幸せ、だった日々(1)
名実共にアズィーム山脈の妖精姫設定にしてから、私の生活は急変した。
まず、今まではウリクセス様の屋敷内から出ることが叶わなかった私だが、ウリクセス様と一緒に屋敷外に出かける事が増えた。
いや、出ることを望んでいた訳ではないのだけど……天気が悪い日や夕方以降など日差しの差さない時間を狙って、公務という名目で様々な場所に連れて行かれる。つまり、私の持つ神々からの情報でどうにか出来ないかという視察だ。まぁ視察と言っても目が悪いから補足説明係が必須なのだけど。
時には偉い立場の役人などを大勢伴って行くこともあるのだが、私の身体的事情のため一般的な人にとっては外出に不向きな日ばかりになってしまうのが本当に申し訳ない……。
ライラーによって可愛く飾られた姿を崩さないように気を使いながら馬車に乗り込み、到着した場所で視察後考えを述べさせられ帰る。
場所はよく氾濫するという河川だったり、森林火災がよく起るという森だったり……災害が多いというだけあって、そのような場所に連れていかれる事が多かった。場合によってはそのレポートを羊皮紙や羊皮紙以上に貴重な紙に纏めさせられる事もあり、時々公務を頑張っているご褒美としてその貴重な紙を個人的な使用のために融通してもらう。そんな生活を5年ほど送った。
……まぁ5年も経った訳だけど、ウリクセス様と一緒に出かけない日の私の日常は、10歳の時から大差ない。朝眠い目を擦りながら起きて屋敷内にある自室で出来る書類物の公務をこなしたり、ウリクセス様が付けてくれたスパルタ系家庭教師から教養を学ぶ。夕食後からは趣味の執筆活動や絵を描いたり、時間に余裕がある時に現れるウリクセス様とお話したり一緒に庭園を散歩したりする。ウリクセス様とは時々意見が割れて言い合いになる事もあるけれど、話し合えばお互いに妥協点を見つけて解決出来るので問題は無い。忙しい中時間を見つけては私との時間を作ってくれ、沢山の時間を一緒に過ごしてきた……そんなウリクセス様を愛するのは容易な事だった。
アズィーム王国もお姉様の王配予定だった血縁者の者を領主として、ウリクセス様の采配で付いた後見人にも助けられながら、アズィーム領として上手く機能しているらしい。なぜ「らしい」かと言うと、相変わらずアズィーム領の事には関わらせてもらえていないからだ。私が関わるとパワーバランスが崩れる可能性があるやらなんやらで、とにかくアズィーム領に関しては上手くいってるかどうかしか教えてもらえない。さらに例の伝説のせいで、私はこのマニュス帝国から出ることは許されなかった。
……少し不満は残るけど、故郷が幸せになるのであれば構わない。そこに私がいなくとも。
伝説の通り私がマニュス帝国に来てから特に大きな災害も争いも無く、好きな人と送る幸せな日々を送っていた。
──いつか決壊して幸せは流れていってしまう。
そんな事を考えた5年前が、遠い昔のように思えた。




