小さな向日葵
前回の自分はあまりに無知で無力だった。自らの足でウリクセス様の隣に立ちたいと願いながら……結局の所ウリクセス様に抱っこされていたようなものだ。
さて、今回はどのようにすれば大切な人たちを守りながら皆幸せになれるのだろうか
「よしよし、タルジュは良い子ですね〜。お姉ちゃんがお散歩に連れて行ってあげますよ」
アイーシャお姉様が私をベッドから抱き上げてくれる。
赤ちゃんの体というのは不便な物で。聞き取りはバッチリなのに上手く喋れない、歩けない、何より考えた事をメモを取ることすらできない!本当に不便だ。早く大きくなりたい。
私は生まれた時から本宮に住む家族から離され、離宮に隔離された。前回は「私がアルビノで、陽が当たらないような場所で暮らす必要があるから」と説明され理解していたが、本当は違った。いや、「今回は違う」なのか「前回もそうだったが認識できてなかった」のかは分からない。
私は生まれた瞬間より、アズィーム山脈からの遣いとして祀られることとなった。アズィーム王国にとっての生命線である山脈の雪解け水。それを生み出す雪のような見た目をした私は、王家の子であって王家の子で無い特別な子という扱いで、「本宮より聖域の山脈により近い場所」である離宮で暮らすこととなったのだ
赤ちゃんが言葉を理解しているはずがないという常識からか、大人達は様々な情報を私の横で話してくれた。まさに昨日、国王と王妃であるお父様お母様が話していた内容な脳裏に蘇る。
「ねえ、お隣のマニュス帝国がきっとこの子を求めてくるわ。神の遣いのようなこの子を他所にやるのは心が痛むけど……あちらの帝国の事を考えるとこの子は早めに嫁がせた方がいいのではないかしら」
「駄目だ。勿論マニュス帝国の事も考えてやらねばならぬのは理解しているが……この国が滅んでしまっては元も子もない。うちの国もタルジュがいなくなればアイーシャしかおらぬのだ。せめてもう一人子がいれば考えるのだが」
「……あちらの帝国では異端者は葬られると聞きます。タルジュはこちらの国では崇められる存在であっても、あちらでは歓迎されないかもしれません。となると、アイーシャの方を求めてくるかもしれませんわね」
「アイーシャはアズィーム王国の次期女王となるのだ、他国になんて嫁がせる気はない。……タルジュは先日も熱を出しただろう?太陽の光に当てると皮膚もすぐ赤くなってしまうし、もしかしたら体が弱いのかもしれない。こちらに残すのがタルジュでは、子孫が残せぬ可能性がある」
お父様とお母様はやはりマニュス帝国の伝説の事をご存知だった。そしてウリクセス様と予想した通り、自国の存続の事を考え……隣の友好国の必死の嘆願を蹴ったのだ。
これに関して私は両親を責めることはできない。国を治める者にとって、一番大切なのは自国なのだから。
ちなみに私の体は、前回に比べると少しだけ強くなっていた。具体的に言うと、陽の光の許容量が少し上がっている。マニュス帝国より紫外線の強いアズィーム王国では曇りの日でも日中外に出るのは危険だったのだが、今回は曇っていれば短時間なら大丈夫になっている。
どうやら完全に前回のこの世界をなぞっているわけではないらしい。そして私が真白として書いてきたこの世界の話とも流れが違う。これが後になってどのような影響を与えてくるのかはまだ予想できないが……完全に同じ物語だと思って動かない方が良さそうだ。油断大敵、私は今回は皆を守るのだから!
「本当にタルジュはあまり泣かない子ですね〜。お姉ちゃん、ちょっと心配。泣く子は育つって言うから、泣かないと育たないんじゃないかな?」
今日の天気は雨が降る直前のような曇りで、私にとっては外出日和。私はアイーシャお姉様に抱っこされて離宮の庭園にいた。
アイーシャお姉様が、いまだにお座りしか出来ない私を芝の上に下ろす。まだ5歳なのに妹を可愛がって遊んでくれるなんて、本当に面倒見が良い。
「さて、タルジュに似合うお花を選んであげましょうね。うーん、どのお花がいいかな?」
そう言いつつあたりの花を片っ端から手折り、くるくるとしたまだショートヘアの私の髪にどんどん刺していく姿は、あぁまだ五歳の子なんだなぁとは思うけど。
剣山の代わりになったような気分になっていると、お姉様が黄色い系の花を沢山持ってきた。
「タルジュは白いから何色でも映えて良いわね。次は黄色のお花よ」
その中によく見知った花があった。されるがままの剣山だった私は、その花に手を伸ばす。
「あら、タルジュは黄色のお花が好きなの?どれが良いのかなー?取ってごらん?」
手に取ったのは、勿論サンビタリアの花。小さな向日葵のようで……ウリクセス様が髪に刺してくれた花。あの時は気がつかなかったのだが、この花の花言葉は「私を見つめて」である。……心までは得る気は無いと言いつつ、花に自己の望みを乗せてしっかり伝えてきていたなんて。それを真白に戻ってから気がついた私も私なのだけど、十三歳で花言葉までしっかり学習していたウリクセス様は一体何者なんだと思ったものだ。いや、何者って第二皇子様なんだけど。
「これ?何て名前のお花だったかしら……また今度調べなきゃ」
アイーシャお姉様は知らない花だったようだ。でも私が気に入っていると思ったのか、次々と摘んで私に持たせてくれる。あまりに沢山渡されるので不器用な赤ちゃんの手では上手く持ちきれなくて、ポロポロといくつか落としてしまう。
「お部屋に持って帰って花瓶に生けてあげるね。ちょっと待ってて、籠取ってくるから!お花は食べちゃだめよー!」
そう言いながら私を置いて離宮の部屋に駆けていくアイーシャお姉様。
いやいやいや、一応自分の家の庭だしまだ歩けないから良いけど……ゼロ歳児放置は結構危ないよ?ローリングするように寝返りして、そこの深い水路に転がり込む赤ちゃんだっているかもしれないよ?しっかりしているとは言え、やっぱりまだ五歳の子だなぁと思いながら空を見上げる。
どんよりとした灰色の雲。アイーシャお姉様が髪に刺していった花達がパラパラと落ちていく。
この空の下のどこかにきっとウリクセス様がいる。私より3歳年上だったから、きっと自我も芽生えている頃。異端の子だと……心ない言葉を吐かれ傷ついているのだろう。人知れずこっそりと泣いている事もあるかも知れない。
離宮の裏側に聳えるアズィーム山脈を眺める。あの向こう側に飛んでいって、大丈夫だよと声を掛けてあげたい。……まぁ、私まだ喋れないんですけどね。
山脈を眺めていると、バランスを崩して頭から後ろに倒れてしまう。うぅ、痛い……芝生の上だからマシだけど痛い。
泣きはしなかったけど、私の代わりに空が泣いてくれるらしい。ポツリ、と雨粒が頬に当たる。
……え?アイーシャお姉様!早く来てくれないと私ずぶ濡れになるんだけど!?




