第89話:黒き巡礼と殺戮の残響
【ウルド〜サングリア国境地帯・『断崖の魔宮』】
ズガァァァァァァンッ―――――ッ!!
かつてSランクパーティすら足踏みした大ダンジョンの最深部が、地響きと共に内側から崩壊した。
「ギ……ガァァァァァッ……!?」
山ほどもある超巨躯を誇る階層ボス【巌竜グラニテス】が、自慢の超硬質甲殻をいとも易々と粉砕され、絶叫を上げる。
「無駄だ。俺の【深眼】からは、お前の分子構造の隙間も、死の概念すらも全て見えている」
暗闇の中、怪しく金色と漆黒の紋様を浮き立たせるリンドの左目――【深眼】。
リンドが軽く指を薙ぎ払った瞬間、空間そのものが削り取られ、巌竜の巨躯がサイコロ状に断ち切られて肉の塊へと変わった。
『【巌竜グラニテス】の【捕食】を完了――』
『スキル【金剛不壊】【地脈共鳴】を獲得――』
飛び散る血液と魔力を無感情に吸い上げながら、リンドは己の掌を見つめる。
そこに宿る魔力は、数日前とは比べものにならないほど濃密で、禍々しく膨れ上がっていた。
(足りない……まだ足りない……! サングリアを、教皇を、シュウを……あの国に関わる全ての狂気を根絶やしにするには……もっと絶対的な強さが要る……ッ!)
仲間を遠ざけ、少女カティアの命と遺志を背負った男の胸に燃えるのは、一切の妥協を許さない純粋な「復讐心」と「破壊衝動」だけだった。
【ウルド国境沿い・裏社会の無法都市】
深夜、サングリアへ人買いや違法薬物を流していた悪徳組織の拠点を、黒い嵐が襲った。
「ギャァァァァッ!? な、なんだこいつは……ひぃぃぃっ!」
「助け……誰か助けてくれぇぇぇッ!!」
悲鳴と狂乱の怒号が響き渡る。
リンドは一切の躊躇なく、そこに群がる犯罪者たちへ【深眼】の視線を向けた。
ズババババババババッ――――ッ!!
「……ガハッ!?」
視界に入った数十名の男たちが、理由も分からぬまま一瞬で全身の血を噴き出して倒れていく。
慈悲も、問答もない。ただの「効率的な作業」として、街の毒虫どもを殺戮し、その肉体を食らいスキルとエネルギーを奪い去っていく。
「ひ……ヒィィッ! 頼む、命だけは……! 金ならいくらでも――」
命乞いをする組織のボス。その首元を掴み上げ、冷徹な一言を告げる。
「サングリアへ続く地下ルートと、残りの拠点を吐け。……断れば、お前の魂ごと喰らう」
「喋る! 喋るからぁぁぁッ!!」
感情を殺し、ただひたすらに「強さ」と「復讐」だけを求めて殺戮の夜を往くリンド。
その背後は崩壊したダンジョンと死体の山が築かれ、もはや人間どころか魔王すら凌駕する「災厄の鬼神」としての噂が、サングリア国境へと瞬く間に広がり始めていた。
「....おいシュウ。なんだあの化け物は。」
ラーミリアは感じ取ったドス黒い魔力に冷や汗をかいていた。成ってしまった【王】の力にサングリアの民も皆不安を感じていた。
「器が成った....教皇サマの念願が叶ったんだね....!後は教皇サマがあの力を取り込めば.....サングリアの悲願は達成される!!....それにしてもなんて美しい魔力の塊なんだ....!」
シュウはラーミリアの言葉を遮り、黒く燃え上がる魔力をうっとりと眺めていた。
「これは.....何が起きているのかね。」
ソノザキもこの事態に反応する。
「さぁ、最後にこの力をものにするのは誰かな....?今から楽しみだなぁ...!」
「....異常者が。」
シュウは笑う。その光景を見て、ラーミリアが声を漏らす。
この世界で最大級の戦争が静かに始まろうとしていた。




