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あと8年

今回はウリクセス様目線となっておりますー!

「おいウリクセス」


 父である皇帝に報告を終え、宮殿から屋敷に戻る途中、兄のフェーリックスに声をかけられる。


「例の異端の姫、公務に参加させるそうだな。どういうつもりだ?」


「つもりも何も、私の婚約者という立場ならある程度の公務に関わっても問題ないでしょう?」


「他国の人間なんて中枢に入れたら問題が起こる。しかも女、役に立たないだろう」


 兄の男尊女卑発言にうんざりしながらも、それを感じ取られないように聞き流す事に徹する。


「そもそも何故好んで異端の女を婚約者にするのかが理解出来ない。帝国内での異端の評価はお前が良く分かっているだろう?あんな女、父上の後宮にでも閉じ込めて、飼い殺しておけばいいのに。それにアズィーム山脈の神から知識を貰える能力があるだなんて初耳だぞ。本当か?」


「......占術師達や伝説を考えるなら、アズィーム王家の血を引く者でしかも山脈の名を通り名に持つ姫な訳ですから、それなりの地位に就くべきしょう。本当かはまだ分からないけど、嘘というにはあまりに知識量が多い……蔑ろにして神の怒りに触れたくはないでしょう?占術師派のフェーリックスは、伝説を蔑ろにしてはいけないのでは?」


 タルジュを『あんな女』扱いされ少し苛立ってしまい、つい言葉選びに棘が出てしまう。


「伝説を信じていないお前に言われたくはない。皇帝の妾だって悪い地位ではないし、初めはその予定であっただろう。……何故お前がそこまで執着しているのか分からないだけだ。」


 マニュス帝国は移民など他民族に関しては寛容だが、異端な見た目、例えばアザがあったり指の数が多かったりなど特異な見た目をした者を嫌う風習がある。酷いと赤子の時に生まれなかった事にしたりするのだが、まさに白斑のある私はその嫌われる対象だ。

 殺されず、後ろ指差されながらでも生きてこれたのは、母である皇妃が「異端の子であっても尊い私の子」だと庇ってくれ帝国の第二皇子だと認められたから。その後すぐに彼女は死んでしまったが、彼女の意を汲んだ一部の人々が守ってくれた……タルジュが私の顔を上げ前を向かせてくれた。幸運であったとしか言いようがない。

 勿論タルジュも特異な見た目で嫌悪対象に成る可能はある。しかし、体が弱く色が違うだけで体の造りは一般的な人間だし、何より愛らしく賢い。アズィーム王国の根幹を支える大切な「山脈の雪解け水」の「妖精姫」と名高いタルジュに対する評判は、異端嫌いの帝国内ですら前々から比較的好印象だった。伝説を知っている者は、その貴重な御身を迎え入れる事が出来ないかと手を尽くしていたし、知らない者でもあまり表舞台に出てこないタルジュの姿を少しでも見たいと躍起になっていたのも知っている。


 ……誰にも渡しはしない。髪の毛の1本すら、誰にも渡したくない。

 興奮した様子で本について話す姿も、私の腕の事を考え悲しみに暮れる顔も、やっと異性を意識しはじめて恥ずかしそうに頬を染め顔を隠す様子も、全て私だけのものであってほしい。

 とりあえず目下の心配事は、タルジュが接触できるアズィーム山脈の神とやらが男なのかどうかだ。神が供物や花嫁として人を欲しがる話は時折見かける……そうなった場合はどうすればよいのだろうか。

 それは追々考えるとして、ひとまずタルジュの事で突っ掛かってくるフェーリックスの相手をしなければ。


「嫌われ者の私より、神と交流出来るタルジュの方が人気者になると思うよ。人気者を自分のモノにしたい気持ちは、民に人気なフェーリックスには分からないでしょ?......あぁ、政策面で存分にタルジュを利用するつもりだから、異端で嫌われ者である私を哀れと思うのなら邪魔しないで。」


 万が一後になってタルジュを欲しがられた時の為に予防線を張っておく。フェーリックスは異端者を嫌いながらも、一応弟である私の事は家族としてある程度気にしてくれている。第二皇子である私が婚約者の座に座らせたタルジュを正式なルートで奪える可能性があるのは、皇帝たる父と、第一皇子のフェーリックスくらいだ。タルジュを利用するつもり、と言っては語弊があるのだが、それくらい言っておけば、少々は存在するであろう兄弟愛でタルジュに手を出しては来ないだろう。

 勿論正式ルート外から狙われる危険性も十分あるし、そちらの方が可能性は高いのだが。


「女に手伝ってもらうなんぞ反吐が出る。ウリクセス、見損なったぞ。どうせお前の事だから裏で他事を企んでいるんだろうが、お前もこちらの邪魔はするなよ」


 フェーリックスが苛立った様子でマントを翻し去っていく。

 私と同じように、フェーリックスも他事を企んでいる事を知っている。お互い様だ。きっとフェーリックスに直接邪魔される可能性は低いだろう、お互いの目的がぶつからない限りは。

 しかし、環境さえ整えておけば従順に引き篭もるタルジュは、大人しい女性が好きなフェーリックスの好みに被るため一応気をつけておこう。


「フェーリックスよりは、占術師側を気をつけるべき、かな。」


 今はアズィーム王国制圧による帝国内の混乱や、国境の山脈付近の民同士の小競り合いの鎮火に忙しく「異端の姫なんぞ気にしている暇はない」状態だろうからある程度心配は要らない。いざこざが鎮火するまでに「第二皇子の婚約者」を不動のものにしなければ。

 やっとの思いで手に入れた人が、帝国の法上結婚出来るようになるまで......あと8年。

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