第81話:貪食の旋風と地下の実験場
【ウルド〜サングリア境目・古代大鍾乳洞『青の深淵』】
ズガァァァァァァンッ―――――ッ!!
「グガァァァァァッ……!?」
氷の結晶を纏う体長二十メートルの大蛇――【氷獄大蛇】が、喉元を巨大な影に噛み千切られて絶叫する。
「ハッ……冷気系の極大スキルか。悪くねぇ……ッ!」
氷の血飛沫を浴びながら、リンドは狂気的な笑みを浮かべてボス魔物の血肉を貪り食う。
『【氷獄大蛇】の【捕食】を完了――』
『スキル【絶対零度の息】【氷晶装甲】を獲得――』
大迷宮『奈落の底』を飛び去ってからわずか数日。
リンドはサングリアへと直接向かうのではなく、大陸各地の難攻不落と称される深層ダンジョンを次々と襲撃し、未喰らいのボス魔物を片っ端から屠り去っていた。
(まだだ……! まだ足りない……! シュウも、あの国にいる化け物どもも、全員を圧倒する圧倒的な力が要る……ッ!)
魔導書に載るような伝説のボスすら単身で作業のように狩り尽くし、更なる強いスキルと魔力を貪欲に喰らい重ねていく。
その身から放たれるオーラは、もはや人間どころか魔王すら凌駕する禍々しい「災厄」そのものへと変貌しつつあった。
【聖教国・サングリア・地下実験施設】
無機質な石造りの地下空間。
怪しげな薬液が満たされた巨大なガラス管が幾つも並び、その中にはウルドから連行された【ランカーズ】のガルガン、ナスタ、ゲステスたちが力無く浮かんでいた。
「く……クソッ……身体が……動かねぇ……!」
意識を取り戻したガルガンが、管の中から壁越しに毒づく。
彼らの全身には無数の紫色の魔導糸が打ち込まれ、体内に【転生者】の因子が埋め込まれ始めていた。
「フフフ……無駄だよ。君たちの優れた因子は、教皇猊下の新たな『パーツ』として統合されるんだからね」
不気味な笑みを浮かべながら現れたのは、シュウ。
そしてその隣には、大柄な女騎士ラーミリア・ササキが退屈そうに巨大な鉄球を弄んでいた。
「シュウ、まだ例の王様と遊んできちゃダメなのか!?【王】を冠する実力....早く戦りたくてたまんねぇよ!」
「そう焦らなくてもすぐに戦うことになるからもう少し待ってよラーミリア。きっと君が最高に気に入る玩具になるからさ....。」
狂喜に瞳を輝かせるシュウ。
「ラーミリア、君の『おもちゃ』たちの調整を急ぎなよ。彼を誘い込むのにも使えるんじゃないのかな....?」
「サングリアからの刺客がくりゃ無視するわけにはいかねぇもんな....ハッ、それで潰れなきゃいいけどな!」
力を求めて各地のダンジョンを荒らし回る【捕食の王】リンドと、着々と洗脳兵器を完成させていくサングリア。
激突の瞬間に向け、互いの暴威が膨れ上がっていく。
その夜、前国王アダムスによる悪政により犯罪の温床となったウルドのスラム街にて、一人の少女が複数の男性に囲まれていた。
「へっへっへ、もう逃げ場無いぞお嬢ちゃん....♪」
「嫌....来ないで....!!」
「こいつをサングリアに売っぱらえばとんでもねぇ額の金が手に入る....俺達ァラッキーだな!」
特殊な”目”を持つその少女は今にも捕らえられそうなところまで追いつめられる。もうダメだと思ったその時だった。
----ザシュッッッッ!!
その場にいた犯罪者たちが次々と倒れていく。何が起きたかわからない少女が辺りを見回すと、積みあがった廃棄品の上に男が立っているのが見えた。
「あの....ありがとうございます!!おかげで.....え?」
少女が礼をしようとした途端、その男は犯罪者たちの死体を食べ始めたのだ。その異様すぎる光景に少女は腰をぬかしてしまい、動けなくなる。
やがて死体が骨だけになると、その男はこちらを見て少女に襲い掛かろうとした。
(.....何をしてるんだ俺は!!こんな...何の罪もない少女を食おうとして.....!?)
その剣が少女を切る一歩手前で、ギリギリ残っていた理性がその狂気を寸前で止めた。
「....あ.....あ.....」
少女はあまりの恐怖にもはや言葉を発することもできなくなっていた。
「....す、すまない....。俺は....俺がどうかしていた。こんなとこにいないで早く....帰ってくれ....!」
俺は残った理性で少女に話しかけると、少女は気を取り戻したのかその場をフラフラと走り始める。
俺はそれを見て安堵した。が、その直後またあの”狂気”が表に出始め、犯罪者を食らいはじめたのだった。




