御伽噺に縋っても(1)
甘いですー!今回は甘々です!
「それで、あの後はどうなったのですか?」
ラエティティア様がずいっと顔を近づけてくる。
今日は例のお茶会の日。ラエティティア様が快く、フェーリックスが仕方なく、引き受けてくれたのでこの前の夜会は問題なく終わったらしい。その件があったせいなのかは分からないが、ウリクセス様の屋敷内の一室で、二人でお茶会をすることが許された。
勿論、皇子二人の婚約者が一箇所に集まることから護衛の人数は多めに配置されている。お茶もお菓子もこちら側で用意した物が並べられ、ウリクセス様が何かを警戒しているのが丸わかりだ。……まぁ先日の皇帝やルキウス様の行動を考えれば、しばらくはいつも以上に過保護になるのは仕方がないのかもしれない。
ラエティティア様は話せば話すほど、見た目とは裏腹に純粋で可愛らしい女性だった。フェーリックスにあんな態度を取られても彼の事を好いているのが丸わかりだし、未来の皇妃としてはその分不安な点も多いような気はするが……それはフェーリックスがどうにかするのだろう。
「……えーっと、ウリクセス様の部屋に連れて行かれまして」
「きゃー!それで?それで!?昔は、あの大真面目なウリクセス様が女性に夢中になるなんて考えもしませんでしたけど、それがタルジュ様にはあんなに嫉妬心を見せるようになるなんて!!ああその辺の新人作家の物語より、タルジュ様の身の上話の方が面白いわ!早く続きを教えてくださいな!」
もはや、ノリがレディーのお茶会ではなく、ただの恋話井戸端会議だ。
ラエティティア様にあの後の話をするために、数日前の記憶を呼び起こしていく。
ウリクセス様の屋敷まで抱きかかえられて連れ戻された後、連れてこられたのは自室ではなく見知らぬ部屋だった。綺麗に整えられているが、調度品からするとなんとなく男性の部屋っぽい。そして馴染みのある匂いで何となくわかってしまう。ウリクセス様から時々香るシトラスのような匂いがついたベッドに丁寧な手付きで降ろされた。
深夜の異性の部屋、しかも婚約者。物書きとしてその意味を知らないわけがない。成人となる夜なわけだし?そういう事を求められたって違和感はない。五年前はそういう事を考えて震え上がってしまったけど、今の私には怖がる理由がない。
だってウリクセス様の事、愛しているんだもの。
「ああ、心配しなくても情事をするつもりはないから、安心して?私の欲でタルジュを傷付けてしまうのは、まだ早いから」
……ですよね!私は残念がってなんかいませんよ?だってまだ成人していないお子様ですからね。
ちなみに帝国の法律上は、婚約していれば十五歳からは違法ではない。前世から考えると信じられないけど、国が変われば法も変わる。
勘違いした自分が少し恥ずかしい。恥ずかしさを隠すようにウリクセス様に抱きついて顔を埋める。
「……煽っていいとは言ってないんだけど。まぁいい、タルジュはあの男に何を言われた?」
「あの男とは、ルキウス様の事でしょうか?」
まさかフェーリックスの方では無いだろうと思うが、一応確認をとる。
「そう。名前を出さないでくれるかな?タルジュの口からその名が出るのも嫌。その可愛い口で紡ぐ言葉の辞書に、他の男の名前なんていらない。そんな頁は破り捨てて燃やして灰にした上で川に捨ててきて欲しい。タルジュが出来ないのなら私が焼き捨てる」
……なんてまた無茶な事を。とは思ったけど、ウリクセス様のご要望なので出来るだけ叶えたい。こんな無茶な要望や嫉妬まで愛おしく感じるなんて、私も大概だなと思う。
「要約すると、血縁者なのだからまた話をしましょう。アズィームのために一緒に活動していきませんか?という事でした」
「それは私との結婚を蹴って一緒にならないかという誘いだね?あの場で3発くらい思いっきり殴っておけばよかった。また占術省まで殴りに行く手間が増えてしまった」
だからウリクセス様、笑顔でそういう事言わないでください!怖いから!
「ルキウスはタルジュが災害を防ぐだけでなく神からの知識を持つと分かった途端に、災いの子である私の婚約者には勿体ないとか言うようになった張本人だ。……しかも女癖が悪いから絶対に見せたくなかった」
パチッと音をさせて、髪を留める飾りが外された。ハーフアップになっていた髪が落ちてきて肩にかかる。落ちてきた髪を整えるように指で梳いてくれる、のかと思ったらそのまますくった髪に口付けられた。
「ねぇタルジュ、私はタルジュを閉じ込めて窮屈な暮らしをさせているのかな?……分かっているよ、頭では。皇子とはいえ災いの子と言われる私にタルジュは勿体ない。得てはいけない存在だった。でも……」
先程までの怖い笑顔はどこに消えたのか。言葉の最後が少し震えて途切れる。ウリクセス様らしくない、弱気な余裕の無い表情に……胸が苦しくなる。
占術師達が、歴史が、伝説が、幅を利かせているこの帝国で……私を隠すようにして守り、矢面に立ち続けるのはどれほど大変な事だったのだろう。
私が存在さえすればいい引きこもりの役立たずであればまだマシだったのかもしれないが、よりにもよって私が公務をしたいとしゃしゃり出て来てしまった。ウリクセス様は優しいからそんな私の要求も飲んでくれて出来るだけ叶えてくれた。その結果、山脈の神々からの知識を持つという私は、占術師達に目をつけられた……。ウリクセス様に相応しくなりたいと、アズィームの為になりたいと、私が動いたばっかりに。
「ウリクセス様、ごめんなさい……」
気がつかなかった。ウリクセス様が私との婚約を守るために占術省や……実の父である皇帝とここまで対立を深めていただなんて。
「何故タルジュが謝るの?全て私の力不足……だけど、私は何があってもタルジュだけは手放せない。たとえ身分を剥奪されようとも。ごめんね?もうタルジュが嫌がったって、後戻り出来ないし離さないから」
外の時計台の鐘が鳴る。日付が変わった合図と同時に両頬を包み込まれて口付けられる。初めて感じる唇同士が密着する感覚。柔らかいけど、自分のとは違って大きくて異なる感触に、戸惑いながらも瞳を閉じる。触れ合ったままで少しだけ浮かすようにされたウリクセス様の唇が少し開いて、それにつられて口を開けると、舌が絡め取られた。
何度も何度も自分の物語内で書いてきた行為だけど、書くのと実際にするのでは、全然別物。戸惑いのせいか、想像の世界のように自然に息を吸うことが出来なくて、苦しくなってくる。物語内では苦しくなってくると唇を離してもらえるのがデフォルトな気がするのだけど、全然離して貰えない。こういう時は胸元を叩くんだったよね!と思い出しトントンしてみるが、全く効果なし。何故。
ちょっともう生存の限界!と思った所で離してもらえたが、そのまま押し倒されて再度口付けられる。私の両腕を押さえる黒い手袋。
完全に抵抗できないようにして、執拗に口付け続ける余裕の無さに少し違和感を覚えたが……好きな人とキスできる嬉しさが勝ってそこまで気にならなかった。




