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アズィーム山脈の寵愛

切れ目の関係で、いつもより少し長めですー!

 読書&歴史漬けの生活を始めて丁度1週間が経った。

 今日は朝早くからウリクセス様が部屋に来て、私が腰掛けているソファーと対面するソファーに腰掛けている。ちなみにまだ朝の6時。ウリクセス様が来るからとライラーに早朝5時に起こされ、身支度させられた。前回のように寝ている横で待たれるよりは遥かにマシだけど、眠い。とにかく眠い……!夜型の私には辛い……正直身支度とか適当でいいから直前まで寝させて欲しい。

 しかしライラー曰く「前回は突然だったので仕方がないですが殿方の前に出るのに寝間着なんて言語道断!しっかりと準備して可愛く着飾っておかないと!」ということらしいので、しょうがない。

 お子様同士なんだから少しくらい許されてもいいんじゃない?と思ったのだけど「確かにウリクセス様は13歳ですが、中身はもっと大人なのでダメです!」と余計に怒られてしまった。にしても、ウリクセス様は朝型すぎませんか?


「タルジュ、帝国の歴史はご理解いただけたかな?」


 優雅にティーカップで紅茶を飲みながらウリクセス様が問い掛けてくる。帝国内には茶葉の産地があるらしく、ライラー達侍女がいつも美味しいお茶を淹れてくれる。おかげで前世ではコーヒー派だった私はすっかり紅茶派に。私もカップに口をつけながら、横目で机の周りに積み上げられた書物をチラリと見た。

 ちなみに用意された書物は週の前半で読み切ってしまったので、後半は帝国の歴史から様々な事を考えていたのだが……隣の国の歴史なのに知らない事ばかりだった。

 例えばアズィーム王国では敬うべき神のような扱いをされるアズィーム山脈。穏やかで恵みをもたらす山脈は、反対側から見ると別の顔をしていた。雪崩や融雪洪水、土砂崩れなど災害が多く......恐れの対象として扱われていたのだ。


「まぁ大体は理解できたかと。......それを踏まえてウリクセス様に聞きたい事がいくつかあるのですが」


「どうぞ?タルジュなら何かしら聞いてくれると思っていたよ」


 ああやっぱり、私が歴史から何を考えるのか試していたのかもしれない。そう思いつつ疑問点を尋ねる。


「単刀直入に聞きます。マニュス帝国がアズィーム王家の人間を必要とした……私が連れてこられた理由は、災害を治めるため?」


 帝国の歴史上度々現れる、アズィーム王家の血筋から嫁いできた人達。まるで決まり事のように、嫁いできた1人が死ぬと暫くしてまた1人嫁いでくる。しかし私の祖父の妹が嫁いだのを最後にパッタリとその習慣が潰えてしまい、多い時には同時に5人程存在したアズィームから嫁いできた者達は、現在1人もいない。

 表立って活躍しただとかそういった記録は残っていないのだが、彼女達が帝国内で生きている間はアズィーム山脈に関係する災害が妙に減るのだ。つまり、1人もいないここ数年は災害がとても多い。

 そしてそれを裏付けるかのようにここ10年程「伝説に基づいて」アズィーム王家に何度も何度も縁談を求めた記録が残っている。ウリクセス様が私に当てた求婚だけでは無く、皇帝から国王に対して王族関係者の縁談を依頼した記録が沢山あったのだ。伝説が何かまでは記載されていなかったが、ここまでくるとある程度予想はできる。


「やっぱり文章から背景を考えるのが上手なんだね。アズィーム王国ではそういう教育を受けるものなの?」


 まさか「前世のオタ活で鍛え上げました!ちょっとした点から裏話や2次創作まで作り上げるのには必須なんですよー!」……なんて言えないからスルーするしかない。


「独学です。それよりウリクセス様、私の質問に答えてください」


「そうだったね。ご名答、まさか自分1人で考えて辿り着くとは思っていなかったのだけど、今回の侵略の理由の1つがそれだよ。我が帝国は、長きに渡り山脈を原因とする災害に苦しめられてきた。それを皆無、とは言わないが激減させてくれていたのが、アズィーム王家から嫁いで来た人々だ」


