貴方の婚約者でありたい(3)
「私ともお話する機会をいただけますか、アズィーム山脈の雪解け水の妖精姫様?」
続いて現れたのも、また金髪碧眼の……今度は男性だった。年はフェーリックスよりも上、だろうか?
「先程私の妹がご挨拶しているのが見えまして。ルキウスと申します、以後お見知り置きを」
ということは、先程のラエティティア様のお兄様!未来の皇妃の兄、ということは相当な御身分の方ではないだろうか。
再びドレスを摘んでおじきしようとしたが、なぜか護衛に止められる。
「ウリクセス様の派閥には嫌われたものだな。この私への挨拶すら護衛越しとは……ね」
背中まである髪を1つに束ねた見るからに高貴そうな方。護衛は私の前から立ち退く気配はない……占術師には気をつけてとウリクセス様に言われたことを思い出す。
「タルジュと申します。あの、私あまり派閥には詳しくなくて……申し訳ございませんがこのような形での挨拶となることをお許しください」
「貴女が謝ることではありませんよ。それにしても本当に噂通り美しく愛らしい。ウリクセス様が隠したがるのも納得ですね、あの方には勿体ない」
……勿体ない?この人がウリクセス様に対して抱いている感情が良くないもののように感じ、警戒心を強める。
「もしよければ2人で話をしませんか?今日は難しいでしょうから日を改めてで構いません。私達、血縁者なのですから同じ故郷を持つ者同士ゆっくり話すくらい許されていいでしょう?……もしかしてご存知ないですか?貴女のお祖父様と私の祖母は兄妹だったのですよ」
私の前に、最後にマニュス帝国に嫁いだ……お祖父様の妹の子孫!
「そう、だったのですね。存じ上げませんでした。ウリクセス様にお伺いしてから、お返事させてもらいますね」
「それくらい貴女の判断で出てくればいい。それでは軟禁されているようなものだ。フェーリックス様もだが、この帝国の皇子達はなんと独占欲の強いことか。私なら貴女にそんな不自由はさせませんよ?どうです、私の手を取って一緒にアズィーム領の発展のために活動していきませんか?」
アズィーム、と聞いてハッとする。この人は私がアズィームに関われないことに不満を持っている事まで知っているんだ。ウリクセス様を取るのか、自分が生まれ育った土地を取るのか、もしかして試されているのだろうか。そんなの、答えは決まってる。
口を開こうとした瞬間、ぐいっと腕が後ろから引っ張られた。よろけて誰かの衣服にどんっとぶつかる感覚がしたと思ったら、力強く抱き込まれる。
「……これはウリクセス様。先程まであんな遠くにいらっしゃったのに、お早いお戻りで。成人おめでとうございます。我ら占術省からもお祝い申し上げます」
恭しく礼をする様をウリクセス様は冷たい瞳で見下している。
「占術師は一切招待していないはずだが?成人するまでに殺せなくて残念だったな」
「まさかそのような事。この帝国の第二皇子を殺そうだなんて、真実であれば恐ろしい反逆罪ですね?それに本日はウリクセス様のお祝いを直接申し上げたかったのにと妹のラエティティアにこぼしたら、兄を可哀想に思ったのかこっそり連れてきてくれた次第でございまして」
「兄妹とはいえ第一皇子の婚約者を口実に使うとはな。そこまでしてタルジュを得たかったのか?」
わずかにだが、ルキウス様の口角が上がったように見えた。
「まさか。ウリクセス様が心底大事に閉じ込めていらっしゃる宝を、少しだけ拝見したかっただけですよ。しかし、残念です。もしウリクセス様ではなく私の元に嫁がれていたら、もっと帝国のため、アズィームの為になったでしょうに。今からでも考え直したらどうです、第二皇子様?」
明らかに挑発するような口調にウリクセス様が苛立っているのが感じ取れる。
「言いたいことはそれだけか?タルジュは私の婚約者だ。それに手をだせば、未来の皇妃の兄とてただでは済まさない。理解したなら直ぐにこの場から立ち去ってくれるかな?タルジュの前でこれ以上騒ぎを大きくしたくは無い」
「ええ私もウリクセス様にはこれ以上用はありませんから、失礼させていただきます。ではタルジュ様、また今度」
気がつくとあたりが静まり返っており、心配そうな顔で様子見する人々の波を割るようにルキウス様が退場していく。ルキウス様がいなくなっても、変わらず抱きしめられたままで離してくれる気配はない。
「タルジュ、約束したの?あれ程気をつけるように言ったのに……飾りのように護衛付きで置いておけば、なかなか話しかけに寄ってくる馬鹿はいないだろうと思っていたけど、ラエティティア様経由で来るとは。見通しが甘かったかな、ごめんね」
口では謝罪しているが、かなり怒っている……嫉妬とかそういう可愛い話ではなく、内心激怒レベルだ。
「あの、約束してません。ウリクセス様にお伺いしてから返事をすると、回答しておきました」
「返事をする、ということは再び何らかの方法で接触する約束をしたということ。会って伝えるなんて言語道断、手紙も伝言も、例え返事がNOであれ接触する約束をした事に変わりない」
……それは、もう言いがかりに近い気がするのですが。
「ウリクセス様、先程の方はやはり占術省の方なのですか?皇帝といい占術省といい、随分ウリクセス様への態度が酷いのですね……」
「そうだね、彼が実質的な省のトップだよ。災害を防ぐ事ができる上に様々な知識を持った尊い身を、異端の私が得て隠し続けているのが、とにかく気に食わないらしい。……皇帝も結局は占術師に陶酔してるから、結局そういう事」
「ウリクセス、とりあえずこの場は怒りを仕舞っておけ。……ティアは後で叱っておく」
気がつくと隣にフェーリックスとラエティティア様がいた。心底呆れた表情のフェーリックスとは対照的に、初めの凛とした佇まいはどこに消えたのかと思うほど狼狽えているラエティティア様。
「フェーリックス様、ウリクセス様、申し訳ございません。まさか兄があんな事をするなんて思わなくて」
「ティア、言い訳は無用だ。私に黙ってルキウスを入れただろう。いくら善意であったとしても、その結果がこれだ。女の癖に出しゃ張るな」
「ではラエティティア様。私の代わりにこの場をフェーリックスと一緒にお任せしてもよろしいですか?」
出た、ウリクセス様の意味深なニッコリ笑顔。即座にラエティティア様がコクコクとうなづき、またフェーリックスに「おい!勝手に決めるな!!」と怒られる。
「じゃぁそういう事なので、フェーリックス。後はよろしくお願いします」
私の体に回っていた腕の位置が変わり、膝の後ろを抱えられてふわりと体が浮く。
「ちょっと待てウリクセス、主役無しで進めろと?今わざと狙ってティアに話振っただろう!」
「民に人気なフェーリックスならそれくらい簡単でしょう?成人する瞬間くらい、タルジュと2人っきりにさせてください」
「まぁ素敵!まるで物語のようね、フェーリックス様?私も今度のお誕生日はそうして欲しいわ」
「……もう勝手にしろ」
何となく3人の関係性が会話から分かってくる。頭を抱えているフェーリックスは、やっぱりただの気の狂った人ではなかったようだ。女の癖に、みたいな事をよく言っているけど、ラエティティア様に振り回されているように見える。ラエティティア様は凛として見えるけど、中身は純粋で単純なタイプのようだ。そしてウリクセス様もそれを上手く利用している。
「タルジュ、私を怒らせた事……覚悟しておいた方がいいよ?」
……いや、どう考えても話しかけられただけの私は悪くないと思うのだけど?




