第82話:破滅の足音と繋がる過去
【ウルド王国・崩壊したスラム街外縁】
「ハァ……ハァ……ハッ……ッ!!」
血の味と、犯罪者どものスキルが脳内に流れ込んでくる。
己の血濡れた手を見つめながら、リンドは自身の胸を掻きむしるように押さえた。
(……俺は……さっき、何をしようとしていた……!?)
脳裏に焼き付く、恐怖に引きつったあの少女の顔。
もし……あと一瞬、理性のブレーキが遅れていたら、俺は無抵抗の少女すら【捕食】して己の糧にしていた。
(サングリアの奴らを殺す……神殺しの計画を叩き潰す……そのために力を手に入れる……。……だが、俺は……俺はいったい何になり果てようとしている……ッ!?)
【捕食の王】へ進化したことで、食欲と強さへの渇望はかつてないほど巨大化していた。
魔物だけでは足りず、人間を喰らい、ついには罪なき者にまで牙を向きかけた己の醜悪さに、強烈な自己嫌悪と眩暈が襲いかかる。
「くそッ……! くそぉぉぉぉぉッ――――!!」
闇夜の空へ向かって悲痛な咆哮を上げるリンド。
その声は寝静まったウルドの街に遠く、虚しく響いた。
【ウルドとサングリアの中間地帯・旧宿場町】
一方、リンドの残した荒々しい痕跡を必死で追い続けていたアイリスたち。
ライオの連れてきたフードの男――かつてサングリアの実験場から逃げ延びた脱走者『カルノ』を囲み、焚き火の前で暗い表情を浮かべていた。
「……カルノさん。あなたがいた頃のサングリアって、本当にそんなにひどかったの……?」
アイリスの問いに、カルノは身体を酷く震わせ、焚き火の炎を見つめながら低く呟いた。
「……ひどい、なんて言葉じゃ言い表せない。サングリアは……『転生者』を神から授かった極上の部品としか思っていないんだ」
カルノが胸元の服を捲ると、そこには肌を刺し貫いた無数の痛々しい縫合跡と、魔導回路の痛ましい痕が刻まれていた。
「表向きは神から授かった特殊な戦士を育て、世界を魔物から救う救世主、しかし裏では生きながら【転生者】の持つチートスキルを体内に埋め込まれ、適合しなければ即座に廃棄され、別の転生者の肉体に繋ぎ合わされる……。非人道的の言葉すら生ぬるい、最悪の国だ...。」
「なっ……なんて狂った国だ……ッ!」
ダイダラが拳を固く握りしめ、憤怒に身体を震わせる。
「……リンドは……あいつは一人でそれを背負おうとしている。サングリアの狂気も、世界の運命も……全部一人で抱え込んで、化け物になってでも戦おうとしてるんだ……!」
ライオが苦々しく吐き捨てる。
アイリスは胸元をギュッと握りしめ、決意を秘めた瞳で夜空を見上げた。
「……リンドは私たちを足手まといと言った...。でもきっと本当は危険から私達を遠ざける為に突き放したんだ!....自分だけ危険を冒すなんてこと....させない、させたくない!!私達は....仲間なんだから!!」
「おおおッ!」
「私も....戦う!!」
理性の境界線で孤立するリンドと、彼の「心」を取り戻すために急ぐ仲間たち。
そんな中でサングリアの刺客がリンドを追ってウルドへ迫っていた。