「どのようにして災害を減らしていたのですか?」


 まさかアズィーム王家に知られざる隠し能力があるのだろうか。

 アイーシャお姉様が剣で切られた時、私に力が無かったことを散々悔やんだが……やっぱり転生してきた世界なだけあって、物語のような都合の良い力が私にもあったのかもしれない。


「それが謎でね。王家の血筋の者がマニュス帝国内に嫁いで来さえすれば山脈が穏やかになる。これが伝説と言われる由縁なんだ」


「え?何その不思議現象……」


 隠し能力を期待していたのに、速攻で否定されてしまった。いや、不思議現象って事は無意識化で発動中の隠し能力……とかいう可能性もある?


「嫁いで来た者達も皆口を揃えたように『分からない、何かをしている訳では無い』と言うんだ。だから『アズィーム山脈の寵愛を受けし王家の血筋を引く者を囲えば、神々は手出ししてこない』という伝説が帝国内に生まれた。理屈が解れば苦労しないんだけどね……解らないから大昔から内密にアズィーム王国に縋るしかなかったんだ」


 情けない話だよね、とウリクセス様が肩をすくめる。


「でも帝国に嫁いできた方々の御子孫はご存命なのでしょ?王家の血筋、という括りで言えば彼らも該当するのでは?」


「さすがタルジュ、噂通り聡い子だね。結論から言うと子孫は災害の減少に関与していない。隠していたわけでは無いけど私も辿れば子孫の1人だし、帝国内の上位貴族達はアズィーム王家の血が祖先に全く混ざっていない者を探す方が難しいだろうね。アズィーム王国で生まれた王族の血筋の者1代限りの寵愛、聞けば聞くほど謎だろう?」


 なるほど、確かに謎だ。聞けば聞くほど特殊能力にしか思えない。

 災害を防ぐためにアズィーム王家の者が欲しいという、帝国側の事情はそれとなく分かってきた。

 しかし大昔からの伝説、がある割に何故アズィーム王家は人を出さなくなったのだろう。私が王国内で読んだ書物を思い起こしてみるが、そんな伝説の記載はどこにも無かったし……マニュス帝国内に嫁ぐ王族が多い印象は全く無かった。友好国なのだから当然、くらいの自然な人数しか嫁いでいないように思える。

 嫁ぐだけで隣国の災害が減るのなら、幾らでも嫁がせてあげればいいのに。それでお礼に良い物貰ったり、経済的に優遇してもらうとか……交渉すればアズィーム王国優位の条件を幾らでも引き出せるような気がするのだけど。


「ちなみにお父様が私を嫁がせていれば、アズィーム王国に羊皮紙を沢山融通させてもらうとかも可能でしたか?」


「え?それは可能だっただろうけど」


 お父様!?何故私を普通に嫁がせてくれなかったのー!!大チャンスを棒に振ってるよ!!


「……でも羊皮紙なんて、アズィーム王国は貰っても嬉しくないでしょ。識字率の高くない国で羊皮紙貰って、喜ぶのはタルジュくらいだから!」


 呆れた顔で言われてしまう。


「だから識字率が低いからこそ、本=楽しい物という意識を植え付けて民の識字率と知力の向上を図る為に、羊皮紙がいるんですっ!」


 そして前世のように誰しもが創作に関われる文化を!推しを愛で、語れる文化を!とまでは言えないので我慢する。


「へえ……気になるけど、話が脱線するからその話は後回しにさせてね。恐らくタルジュが考えたのと同じように、昔はアズィーム王国も快よく交渉の場に乗ってくれていたんだ。貴金属や技術、食料など時によって対価の形は様々だったけど、人間1人が国にもたらす利益としては破格の条件を帝国側も提示するようにしていたから、差し出さない理由がなかった。」


