前回とは違う(1)
転移で離宮に帰ってきた時のアイーシャお姉様の顔は、きっとこの先ずっと忘れないだろう。嬉しさ、安堵感、驚き、未知への恐怖。全てが混ざったような表現し難いあの表情を一言で表すのは難しい。
元気になったのをアピールしようとベッドの上に立ってみたが、逆効果だったようで……後から駆けつけたお父様とお母様も含めて場を大混乱に陥れてしまった。
まぁ、消えた娘が突然光って湧いてきて、しかもハイハイも出来なかったのに立っているとなると……混乱もするよね。
そしてその大混乱の末、私は「アズィーム山脈の寵姫」という前回とは違った通り名が付いてしまい、誘拐ではなく神隠しであったと結論付けられた。神が気に入りすぎて連れて行ってしまったのだと、そのような解釈をされたのだ。……まぁ連れて行かれた事に変わりはないので完全に間違えているわけではない。
どの世界であっても、人間の理解できる範疇を超えた出来事は全て神の所為にされてしまうようだ。おかげで私を祀る動きは加速し、お父様も私を嫁がせる事はないと相変わらず明言している。
戻ってきてからよく考えてみたのだが、やっぱりこんな出来事は前回にも十年間の真白の創作上も無かったように思う。物語の中に転生する話では、主人公がストーリーを知っているからこそ問題を回避したり解決できたりするのがセオリーだ。こうも流れが違うとなると、転生者であるというメリットが薄くなってしまう。
まぁそれでも作者であるという点を活かして、想像力を武器にどうにかストーリーを平和な方向へ持っていきたい。
ちなみに、ヒントになるかもしれないポイントは見つけた。
まず加護について。マニュス帝国で言われていたアズィーム王家の寵愛の伝説と、アズィーム王国の洗礼の儀式は繋がっているのではないだろうか?加護を持った王族の女性が嫁ぐことによって、マニュス帝国内で災いから身を守る=災害を減らしている、の構図になっているのではないだろうか?これなら、アズィーム王国から嫁いできた王族女性一代限りの寵愛と言われるのが理解できる。
もう一つは神について。前回私が嘘をついたアズィーム山脈の神は存在した。神といえば万能な印象しかないが、あの真白の顔をしたシロという神は何でも出来るわけではなさそうだった。よくある物語のように、全ての並行世界を網羅したような神でも、チートとか言われるような強い力を持っている訳でも、マニュス帝国で恐れられていた災害を引き起こす厄神のようなものでも、無いような気がする。
物語の進行を握っており、その物語上で実質神となるのは、それを書き進める作者だ。……つまり真白が作者だから神の顔が真白だったのだろうか?そう考えたこともあるが、やっぱり中学生の時に書いていたらしいこの世界の物語のストーリーは思い出せないし、前回を元に私は沢山の創作をしたが、このシロとかいう神は登場させたことはない。
そんな事を考えている、無事五歳となった私の足元で跳ねている一匹の白くて丸い毛玉。どういう原理で飛び跳ねているのか全く理解できないが、転移する時に一匹ついて来てしまったらしい。アズィーム山脈で見た時はしゃべっていたように思うのだが、離宮にきてからは一切喋らなくなった。勝手に庭園や花瓶の草花を食べているので、恐らく生き物なのだと思うが……実態は謎だ。
とりあえず、もふもふしているのでモフと名付けてペット感覚で可愛がっているが、他の人には見えないらしい。……やっぱりコレ、シロの力の何かだよね?
時々お話くらいならしてくれると言ったシロは、モフを通じて呼びかけると気が向いた時だけ返事をしてくれる。シロの気分によってスルーされてしまう事も多いのだが、私が悩んでいる時は大抵返事をしてくれるので……神様なのだけど、通話友達みたいな感覚でいる。まるでオタク友達で親友だった利麻のようだ。
しかし悩みに返事をしてくれると言っても回答をくれる訳ではなく、絶対に知っているだろうと思われる事を聞いてもはぐらかされる事が殆ど。でも聞いてくれないよりはマシなので、とりあえず何でも言いまくっている。顔が真白なだけあって、私が適当に即興で物語を作ると喜んで話を聞いてくれた。




