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第84話:闇の巣窟と約束の行方


【ウルド王国・スラム街『地下裏カジノ』入口】


夜の帳が降り、人目につかない廃墟の地下。

カティアに父親の捜索を約束したリンドは、カティアが寝た後にフードを深く被り、怪しげな男たちが行き交う隠し扉の前に立っていた。


(あの少女の父親……そして『天害級スキル』を持つカティア。スラムの人間を売っ払おうとしていた昨夜の連中といい、このカジノの裏でサングリアや闇の組織が糸を引いている可能性が高い……)


昼間にカティアからもらったパンの温もりと、言葉が胸に残っている。

【捕食】の暗い衝動はすっかり鳴りを潜め、今の彼を満たしているのは「大切な約束を守る」という、純粋で人間らしい意志だった。


「おい、見ねぇ顔だな。ここはフラッと入っていい場所じゃねぇぞ」


立ちふさがる二人の巨漢用心棒。

リンドは一言も発することなく一歩踏み出し、瞬く間に二人の首元を掴むと、そのまま壁へと叩きつけて気を失わせた。


「……すまんな。急いでるんだ」


【地下裏カジノ・フロア】


扉を押し開けると、そこには熱気と欲望、そして煙草の煙が充満する巨大な賭場が広がっていた。

ルーレットやカードに狂喜乱舞する富裕層やならず者たち。


リンドは【捕食の王】の感覚を研ぎ澄まし、周囲の気配を探る。

【賢王】のスキルが瞬時に周囲の人間たちの感情や魔力光波を解析し、奥のVIPルームから漂う異質な「鉄と血」の匂い、そして怯える人々の気配を察知した。


(賭場はただの表張りか。奥に……捕らえられた人間たちがいるな)


人混みを掻き分け、VIPルームを守るガードマンたちを【時間操作(クロノス)】の一瞬で無力化しながら奥へ進む。

重厚な扉を蹴り破ると、そこには檻に入れられた大勢の人間と、奴隷競売の準備を進めていたカジノの支配人――ブローカーの男が目を丸くしていた。


「なっ……なんだてめぇは! ガードマンはどうした!?」


「カティア・ユージーンの父親を探しに来た。……この中にいるか?」


冷徹なリンドの言葉に、支配人はハッと青ざめ、すぐさま懐から魔導銃を取り出そうとする。

だが、次の瞬間にはリンドが眼前に割り込み、その手首を容易く捻り上げていた。


「ギャァァァァッ! か、カティア……!? あの『天害級』のガキの身内か……ッ! 親父なら……親父ならもうサングリアへの船で向かっちまったよ!!」


「……何だと?」


リンドの瞳に、静かだが鋭い怒りの炎が灯る。


「今夜の便でサングリア本国へ送られる手筈だ! もうウルドの港を出港してるはずだ!! た、助けてくれぇっ!」


「……なるほど。繋がりは確定か」


リンドは支配人を気絶させると、檻の鍵を破壊して捕らえられていた人々を解放した。

カティアの父親が何故サングリアへ向かったのかはわからないが、手がかりと「行くべき理由」は完全に繋がった。


(待ってろカティア。父親は必ず連れ戻す。……サングリアに着いてしまう前に事をすませる...!!)


目的を完全に定めた【捕食の王】は、怒りと誓いを胸に、夜の港へと向かって駆け出すのだった。

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