第86話:覚醒する天害と悲痛の咆哮
【ウルドとサングリアの中間地帯・旧宿場町郊外】
「グガァァァァァァァッ……!!」
3体のパーツが不気味な魔導糸で繋ぎ合わされ、異形の巨大な6本腕の悪魔となった合体傀儡が、咆哮と共に大地を叩き割る。
「なんと.....! 衝撃波が……ッ!?」
ダイダラが巨躯でアイリスとエルニャを庇い、血を吐きながら膝をつく。
「……くそッ! 人の肉体を玩具みたいにいじくり回しやがって……! 救ってやることもできねぇのかッ!!」
ライオが悔しさに歯を食いしばる。
だが、異形の人形が振り上げた巨大な腕が二人目掛けて振り下ろされようとした瞬間――!
「……まだ、終わりじゃない!」
アイリスの目が煌々と赤く染まり、【悪魔の制約】を発動する。そこにはいつもと違う、リンドという大切な者を失いかけた苦しみが重なり、さらに【制約】の制限を解除される。
「これが....人間一人で出す魔力なのか....!?」
ライオが驚きのあまり声を漏らす。そこに立っていたのは、白銀の髪の毛を赤く染め、まるで【深層】のような赤い紋様を肌に発現させたアイリスの新しい姿。
「これが私の新しい力....【魔法の王】の力よ!!!」
アイリスが手を振り上げると、無数の火の玉が浮かび上がる。上げた手を下したとき、火の玉が異形を目掛けて襲い掛かる。
ゴォォォォォォォォォンッ―――――……!!
「アイリス殿が....成ったのか....。」
ダイダラはリンドが見せた【深層化】を思い出した。そう、アイリスは自らの力と想いで【王】の力を覚醒させたのだった。
【ウルド王国・夜の港町沖・密航船】
「あ……あああぁぁぁぁぁぁあああ!!」
カティアの悲痛な叫びと共に、彼女の左目――金色の魔法陣から解き放たれた紫黒の光柱が、夜空と海を切り裂いた。
『天害級スキル』【神眼】。
その目から出る圧倒的で膨大な魔力が、巨大な密航船を木っ端微塵に粉砕していく。
「カティア……ッ! やめろ、カティア!!」
父親の無残な遺体が海へ落ちていく中、なんとか正気を取り戻したリンドは吹き荒れる暴風を押し切り、鉄籠を破壊して狂乱する少女の手を掴もうと必死に手を伸ばす。
(俺のせいだ……! 俺がカティアの前で……怒りに任せてあいつを殺したから……ッ!)
自分が「人間」に戻ろうとした結果が、少女に絶望を与え、その禁忌の力を暴走させてしまった。
痛恨の悔恨がリンドの胸を刺し穿つ。
「嫌ぁぁぁぁっ! 触らないでぇぇぇッ!!」
ズガァァァァァンッ――――ッ!!
暴走した衝撃波がリンドの身体を吹き飛ばし、海面へと叩きつける。桐原にも匹敵する、あるいはそれすらも凌駕する魔力、そして暴走を抑えるには幼すぎる少女の体。全てが絶望的に嚙み合った最悪の結末だった。その力に圧倒されていると、どこからともなく天使の羽を羽ばたかせた男がやってきた。
「異常な魔力を感じてやってきたら....山城クン、これって一体何事なのかな?」
「...!?し、シュウ...!?」
目の前に現れたのはサングリアの伏兵、シュウ。サングリア付近で起きた魔力の暴走を一早く察知し、偵察に来ていた。
「へぇ....【神眼】....かな。クラーシャはこんないたいけな少女にひどいスキルを与えるんだね。これも君の言う【世界の均衡】なのかな...全く....。」
シュウはぶつぶつ独り言を始める。
俺がなんとかしないと、そう思った俺は何度もカティアに近づこうと試みる。だが何度試しても膨大な魔力によって生成された壁が寄せ付けようとしないどころか、逆に吹き飛ばされてしまう。
「山城クン、そんな猪突猛進じゃ超えられないよ....さぁ、今度こそ【深層の王】の力を見せておくれ!」
シュウはこっちに向かって語りかける。
(うるせぇ....あの子は....カティアは俺が救わないと....)
何度も吹き飛ばされ、フラフラと立ち上がったとき、頭の中に声が響く。
『あの子を【捕食】し、【神眼】を手に入れてください。暴走が始まった時点でもうあの子は助からない...。』
(....!!この声は....女神!?)
あの時に夢で聞いた女神の声、今頭の中にはっきりと聞こえてきた。
(あの子を食えって言うのか...!?そんな事できるかよ....!!)
『【神眼】の扉が開かれてしまってはもうこれしかない....貴方にしか止められないのです。急いで...世界が崩壊する....!』
そう言い残し、また声は途切れる。
(それしか....無いのか!?クソ.....クソぉぉぉぉぉぉ!!!)
俺は暴走し叫ぶカティアに視線をやる。もう救うには手段が無いことを悟り、【超深層化】を開始する。
その姿は桐原よりも凶悪な、まさに【深層】の支配する魔王の姿だった。
「....いいねぇ!!やっぱり君が【深層の王】に相応しい!!僕の目に狂いはなかったんだね!!」
シュウが興奮するのを横目にカティアに近づく。
「カティア....すまない。俺が....責任を負うよ。」
俺が振るった剣が魔力の壁にヒビを入れていく。
そして間もなく、壁が破壊されたのだった。




