笑顔は笑顔とは限らない
もう少しってどれくらいなんだろうと思ったが、ウリクセス様と庭園で過ごしたあの夜から3日目の朝。
「タルジュ様おはようございます」
「……ん、ライラーもう朝なの?ふわぁぁ……眠っ」
可能なら昼まで寝ていたいくらいに眠い。カーテンでも開けて太陽光を浴びれば目が覚めるのかもしれないが、私の場合紫外線に負けてしまうので基本的に閉め切ったまま。だから少々夜型になってしまうのも、しょうがないよね?
「また夜中まで本を読まれてたのですか?」
「昨日は小説書いてて……今ね、瞳と目蓋が結婚式してる最中だから、終わるまでもう少し待ってもらってもいい?仲を引き裂いたら可哀想……」
「結婚式……だそうですよ?どうしましょうか?」
ライラー誰に話しかけてるの?まぁいいや、眠いし……
「──で、結構な時間が経ったけどいつ結婚式は終わるのかな?」
突然耳元に吐息がかかり、布団の中で身体がビクッと跳ねる。
「あぁ目が開いたという事は、式が終わったんだ?でも式が終わってすぐに引き裂かれるのも可哀想だと思うけど」
「ウリクセス様……」
体はそのままで、目だけでちらりと時計を見る。本来の起床時間から1時間半オーバー。通常ならウリクセス様は朝私の部屋には寄らず、公務なり勉強なり忙しくされている時間だ。
何故ベッドの横にわざわざ椅子を持って来て座っているのだろうか……もしかすると、また夜更かしがバレて怒りに来たのかもしれない。何度も夜更かしするなら紙を取り上げると言われたばかりなのに、この展開は大変まずい!
「おはようタルジュ。結婚式に参列した感想を聞こうか?」
「……瞳は綺麗な涙模様のレースのベールを被っていて、目蓋はそんな可憐な瞳を優しく包み込み包容力があるだけでなく長い睫毛というイケメンオプション付きで……素敵な式でした」
そういやライラーに、結婚式中だから待ってと言ったなぁと思いながら、見てもいない人体の部位同士の結婚式を捏造する。
「それは良かったね」
怖い怖い、このシュチュエーションで笑顔は怖いのよウリクセス様!
「……今日は早く寝ますから許してください」
「分かっているのならいいよ。今回は可愛い寝顔に免じて許してあげる。寝言も聞けたしね」
そう言いながら手元に広げていた本に栞を挟んで閉じるウリクセス様。よかった、なんとか羊皮紙は取り上げられなかった!寝顔可愛くてよかった!!……って、寝顔と寝言!?
「……あの、私はいったいどのような寝言を?」
「ふふっ、秘密。でも、とても可愛い言葉をくれたよ?」
人差し指を立てて口に当て、無駄にイケメンオーラを振り撒いてくる。
寝顔はまだいいけど、寝言は流石に恥ずかしい……!変な事を言ってないといいんだけど!そう思いながら体を起こすと、幼い子にするように頭をよしよしと撫でられた。本当に何を言ってしまったんだ私は。
「ちなみにウリクセス様のご用件は?まさか私の夜更かしチェックの為だけに来たのでは無いでしょう?」
「うん。何か出来る事をしたいと言ってくれたタルジュに、早速お願いしたい事があってね。タルジュにも公務を手伝って貰う事になったから」
「はい分かり……え、公務?」
「そう。まずはお得意の読書で、マニュス帝国の歴史と最近の政策について勉強してくれるかな?タルジュのスピードなら1週間もあれば読めると思うから、来週には今後の政策について意見を聞きたい」
私の机の方を見ると、周りに本の山が作られて要塞のようになっていた。多分読めると思うけど、いきなり政策のご意見番をする事になるとは予想外だ。今まで政策なんてノータッチで生きてきたのに、こなせるのだろうか。
「ちなみに、どのような政策の意見を求められているの?それにこんなお子様の意見なんて、反映されないと思うけど」
「とりあえず軍事要素以外全て、かな?反映されるかどうかはタルジュ次第だよ」
「ハードル高っ!!」
「ふふっ、アズィーム山脈からの監視人と名高いタルジュなら大丈夫だと思うよ。頑張ってね」
ああ昨夜書いていた小説がいい所で止まってるのに……と思ったがしょうがない。今日からはどっぷり歴史漬けだ。気合い入れて読まなければ!




