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誰か嘘だと言って?

 私の10歳の誕生日パーティーは例年通り夕方から深夜に開催されることになった。私が日中外に出られない為その様な仕様となっているのだが、まだ10歳の体には真夜中まで起きているのは酷だ。ということで数日前から生活時間が調整され、私は昼過ぎに起床した。


 いつもなら部屋の外に侍女が控えているのだが、パーティーの準備やら来客の出迎えやらで忙しいのか誰もいない。次女姫の離宮の人手まで駆り出されているとなると、かなり忙しいんだろうなぁ……と自分の誕生日パーティーなのにどこか他人事の様に考えながら、ベッドサイドに置かれていた水差しの水を使い顔を洗う。

 正直目が悪いせいで人の判別が付きにくいため、大勢の相手をする行事は嫌いだ。しかし「王族なのだから人前に出る時はいつも笑顔で。民の為に常に前向きに生きるのよ」とお姉様に普段から言われ続けているため、嫌な顔は出来ない。顔を洗いながら、パンッと頬を叩いて気合いを入れる。

 忙しい侍女達の手を煩わせないように、自分で今日の為に用意されたドレスに着替えておこう。

 前世で言う所のアラビアンな踊り子が着ていそうな臍が見えるドレス。下はズボンではなく薄手の布が幾重にも重ねられ、まるでウエディングドレスの様だ。ちなみに色は、アイーシャお姉様が私に似合うと一押しの水色から白にかけての綺麗なグラデーションになっている。「タルジュは真っ白だから何色を当てても可愛いのよね!」と興奮気味なお母様とお姉様に様々なカラーの布を当てられ続け、ぐったりしながら選んだ布を使って作られている。


「髪、は鏡で見ながらやるの難しいから誰か侍女が来てからでいいかな?」


 こういう時に眼鏡がない世界は不便だなぁと思いつつ、パーティー前の腹ごしらえとして果物を摘んだ瞬間。

 一瞬だけ聞こえた本宮からの緊急の鐘の音。本当は緊急時に短く3回鳴らす物なのだが、1回しか鳴らなかった。


「何?また鐘付きのお爺さんが野良猫に驚いて叩いちゃったのかしら?お客様がびっくりしていないといいけど」


 でも、なんだか本宮の方が騒がしい気がする。


「──タルジュ!!タルジュ返事をして!!貴方達は入り口を固めてこの部屋を守って!!」


 息を切らして死にそうな程必死な表情をしたアイーシャお姉様が部屋に転がり込んでくる。お姉様の護衛と私の護衛の数人で部屋のドアや窓が厳重に閉められ、部屋の中に小柄な護衛が1人残り他は部屋の外に出る。


「タルジュは頭から布を被って。光が当たるといけないから絶対に脱いでは駄目よ。此処から直ぐに逃げるの!」


 意味が分からないまま布を被せられ、ベッドの下に設けられた非常用の脱出通路に押し込まれる。どうやら只事では無い様だ。


「お姉様!何があったのですか!?」


「......皆んな殺されたの、お父様お母様も。」


 苦虫を噛み潰したかのようなお姉様の表情。国王と王妃の突然の死。本当に只事ではない。国の存続の危機だ。


 小柄な護衛が鎧を脱ぎ私の夜用のガウンを纏い、白いカツラを被っているのが見えてしまった。……つまり、私の身代わり?

 突然の事態に震えて足が動かない。何回も練習で通ったはずの道なのに。私とお姉様が生き延びなければこの国が終わってしまうのに。


 アイーシャお姉様によって通路の入り口が内側から閉められ、灯りも少ない通路を手を引かれて走る。お姉様はもしかして、皆が死んで行く中わざわざ私を逃す為に離宮まで来てくれたのだろうか?自分の部屋から脱出通路を使えば今頃安全な場所まで逃げれていたかもしれないのに?

 でも、ここを通って王宮の外へ出たとしても……この状況下では何処に向かえばいいのか、私は全然分からない。殆ど宮の外に出た事がない私が1人で逃げたとしても逃げ切れないのが目に見えているから、お姉様は迎えに来てくれたのだろう。


「……そこまでだ」


 いきなり前方に現れた松明の明かりと、カッという音を響かせ足元の床に刺さった矢。知らない青年と少年が1人ずつ。10代前半と後半くらいと思われるが、少年は弓を、青年は松明と剣を持っている。


「何故この道を知っているの……!マニュス帝国、よくも私の国を!!アズィーム山脈の神々の怒りを受けるがいいわ!!」


「煩い。ウリクセス、あの騒がしい女は殺せ」


 剣を持った方が、弓を持つ方に指図する。


「フェーリックス、しかし連れ帰るよう言われたのはその女の方だ。白い方も珍しいからどちらも生捕にしようと先程まで……」


「気が変わった。殺気立った煩い女は何をするか分からんし嫌いだ。お前がやらないのなら私がやる」


「……間違えて両方手にかけないようにだけしてくれ。片方は連れて帰らなければ」


 アイーシャお姉様がすかさず暗器を投げるがフェーリックスとかいう男の剣に全て打ち落とされてしまう。

 絶対絶命、とはまさにこの事ではないだろうか?前世で散々楽しんだ物語ではここからヒーローが助けに来るんだろうけど、今からそんな事が起こり得るのだろうか?もしかして、私がいきなり能力に目覚めてアイーシャお姉様を助け出すパターンだろうか?


「……タルジュ、私の愛しい妹。出来る事なら、貴女だけでも」


 こちらを振り向きながら笑顔を向けたアイーシャお姉様が、次の瞬間まるでスローモーションを見ているかのように、私に向かって崩れ落ちてくる。上手に受け止める事が出来ず、尻餅をつくように倒れてしまう。


「お姉様?」


 嫌だ。誰か嘘だと言って?


「……や、だ、アイーシャお姉さまっ!!」


 目の前に突きつけられた光る剣から滴り落ちる血は、アイーシャお姉様の物では無いと言って?


『ドッキリでした〜お誕生日おめでとう!』なんて笑いながら起きあがって?


 手に感じる生温かい液体も、血糊だと……誰かそう……言ってよ。

 斜めに切れてしまった黒く美しい髪も、周りに散った赤色も、幻だと思いたいの。お願いだから。


 物語は所詮いいように作った創作。現実はそう上手くいくものではない。私には、大好きなアイーシャお姉様を救う都合の良い力は無かったのだ。


 ──その後の事はよく覚えていない。


 睡眠薬で眠らされつつ、袋に詰められたり布で簀巻きにされながら、かなりアップダウンの激しい山道を手荒に担がれ、何日もかけて運ばれた。


 気が付いた時には、玉座に座るマニュス帝国の皇帝とかいう中年の男と、魔術でも使いそうな黒ローブの人物達の前に、縛られた上に口も封じられた状態で放り出されていた。


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