第85話:死線を越える絆と追撃の灯火
【ウルドとサングリアの中間地帯・旧宿場町郊外】
「はァァァァァッ!!」
アイリスの放った光の矢が空を穿つ。
しかし、中央の女人形が展開した【断空】の刃によって矢は寸前で切り裂かれ、その余波がアイリスの頬をかすめた。
「くっ……! 攻撃が届かない……!?」
立ちふさがるラーミリアの【廃棄転生者人形】3体。
左の巨漢人形が【反射】でダイダラの巨大斧を弾き返し、右の男人形が散らす【死の霧】が周囲の草木を瞬時に枯らしていく。
「チッ……! スキルの性能が狂ってやがる……ッ!」
ライオが苦々しく噛み分けた唇から血を流す。
しかし、アイリスの瞳に迷いはなかった。
「……あいつらは、サングリアに心も身体も奪われた犠牲者……! これ以上、あいつらの好きにはさせない……ッ!」
アイリスの胸元で、リンドから譲り受けた魔導具が強く輝き出す。
「エルニャ! ダイダラ! ライオ様! 私が【死の霧】を浄化する! 一瞬だけ隙を作るから、三人で同時に叩き込んで!!」
「おうよッ! アイリス嬢ちゃんの合図に合わせるぞッ!!」
アイリスが聖なる光の波動を全方位に放ち、男の【死の霧】を力ずくで吹き飛ばす。
視界が開けたその一瞬――!
「「「うぉぉぉぉぉぉッ――――――!!」」」
ダイダラの超重撃が【反射】の巨漢のガードを強引に打ち砕き、ライオの神速の突きが【断空】の女人形の核を貫き、エルニャの氷結魔法が最後の男人形を凍てつかせた。
ズガァァァァァァンッ―――――ッ!!
爆音と共に崩れ去る3体の傀儡。
荒い息をつくアイリスたちの前に、脱走者カルノが駆け寄る。
「や、やったぞ……! ラーミリアの傀儡を撃破したぞ……ッ!」
「ハァ……ハァ……!ダメ!!来ないで!!」
カルノの制止し、アイリスは爆発による粉塵の中で、微かに動く魔力を感知した。
バラバラに壊された3体の人形のパーツが蠢き出し、やがて1つの異形の巨大な人形になった。
「....なんてひでぇ姿だ....。こんな姿にされて成仏なんてできやしねぇだろうな....。」
ライオは目を覆いたくなるような異形の誕生に声を漏らす。
【ウルド王国・夜の港町】
波音が響く夜のウルド港。
沖合へ向かって静かに進む、サングリア行きの大型密航船。
その船の甲板で、豪奢な服を着た一人の男――カティアの父親が、札束の詰まった革袋を愛おしそうに抱えながら不気味に笑っていた。
「ヘヘヘ……あんな不気味な目のガキでも、サングリアのバイヤーに売れば大金になる……! これで俺はサングリアで大金持ちだ……ッ!」
娘を売った金で借金を踏み倒し、自分だけサングリアへ高飛びしようとする最低のクズ親。
だが、男が歓喜に酔いしれていたその時――。
ズシャァァァァァンッ――――ッ!!
海面が爆発したかのように弾け飛び、漆黒の翼を広げた【捕食の王】リンドが、密航船の甲板へと降り立った。
「……お前が、カティアの父親か」
「だ、誰だ貴様.....!?」
夜の海風よりも冷たい、絶対的な殺意を秘めた声。
突如現れた怪物の圧に、男は札束を抱えたままガタガタと震え上がったのだった。
「....その金はどうした?カティアが待ってるぞ。」
「なぜ娘の名を...?まぁいい、いいか、あのガキは俺の娘だ!!どうなろうが俺の勝手だろうがよ!!」
男から出たのは狂気の言葉。この世界は狂ったやつが多すぎる。そして同時に後ろから鉄の籠に閉じ込められたカティアが姿を現す。
「な.....カティア!!?」
しくじった。父親がこうだとわかった時点で家に警備用の死霊の一匹でも出しておくべきだった。誘拐されたカティアはただ涙を浮かべている。
「お父さん.....なんで....なんで私を売るの....?」
「黙れガキ!!!お前の存在価値はそのよくわからん目くらいなんだよ!!おとなしく俺の金になりやがれ!!」
実の娘に向かってかける言葉なのか。俺は怒りで再び理性を失いかけていた。
「テメェ....殺す!!」
俺は怒りに身を任せ、不覚にもカティアの目の前で父親を殺してしまった。その瞬間だった。
「あ....あぁ.....ああああぁぁぁぁぁぁあああ!!」
ずっと隠していた左目から今までに感じたことのない、膨大な魔力が溢れ出した。




