第97話:神域の檻と歪んだ聖女
【サングリア領内・大聖堂最深部】
「シアン……最初から仕組んでいたのか……ッ!」
玉座に鎮座する元・仲間シアン。だが、その額に開いた【第三の神眼】からは禍々しい光彩が溢れ、かつての可憐な僧侶の面影はどこにもない。
『その通り。私の目的は【深層】の器。【ランカーズ】の噂を聞いたときに貴方のスキルに目を付け、パーティへの加入を決めた。』
シアンの口から幾重にも重なる複層音が響く。
『そしてスキル覚醒の為、少々仲間をいじらせてもらた。ゲステスの悪時知恵を増幅し、ガルガンの貴方への嫉妬心を増幅させた。あの【深層】への落下は必要不可欠だった。』
「……なんだと……!?」
「あははっ! 最高だろう山城クン! 君は最初から【器】として選ばれていたんだ!!....まぁ少し危うい力だからもう一つの保険として桐原クンも育成したんだけどね。」
高笑いするシュウの言葉が、リンドの胸を鋭く穿つ。
あの裏切りの真実。俺や桐原を利用した最悪の実験。全てが繋がり、俺の怒りは限界を超えた。
「許さない……絶対に……お前たちを生かしてはおかないッ!!」
ゴオオオオオオオオオッ―――――ッ!!
リンドの体からドス黒い炎のような魔力が爆発する。
左目の【深眼】が最大出力で発光し、大聖堂の空間全体を【深層世界】へと強制塗り替え(侵食)していく!
『【深層侵食】を開始――現象無効化スキルの「概念破壊」を実行』
「オオオオオオォォォォォォッ!!」
リンドが解き放った死線殺術の漆黒の刃が、先ほどは無効化された教皇の透明な膜――【絶対神域】をミシミシと亀裂させ、真っ向から叩き割る!
『……ほう? この世界の「理」を上書きしているというのか……!?』
初めて教皇の複層音に動揺が走る。
神の領域すら強引に【捕食】の概念で侵食し、リンドは殺意のままにシアンの肉体へと肉薄する!
「シアン……お前は必ず俺が殺す.....!!覚悟しろ....!!」
俺は【深層】の世界で姿をくらます。シアンは魔力で俺を感知しようとしているようだが無駄だ。この世界にはおぞましい程の【深層】の魔力が漂っており、俺自身も同様の魔力の為、どこにいるかは一切わからない。
「終わりだ...死ね!!」
俺はシアンの背後から首をはねる。しかし。
『【神域】。』
その時、俺が展開した【深層】の世界は崩れ、逆に目を覆いたくなるほどの眩い光の世界に包まれた。
「お前も.....世界を創れるのか....!!」
俺は異変に気が付いた。神域の魔力にはそこそこ慣れたつもりだったが、違う。この世界では俺は圧倒的に不利。神の魔力が体を蝕む。
『この【神域】では動けないか王。ならば....」
シアンはシュウの方を向くと、見えない斬撃でシュウの片腕を吹き飛ばす。
「....!!おおぉ!」
シュウはいきなりの攻撃に対応できず、片腕を失う。しかし依然として笑顔は崩さず、ここからの展開に心を躍らせていた。
「....何の真似だ?」
『今の状態では【神域】に適応するのに精いっぱいでつまらない。これを食べよ。』
そう言ってシアンは切り飛ばしたシュウの片腕を俺に差し出す。以前シュウの血を取り込んだ時に使えたあの力....腕1本分なんて【捕食】したらどんな力が出るかわからない。
「.....後悔するなよ。」
俺は迷わずシュウの腕を【捕食】する。
そして俺は桐原との戦い以来の【混沌の王】へと昇華した。【神域】の力を取り込んだことによってシアンの作り出した世界に即座に適応し、問題なく動けるようになった。
「あれれ教皇サマ....【間違った王】にしちゃうんだ....僕はあんまり好きじゃないなぁあれ....ん?」
シュウは落胆しかけたが、すぐに以前との違いに気づく。
俺の眼に新しく宿った【深眼】が新たに体に流れた【神域】の力と結びつき、黒と金の魔法陣が目の中で二重に重なる。
「全て視える....これが、全てを司る最強の眼....【神深眼】だ.....!!」
『これでようやく対等に戦えそうだな。楽しませてくれ。』
刹那、リンドとシアンがぶつかり合う。




