると、またタルジュの姿が変わっている。意味が分からない。
そんな調子で、もう数え切れない程の人生や場面を、繰り返し繰り返し経験させられた。合計すると数百年くらいになるだろうか。どれにも共通していることは、タルジュが幸せそうに笑っていること。彼女が幸せであることはもちろん良い事で、それを見て私も表面上は笑顔を作るのだが、何とも言えない違和感はどんどん大きくなっていった。
──これは私が好きだったタルジュではない。
自分でもこう思う理由がよく分からないし、外面はタルジュそのものなのだが……中身が私が愛したタルジュではない。私の事を覚えていないとか、そういう話ではなくて……別人の魂がタルジュの皮を被っているような、そんな感覚に襲われた。何度も、違う、これはタルジュではないと声に出して、行動で示して、否定しようとしたが何故か出来ない。
──まるでスズランのようね
そう言って私に笑いかけてくれたタルジュ。自分の脳内で勝手に話を進めて、時々意味の分からない返事を返してくるタルジュ。少し揶揄うと顔を真っ赤にして恥ずかしがるタルジュ。きっと自覚はないのだろうけど……私に一度も愛しているとはっきり言ってくれなかったタルジュ。
私が愛したタルジュは、もういない。その事実を受け止めきれなくて目の前にいる別人に救いを求めても……やはり別人は別人でしかない。自分の腕に咲くスズランが決して私が愛したタルジュを忘れさせてはくれず、もはや呪いのようだった。
……最後に私が頼んだ願いは、叶えられなかった。私の愛したタルジュは、きっと他の人の元で生きる道を選んだのだろう、私を忘れて。だからきっと、私の元へ現れてくれないのだ。そう考えると涙すら枯れて出なくなった。
そんな呪われたような苦しみの中生きてきたが、人生の中で都合の悪い出来事は殆ど起こらない。夢よりも夢のような平和な世界。私の心の状態とは真逆の、まるで何かに守られ続けているかのような穏やかな人生。
膨れ上がる違和感、愛した人そっくりの別人と暮らし続ける苦痛を外に出せないまま、私は今の生を受けた。
きっとまた同じような人生なのだろうと、半ば諦めたような気持ちで過ごしていた幼少期。アズィーム王国に生まれた次女姫の輿入れを勝ち取るべく王国に派遣されていた使節団が、信じられない話を持ち帰ってきた。なんでも、まだ歩けもしなかった姫が突然行方不明になったと思ったら、姉姫の元へ湧いて出るように戻ってきたらしい。おかげでアズィーム山脈の寵姫だとかもてはやされ、扱いはもはや神同然。離宮に閉じ込めて、国王が余計に手放さなくなってしまい、これ以上の交渉は困難だと言う。
……今までには無かった展開だ。初回の生以来の、アズィーム王国を侵略する下準備を皇帝から命じられ……まずは初回同様に地下通路の地図作りから始めようとしたところ、予想外の所でタルジュに声をかけられた。
戸惑いからのちょっとした言い間違い……何度も生を繰り返していればこれくらい仕方がないと思うのだけど、そこからこのタルジュは気がついてくれた。自らスズランを食い千切ったというこのタルジュは、間違いなく私が好きになったあのタルジュの魂を持っている。
……タルジュは私の願いを叶えてくれていたのか。
いくつもの生を重ねて、気の遠くなるような時間を経て。ずっと求めていた私の愛したタルジュを見つけた喜びは……きっと誰にも理解してもらえないんだろうね?




