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第90話:開戦の号砲と鉄の境界


【聖教国・サングリア国境・『白銀の断層』】


ズガァァァァァァンッ―――――ッ!!


サングリア国境を遮る、数千の極大神聖結界と白亜の巨大要塞。

かつて一度たりとも外敵の侵入を許したことのない絶対防衛線が、一瞬にして音を立てて崩壊した。


「ヒッ……ひぃぃぃっ! 結界が一撃で……撃破されただと……!?」


「敵は一人だ! 構えろ、撃てぇぇぇッ!!」


蜂の巣をつついたような騒ぎの中、無数の聖魔導砲が放たれ、光の雨が一点へと降り注ぐ。

しかし――その光の濁流は、黒い外套を羽ばたかせる男の数メートル手前で、まるで擦りガラスに触れたかのように砕け散り、消滅した。


「……【深眼】。死線(ルート)の途絶を確認」


左目の漆黒の魔法陣を怪しく光らせ、歩みを進める【捕食の王】リンド。

彼が軽く一歩を踏み出すごとに、空間そのものが波打ち、立ちふさがる数百名の聖騎士たちが吐血して次々と叩きつけられていく。


「無駄だ。俺の視界に入った攻撃も、お前たちの命も……既に死んでいる」


問答無用の圧倒的無双。

もはや軍隊という概念すら意味をなさず、リンドはただの「災害」としてサングリア領内へと足を踏み入れていく。


【ウルド〜サングリア国境付近】


「……ひどい……」


リンドの後を追い、国境へと辿り着いたアイリスたちは、言葉を失ってその光景を見つめていた。

崩壊した要塞、なぎ倒された何百もの聖騎士たち、そしてダンジョンの残骸。


「一人で……たった一人でサングリアの国境防衛線を壊滅させたというのか……!?」


「こんなの.....あんまりだよ.....」


ダイダラとエルニャが震える声で呟く。

ライオは血の匂いが充満する荒野を見つめ、苦々しく拳を握りしめた。


「……あいつの魔力、港にいた時よりもさらに禍々しく膨れ上がっていやがる。完全に復讐の鬼神になり果ててやがるぞ……!」


「……急ぎましょう」


白銀の髪を赤く輝かせ、【魔法の王】として覚醒したアイリスが、静かだが揺るぎない眼差しでサングリア本国の方角を見つめる。


「リンドがどれだけ闇に落ちても、どれだけ世界を壊しても……私はあいつを一人で死なせたりしない。絶対に追いついて……あいつの心を取り戻すわ!!」


「おうッ! どこまでも付き合うぜ、アイリス嬢ちゃん!!」


サウス、ナハムも合流し、リンドが切り拓いた血の道を辿り、アイリスたちもまた、惨劇の舞台――サングリアの渦中へと飛び込んでいくのだった。


【サングリア領内・大聖堂前広場】


一方、サングリアの中心地。

押し寄せるリンドの凄まじい魔圧を感じ取りながら、大柄な女騎士ラーミリアが巨大な鉄球を肩に担ぎ、獰猛な笑みを浮かべて立ち上がった。


「ヘッ……いよいよお出ましだなぁ! 派手に荒らしてくれやがって....シュウ!!あたしから出るけど文句ねぇよなァ!!」


「あはっ、いいよラーミリア! 君の『特製のおもちゃ』たちと一緒に、最高にド派手なお迎えをしてあげておくれ!」


極限まで強さを求めた【捕食の王】と、血に飢えたサングリアの猛者たち。

ついに、世界の命運を賭けた【サングリア決戦】の最初の激突が始まろうとしていた――!

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