「では、差し出さない理由が出来た……ということですね」


 自分で聞いておいて、何となく分かってしまった。頭の中に浮かぶアズィーム王家の家系図……恐らくだが、


「差し出せる者が居なければ、出しようが無いからね」


 アズィーム王家の近年の悩みは「出産率の低下、幼児死亡率の上昇」だった。

 代々直系の王族が国を継いでいくアズィーム王国は、近年子が少ししか誕生せずぎりぎりで王家が維持されてきた。

 王、いや死んでしまったから前王であるお父様は1人っ子、前々王の祖父は妹が1人いたがその方はマニュス帝国に嫁いでいる。そのため直系は私とお姉様しかおらず、その次に王家の血が濃い者となると……私から見れば、はとこより遠い存在となる。血筋だけで言えば、マニュス帝国に嫁いだ祖父の妹の子孫がいれば、そちらの方が近い。

 大人達が頭を抱えていたこの問題の原因は、転生者の私から見れば簡単だった。血筋を意識し過ぎたばかりに昔から頻繁に行われた近親交配。前世でもかのスペイン・ハプスブルク家の衰退の原因とされたが、遺伝子なんて概念のないこの世界では「尊き血が薄まってきているのだ」と考えられ、まったく逆の対策を取っていた。

 お母様も傍系の王家の血を引く者だったし、次期王となるお姉様の王配として候補に挙げられていたのも血縁者。子供を生まれにくくした上に、私のような遺伝子疾患のある子が生まれやすくなる環境を整え続けているようなものだ。


「傍系で血筋が遠くても良いからと懇願したが、これ以上は王家の存続に関わるからと決して首を縦に振らなかったそうだ。そんな中タルジュが生まれた時には帝国の中枢部が歓喜に湧いたそうだけど、何かと理由を付けてアズィーム王国が絶対に手放さなかった。交渉しても駄目、正式ルートで結婚したいと申し込んでも駄目、そうしている間にも帝国内では災害が頻繁に起き民が苦しんでいる……となると」


「侵略してでも手に入れたい」


「そう。これが今回の大筋の概要なんだけど、ある程度解っていただけたかな?」


 ウリクセス様が足を組みながら首を傾げてくる。私が一応10歳の頭で必死で考えているのに、なんて余裕げな表情なのだろう。3歳の歳の差だけではない……何というか、カリスマ性?の違いを感じる。

 大人達の中に混じって公務をこなしていればこう成れるのだろうか。ライラーの言った通り、この人の中身は13歳ではない。


「……解りません」


 いや、説明されている事は分かるんだけど……所々辻褄の合わない点が引っ掛かる。

 貴重な王家の血を引くお姉様を何故殺したのか。

 何故嫁ぐのは女性ばかりなのか、男性でもいいのではないか。

 若く未婚の女性でなくとも、例えば老婆でもいいから帝国内に置いておけば良かったのではないか

 私が存命中は災害から守られるのかもしれないが、死後はどうするのだろう。王国は滅んだのに。

 次々と疑問点が脳内に浮かんでくる。口にして問い掛けるより脳内に浮かんでくるスピードの方が早いので、とりあえず羊皮紙に箇条書きでメモを取ることにした。こういう時長い髪は邪魔だなぁと髪を耳に掛けながらペンを走らせる。

 私の書く内容を見たウリクセス様は少しだけ驚いたように目を見開いたけど、すぐに余裕げな表情に戻った。


「もう、解らない事だらけです。よく考えて纏めておくので、また今度教えてください」


「タルジュは役人にでもなりたいのかな?その羊皮紙に書いてある内容を見る限りだと、下手な大臣を相手にするより追及が細かいんだけど……」


「え?私はウリクセス様の妻になりたいだけです。これくらい理解しておかないと、ウリクセス様の隣になんて恥ずかしくて立てませんから。……?どうしたんですか、目痛いとか?」


 気がつくと、先程の余裕げな表情は何処かに飛んで行ってしまって、赤い顔を両手で覆った状態の……年齢相応な表情のウリクセス様がいた。


「……そのセリフを無意識に平然と言えるのが凄いよ」



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