第83話:廃棄の人形と光の導き
【ウルドとサングリアの中間地帯・旧宿場町郊外】
夜が明け明朝、アイリス達はリンドを追ってウルドを目指していた。ダイダラを先頭に歩いていく彼らの前に突如として謎の影が立ちふさがる。
「....高濃度の魔力を探知。排除対象かどうかを検証します。」
「!?……何なのよ、こいつらは……!?」
アイリスはすかさず戦闘態勢に入る。
「これは.....ラーミリアの廃棄転生者か...!?」
カルノが叫ぶ。立ち塞がったのは、ラーミリアが用意したサングリアの【廃棄転生者人形】3体。
実験に耐え切れず廃棄された元・転生者たちの肉体を繋ぎ合わせ、狂気的なチートスキルを宿した最悪の傀儡だ。
「……カルノ! こいつらのスキルは!?」
「気をつけてくれ、ライオ様! 左の巨漢はあらゆる攻撃を跳ね返す【反射】! 中央の女は空間を切り裂く【断空】! そして右の男は……周囲の生命力を吸い上げる【死の霧】を持っている……ッ!」
傀儡でありながら、一つ一つが危険すぎるチートスキルを行使してくる。
「……リンドの元へ向かう邪魔をさせるわけにはいかない……! ダイダラ、エルニャ!ライオ! ここを突破するわよッ!!」
アイリスたちはリンドに追いつくため、最悪の三大人形との激戦へと身を投じた――!
【ウルド王国・昼の市街地】
「……ハァ……ハァ……」
日差しが照りつけるウルドの街並みを、リンドはフードを深く被り、幽鬼のように彷徨っていた。
昼間の陽光ですら、暴走しかける【捕食】の暗い情動を押し殺すことはできず、道ゆく人々が放つ微かな魔力やスキルにすら、過剰に腹が減る感覚が襲いかかる。
(俺は……いつまで耐えられる……? いつまで『人間』でいられる……?)
己の手を見つめ、苦痛に顔を歪めるリンド。
その時――衣類をそっと引っ張る、小さな感触があった。
「……あの……お兄さん……?」
振り向くと、そこには昨夜、崩壊したスラム街で恐怖に震えていたあの少女が立っていた。
少女は小さな手にしっかりと包みを握りしめている。
「……お前……なぜここに……」
「昨日は……助けてくれて、ありがとうございました! これ……お礼に、作ったパンです……!」
差し出されたのは、少し形がいびつな、焼きたての温かいパンだった。
昨夜、自分は化け物の泥に塗れ、一歩間違えればこの少女すら喰らい殺そうとしていたというのに。少女の瞳には、化け物への恐怖ではなく、純粋な「命の恩人」への感謝の光が宿っていた。
「……俺は……お前に……ひどい顔を見せたはずだ……」
「……怖かったけど、お兄さん、すごく悲しそうな顔をしてたから……。悪い人じゃないって、分かります……!」
少女のまっすぐな言葉が、胸の奥深くに突き刺さる。
差し出されたパンの温もりが、冷え切りそうだったリンドの「心」に、微かな光を灯すのだった。
俺は少女の家に入り、一緒に食事をした。【捕食】の欲が少し消えて、ようやくまともに話せるようになった俺が少女に問いかける。
「昨日....あんな夜にどうしてあんな場所にいたんだ。」
「私...見ての通り親がいないんです。....いないというより、消えたんです。あのスラムで...」
確かに、家には少女一人で、複数人で生活をしているような感じもない。
「親を探しに行ったのか?」
「はい。あそこでは毎晩【スラムカジノ】という違法な賭博を開催してるみたいで....そこで父を見かけたって聞いて...それで...。」
泣きそうになりながら話す少女を見て俺は気を逸らせるように話を変える。
「そ、そうだったか。それにしても昨日の奴らのお前を売るとか....それは意味わかるか?」
「それは.....多分これのせいだと思います。」
そう言って少女は前髪で隠れた左目を見せてくれた。その目はとても異質で、黒目が金色の魔法陣のようになっており、常に複数の魔法文字が浮かんでいた。
「な.....なんだこれ....!?」
俺は初めて見る魔法陣に興味が湧いてしまい、つい子供のように見入ってしまった。
「”天害級”と呼ばれるスキル....だそうです。私にはこの文字が読めず、スキル説明も魔法文字なので使い方もわかりません。でも....すごい価値だって聞いてます...。」
少女は目を隠し、少しうつむく。
「すまん....つい見入ってしまった。そうか....それで囲まれていたのか....。」
俺は色々考えたが、今は完全な理性の中で、この少女に心を救われた恩返しを考えた。
「なぁ...もしよかったら俺が父親を見つけてきてやろうか?....俺はリンドだ。名前を教えてくれ...。」
「!!.....いいんですか。私....カティア。カティア・ユージーン。スラムは危険....だけど、リンドさんなら....大丈夫ですよね。」
「あぁ、任せてくれ。カティア。父親を見つけて見せるよ。」
「ありがとう....ございます....うぅ....」
泣き出してしまったカティアの背中をさすりながら、次に向かう場所を決めた。




