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ずっと一緒にいてね

 優しい両親や5つ年上のアイーシャお姉様、沢山の使用人に囲まれ可愛がられて成長し、私は8歳になった。


 ここまでの間に、言語をマスターしつつまずは現状把握に精を出した。どうやら私はアズィーム王国の次女姫として生まれたようだ。


 アズィーム王国は、西側に聳え立つアズィーム山脈の雪解け水から出来るオアシスを拠り所として成り立っている小さな王国である。

 山脈の神々を敬い恵みに感謝しながら、小さいながらも衣食住には困らない豊かな生活を送っている。民は皆濃い褐色の肌と輝く黒髪を持ち、煌びやかな薄布が特徴の暑い国らしい衣装を纏っているが……


 カーテンが引かれた薄暗い部屋の中、鏡に近づいて己の姿を写見る。


 白くて緩くカールのかかった髪。白い肌。薄灰色の瞳。私はいわゆるアルビノだった。

『タルジュ』という名前は雪という意味で、この見た目から付けられた名前らしい。メラニン色素が少ない私にとって、直射日光が強いこの国で暮らすのは身体的に厳しい。長時間光に当たると皮膚が赤くただれてしまうため、夕暮れから夜にかけてしか部屋の外に出る事は許されない。目も赤ちゃんだからよく見えないのだと転生直後には思っていたが、きっとアルビノ特有の視力の弱さなのだろう。


 ……まぁ、前世の真白だった時も同人活動のやり過ぎか目が悪かったので、ある程度慣れてはいる。近くは見えるし、前世の酷い近視と大差無いから、眼鏡やコンタクトが無いだけだと思って暮らせばいい。


「はぁ……それにしても。この国暇なのよねぇ」


 鏡を見るのを止めて、ふかふかのソファーに突っ伏す。

 部屋で閉じこもって出来る事なんて勉強と読書、歌や楽器の演奏くらい。

 勉強は前世で言うところの『パピルス』の様な植物で作られた巻物の書物を読むばかりだし、読書も結局は書物を読む行為だから勉強時と読む内容が変わるだけ。音楽系は才能が無いのか、優しいアイーシャお姉様が苦笑してしまうレベルだった。

 書物にばかり向かう私を可哀想に思ったのか、両親が身分の釣り合うお友達も用意してくれたのだが……話が合わなかった。

 だって皆が言う『流行りの舞台の踊り』は見に行っても視力のせいでよく見えないし、『どこそこの御子息がイケメン、エスコートが完璧』なんて言われても、夜しか外出出来ないお子様なのでなかなか会う機会もない。運良く会えても、立場上の問題なのか頭を下げられるばかりでお近付きになれる気配すらない。


 ……しょうがないから何の物語やゲームに転生してしまったのかずっと考えているが、全く見当も付かない。あえて言うならアイーシャという名前でまさにお姉様似の女の子をオリキャラとして絵を描いた事はあるが……あれは絵だから違うよね?


 あぁせめて自由にできるだけの紙があれば絵でも小説でも書けるのになぁ……パピルスは、姫の私から見てもお値段が高いし繊維がガタガタして創作向きじゃないのよね。隣国には羊皮紙がある国もあるみたいだけど、あれも高いし。創作への未練がありすぎて、ついつい紙の事を考えてしまう。


「タルジュ何をしているの?お父様の部屋から書物を持ってきたわよ」


「アイーシャお姉様!!」


 私の視力でも絶対的美人だと断定できるアイーシャお姉様が、私の為に沢山の書物を両手一杯に部屋まで運んで来てくれたようだ。待ってました!と言わんばかりの勢いでアイーシャお姉様に向かって走っていき出迎える。

 話が合う友達がいない私にとって、お姉様だけが唯一と言ってもいい気の合う話相手だ。私が思い付きで話した物語にすら、面白いと耳を傾けてくれる……優しくて大好きなお姉様。


「走ると危ないわ!転んで怪我でもしたらどうするの!」


「大丈夫大丈夫。お姉様こそ、こんなに沢山持つと危ないわ。半分持つね?」


 そう言いつつ半分取ろうとするが、過保護なお姉様は1/3しか渡してくれなかった。

 お父様やお姉様の部屋がある本宮から考えると、山脈寄りの奥まった場所に建つこの離宮までは、同じ敷地内だが少し距離がある。ここまで抱えて来るだけでも大変だっただろうに……なんて妹思いなんだろう。

 一緒に部屋の隅に置かれた机まで行き、ドサっと乱雑に書物を下ろす。


「ふぅ、これでお父様の部屋にあった歴史書は全部持ってこれたと思うわ。それにしても、読む量が半端ないわね。ただでさえ『アズィーム山脈の雪解け水の妖精姫』なんて立派な異名があるのに、最近は『アズィーム山脈からの監視人』とも言われているわよ」


「......目が悪いのに何故監視人なの?」


「我々がアズィーム山脈の神々に失礼な生き方をして来てないか、書物を読んで監査しているのでは?ということらしいわ。タルジュは無自覚なんでしょうけど、楽々と文字を読み書きできるのってそのくらい凄い事なのよ。こんなに愛らしい容姿なのに頭も良いなんて、本当に神様の遣いのようね」


 まさか暇つぶし兼転生先の状況把握が、そんな大層な事に思われているなんて!殆ど部屋から出ないから知らなかった。まぁ識字率も高くなく、いわゆるお貴族様でも家を継がない子女は字を学ばない者も多いこの国ではしょうがないのかもしれない。


「えぇ〜……アイーシャお姉様、監視人の片棒を担がせちゃってごめんなさい」


「え?私は全然気にしてないわ!タルジュは私が治める世の為に頭脳役を買って出てくれているだけでしょ?書物の内容は直ぐに覚えてしまう賢い妹がいて心強いわ。何処にも行かないでずっと一緒にいてね、私の可愛いタルジュ。……ただし、目がこれ以上悪くなるといけないから夜中までは読まないように!」


 直ぐに覚えしまう訳ではなく、前世の記憶で知識として持っている内容も多いので覚えやすいだけなのだけど、そんな事言えるわけない。

 抱きしめてくれる柔らかい感触が気持ちよくて、ついつい跡取りであるお姉様の頭脳役を受け入れてしまう。美人で音楽が得意なだけでなく、民思いで女神様のようなお姉様の為なら……バックサイドで生き地引のように生きるのも悪くないだろう。

 珍しい見た目のせいで、まるで生き神のような珍獣枠として扱われている私は、降嫁する予定は無いらしいし。そうやってお姉様と共に、姉妹でこの国の発展に寄与しながら今世は生きていくのだ。

 そして……あわよくば識字率を向上させ、前世のように文字を読み推しを愛でる文化を定着させたい。


 ──10歳の誕生日のあの日まで、私はそう信じて疑いもしなかった。

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